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受付嬢三年目編・大会二日目

 サタナースの姿やベンジャミンの姿もさっきチラっと映っていた。ほんの一瞬だけれど、いたことが確認できたので、やっぱりこの魔具は便利だなと改めて思う。丸い球体が五台くらいで動いているのか、空からの映像も披露されていた。ララに乗って競技場の上を飛んでいた時に見たような光景が広がっている。


「相変わらず彼の人気は凄いね」

「そ、そうですね。……ケッ、キャーキャーキャーキャー言われちゃって」

「うん? 何か言った?」

「いえ何も」

「どんな競技になるんでしょうね」


 裁判院の人が楽しみですねと言うと、ちょうど券を買いに人が来たので三人して画面から視線を外す。

 二十歳くらいの青年が紙幣と硬貨を片手に握りながら受付台の前に立った。


「い、一枚ください」

「はい。こちら……ん?」


 私は券を購入した青年の横へ向けて、指パッチンをする。


「うわ!」


 パルティンテートンの呪文で姿を隠していたらしき、彼と同じ歳くらいの青年が、解除の呪文を掛けられてその姿を現す。


「なんでバレたんだ?!」


 お金を払っていなかったほうの青年があわあわと口を動かした。


 なんでと言われてもとにかく購入しているほうの男の人がしきりに隣を気にしてそわそわとしていたのも気になった理由だが、何より空間がブレて見えたため試しに解除の魔法をかけたら当たりだったというだけである。

 この魔法が習得の難しい魔法であることは私自身分かっているので、成功させられるまでに物凄く時間がかかった。

 未完成のままでは、姿が見えなくなっても自分のいる所の空間に歪みが発生し違和感が出来てしまうので、上手くできたと思ってもよく見られれば失敗となってしまう。


 関係者以外の観客席への立ち入りはこの正規の入り口からしかない。他から入ろうとしたり競技場の上から入ろうとしても、騎士が監視している為むやみやたらと侵入は出来ない。

 不法侵入を防ぐための魔法も出来なくはないが、お金を払っていない人だけ、となると私達のようにお金を支払わずとも仕事で来ている人が入れなくなってしまうし、それも考えると防御の魔法陣の作りが複雑になりややこしくなってしまう為、原始的な方法でこうして私達が配置されている。

 ロックマン公爵家のように、一族の知り合いでもなく心を許していない人間が屋敷へ立ち入れば自動的に外に出されるという魔法であれば制限される対象がハッキリと定められるので有効なのだが。


 この二人はお金がないらしく、街中でも同時映写機で見ようと思えば見れるはずだけれど、なんとしても生で試合を見たかったそうで私達を誤魔化せれば、とここから入ろうとしたようだ。


「まだ入る前ですので不法侵入にはなりませんが……もしもう一度このように入ることがあれば、独・房、行きですからね」

「は、はいぃぃぃ!」

「すみませんでした!!」


 ビシッと上半身を折り曲げた青年二人は、早々に馬車へと乗って島から降りて行った。


 一応私は、パルティンテートンのみを排除するという暗号を退魔の魔法陣をもとに10分ほどで作り直し、いらない用紙の裏に描いたその魔法陣をデア・ラブドスに仕込んだあとそれを入り口の前に敷く。


「ありがとうヘル。ああいうのは明日もいそうだな」

「気を引き締めていきましょう」


 ヤックリンさんと裁判院の男性はそう言って紅茶を啜る。


「あっヘルさん、試合始まるみたいですよ」


 彼に言われて同時映写機へ私も意識を戻した。


『試合のもようは、わたくし【流行誌ヘブン】編集長のマージー・テレンスがお送りいたします! そして共にお送りしていただくのは王国騎士団長、外調鑑識官大臣、ミスリナ王女です』

『我々は役職名だけですか』

『名前まで言ってほしいよな』


 試合の内容は解説者の人と、騎士団長、外官大臣、それと何故か姫様が伝えてくれるそうだ。映写機から四人の声が聞こえてくる。


 これから360人60組の出場者達には、この島よりも遥か上にある硝子で作られた球体の空間まで行ってもらう。そしてそこへ六人全員揃った状態で早く着いた二十組が次の試合へと行ける。魔法で他の組を妨害するのもありだが、使い魔に乗ってはいけない。あくまで自分の足で上まで行き、浮遊魔法を使って上まで行くことも、魔法陣で移動することも駄目で、かつ六人揃っていなければならない。道から落ちた人間を魔法で引き揚げたりすることは可能だが、つまりこれは、


「徒競走?」


 五年時の追い剥ぎ大会を思い出す。なんでこうも魔法を使わない競技ばかりなんだ。もしかしてこういうのを見越してのあの攻守技術対戦だったのだろうか。どちらにせよもっと何かほかになかったのかと思わざるをえない。

 競技場の舞台、土が敷かれている領域に組ごとに端から端まで六十組が整列している。

 すると出場者達の目の前に、幅の大きな空まで続いている黄色い道が姿を現した。


『ここを走り、先に頂上へ到達した二十組が明日の試合への出場権を握れるとのことです! さて心の準備はよろしいでしょうか? それではよーい……どん!』


 やや興奮気味の解説者が全体を煽った。

 よーいどんとか、ちびっこの駆け足大会でもあるまい。

 

 それでも皆は真剣なので一斉に走り始めたが、開始早々あちらこちらで爆発が起こったり誰かが吹っ飛ばされていたりと、現場は大変荒れているようだった。


 その中でも目に入ったのは、道にあいた巨大な穴だった。

 次々へとそこに人が落ちていく。


『王国騎士団がさっそく魔法を仕掛けましたが……あれは落とし穴ですね!』


 せこい。


「じゃあね~」

「てめぇズリィぞ!」


 仕掛けた張本人なのか、笑顔で画面いっぱいに映るロックマンは、穴に落ちた自分の仲間を魔法で引き揚げているサタナースに手を振り先へと走っていく。画面に取り残されたサタナースは隣で落ちずにすんでいたベンジャミンと共に仲間の引き上げに成功すると、その後を追って行った。


「あいつぜってぇ叩きのめす!」


 修羅の形相で画面に映るサタナースに、私は心の中で声援を送った。

 是非とも叩きのめしてくれ。

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