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33 公式に応援される愛


 MCA本部の制圧部隊が、特殊な魔力拘束具を嵌められたヴァレンタインを運び出していく。

 先刻まで死闘が繰り広げられていたテラスには、爆砕された瓦礫と、鼻を突く硝煙の臭いだけが重く沈殿していた。


「……ごめんね、しきぴょん。あたしがもっと早く動けてれば、あんな……あんなに苦しませずに済んだのに」


 いつもなら周囲の空気を桃色に染め上げるはずの西園寺英莉花が、珍しく肩を落とし、壊れた人形のように立ち尽くしていた。

 自分の不甲斐なさで、信頼する戦友を死の淵まで追い込んだ。応援とは名ばかり……その自責の念が、彼女のパステルピンクの瞳を、後悔の色で塗りつぶしていく。


 そんな英莉花の背後から、血の臭いを纏ったまま熾祈が近づく。

 彼は何も言わず、無造作に大きな手を伸ばすと、彼女の頭をまるで壊れ物を検品するかのようなぶっきらぼうさで、一度だけ重く撫でた。


「任務は完遂した。お前がヴァレンタインの注意を引き止めたからこそ、この結果がある。次は、遅れるな」


 それは、死神の二つ名を持つ男が捻り出した、あまりにも不器用な生存報告だった。

 だが、その手の温もりは、今の英莉花にとってどんな高度な治癒魔法よりも深く、凍えた心に染み渡っていく。


「うんっ! 次は絶対に、しきぴょんの背中、あたしが守ってみせるからっ!」


 一瞬で顔を輝かせ、いつもの調子を取り戻す英莉花。その戦友という名の、踏み込めない絆。

 それをテラスの隅から見つめていた玲奈は、胸の奥を熱い泥でかき乱されるような不快感に、激しく身を焦がしていた。


(……面白くありませんわ。全然、全く、これっぽっちも!)


 熾祈が、あんな風に誰かを労う姿を、自分以外の女性に見せるなんて。

 いつもの大人の余裕を気取ることすら忘れ、玲奈は唇を噛み、ムスッとした顔で地面の小石を蹴飛ばした。

 その瞬間、彼女の周囲の空気が、パキパキと硝子が割れるような音を立てて歪み始める。特異点としての力が、剥き出しの嫉妬に呼応して漏れ出しているのだ。


「あら、いい顔ね。特異点の数値が、かつてないほど『愛』で燃え上がってるわよ、玲奈ちゃん」


 背後から響いたのは、悠然と電子煙草の光を纏ったローズの声だった。彼女は手元のデータパネルに映し出される、異常なまでの波形を見つめて不敵に笑う。


「最新の解析結果が出たわよ。玲奈ちゃん、あなたの能力が飛躍的に跳ね上がった理由――それは一つ。『熾祈ちゃんへの病的なまでの執着愛』。それがあなたの力の源であり、同時に暴走を止める唯一の制御装置リミッターなのよ」


 ローズはふっと表情を引き締めると、玲奈の耳元で、甘く残酷な宣告を囁いた。


「いい? 今のあなたは、熾祈ちゃんから引き離されると情緒が不安定になり、その力が暴走する。つまり、この本部ごと世界を吹き飛ばしかねないの。MCA上層部が今、最も恐れているのはそれよ」


「……え?」


「だから、これは公式の決定事項。玲奈ちゃん、あなたの精神を安定させるために、これまで以上に熾祈ちゃんと『24時間密着』できる環境を整えてあげるわ。もっと彼に甘えて、繋ぎ止めておきなさい。それが、世界を救う唯一の手段よ」


 玲奈の顔が、一瞬で耳の裏まで沸騰したように真っ赤に染まる。

 嫉妬の炎はどこへやら、彼女の頭の中には、熾祈との24時間フルタイム密着生活という、あまりにも甘美で刺激的な未来予想図が無限に広がっていた——。



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