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10/11

セレニアの王妃

■1


数年後。


セレニア王立大学。


「では、今日はここまでにしましょう」


スクリーンの向こうで、ウォーカー教授が資料を閉じた。


「次回は、地方政府における教育政策の評価について扱います」


「ありがとうございました」


教室にいた十人ほどの大学院生が、それぞれノートや端末を閉じ始める。


理沙もペンを置いた。


隣には、小さなベビーカー。


眠ったままの赤ん坊を覗き込む。


「おとなしく聞いててくれて、ありがとう」


理沙は立ち上がる。


午後からは、自分の講義だった。


教材を鞄へ入れ、ベビーカーを押して教室を出る。


昼休みの大学構内。


学生たちの間を抜けて、法学部棟へ向かう。


「長官、ちょうどよかった」


後ろから声がした。


教育庁の官僚が、書類を手に駆け寄ってくる。


「財務省から、王立大学の第二キャンパス案が戻ってきました」


「見せて」


理沙は歩きながら書類を受け取った。


数ページめくる。


「……ああ」


足を止めた。


「これ、私への忖度でしょ」


「え?」


「法学部と公共政策学部だけ、予算が増えてる」


「財務省としては、王妃殿下が重点分野として――」


「そういう時代じゃないのよ」


「私がやってる分野に予算をつけるんじゃなくて、この国に必要なところにつけるように言って」


書類を返す。


「元の案で再査定。財務省にもそう伝えて」


「分かりました、長官」


官僚が一礼して去っていく。


その直後。


「リサ」


前から声がした。


顔を上げる。


ルカが、数人の外国人と大学関係者を連れて歩いてくる。


「殿下。今日は大学?」


「ええ。マレンバ共和国の教育相をご案内してました」


「マレンバ……アフリカの?」


「はい。地方大学の整備について、うちの制度を見たいそうです」


「へえ」


ルカはベビーカーを覗き込んだ。


「寝てますね」


「今日は優等生」


「それはよかった」


そして、理沙が抱えている教材へ目をやる。


「午後も授業ですか?」


「うん。二コマ」


「リサ」


「何?」


「今日は夜、晩餐会ですからね」


「あ」


「マレンバの皆さんも出席されます」


「分かってるって」


「質問対応は、ほどほどにしてくださいね」


理沙は少し笑った。


「はい」


『完』

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