53 死神の舞踏、千の屍の道
無機質な十階建ての塔。その最下層である一階は、白と黒の強烈なコントラストが支配する、巨大な空洞だった。
そこには、数千のヴァニシングオーダー精鋭部隊が、一人の男を屠るためだけに整然と隊列を組んでいる。彼らが構える銃口と魔力刃の殺意は、色彩を奪われた空間において唯一の熱量となり、一点――死神へと収束していた。
「数千か。俺一人を殺すには、いささか過剰な接待だな」
熾祈が低く呟いた瞬間、世界の均衡が爆ぜた。
バリィィィィン!
空間を引き裂く轟音と共に、数え切れないほどの鉄弾と魔力の奔流が熾祈へと殺到する。
だが、死神は瞬き一つしない。
彼の瞳が燃えるような紅に閃いた瞬間、虚空から紅蓮の剣が抜き放たれ、もう一方の手には銀色の銃が冷たく煌めいた。
熾祈の姿が、物理法則を置き去りにしてフレームアウトする。
彼は舞うように宙を駆け、崩落するコンクリート片を足場に、垂直な壁を蹴って精鋭たちの頭上へと躍り出た。
紅蓮の剣が描く軌跡は、まさに死のワルツ。
一閃。一気に五人の首が宙を舞う。
二閃。展開された魔力障壁ごと、重装甲の胴体を豆腐のように両断する。
黒い外套が紙屑のように散り、ヴァニシングオーダーの精鋭たちが、文字通り記号のように床を埋め尽くしていく。
一方、左手の銀色の銃は、冷徹で正確無比な旋律を奏でていた。
視認なしのヘッドショット。関節を砕く狙撃。ライフルを銃身ごと撃ち抜く精密な無力化。
一発の弾丸が熾祈の頬を掠めるが、彼はその軌道さえも数秒前から予見していたかのように、僅かに首を傾けて回避する。
熾祈は振り返ることなく、逆手に構えた銀の銃を背後へ放った。弾丸は正確に背後の敵の眉間を穿ち、その勢いを殺さぬまま、さらに後ろの敵の頭部をも貫通する。
意志を持つかのように躍動する紅い剣が、敵の懐に滑り込み、心臓を一突きで抉り出す。噴き出す鮮血。しかし、このモノクロームの世界では、その熱い血潮さえもどす黒い染みにしか見えない。
「無駄だ。数で俺を圧倒できるとでも思ったか?」
戦闘開始からわずか数百秒。一階の広間は、既にヴァニシングオーダーの屍山血河と化していた。
空薬莢が床に落ちる乾いた音だけが響く中、広間の奥から大地を揺らす巨大な駆動音が鳴り響く。
重厚な隔壁を突き破って現れたのは、全身を漆黒の装甲で覆われた、二メートルを優に超える巨漢。その両腕には肉体と融合した巨大なガトリング砲が一体化しており、鈍い金属光沢を放ちながら、獲物を求めて銃身を回転させている。
「死神。よくぞここまで、数に飲まれず辿り着いた。だが、この番人が、貴様の行進をここで終焉させてやる!」
番人が咆哮と共にガトリング砲を火を噴かせた。秒間数百発の鉛の嵐が、逃げ場のない広間を埋め尽くす。
コンクリートの床が爆ぜ、視界が土煙で遮られる。しかし、熾祈はその嵐のただ中、紅蓮の剣を正眼に構え、瞳に静かな、しかし苛烈な闘志を宿した。
「なるほど。これがノワールの用意した、最初の退屈しのぎか。悪くない」
熾祈の口角が、僅かに吊り上がる。
それは恐怖ではなく、強敵を屠る歓喜、あるいは、最愛の少女を救い出す決意の顕現。
死神の逆襲、その行軍はまだ、始まったばかりだ。




