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31 嫉妬と独占欲の塊。死神は誰のものだと思って?


 ヴァレンタインの毒蜜のような抱擁に囚われ、命の灯火を啜り取られていく熾祈。その絶望的な窮地に、桃色の閃光が割り込んだ。


「離しなさい、この泥棒猫! ……しきぴょん、今助けるからっ!」


 英莉花が両手から放つのは、彼女特有の超高密度な治癒エネルギー。かつてヴァレンタインを「過剰摂取オーバーフロー」で満腹状態に追い込み、その隙を熾祈が突いて勝利した。英莉花は自らの血管を焼き、命を削る勢いで、熾祈の体へと限界を超えた生命力を注ぎ込み続ける。


 しかし、ヴァレンタインは苦悶するどころか、愉悦に濡れた瞳で嘲笑った。


「ふふ……。あの日と同じだと思っているの? あれから私が、どれほどの男を食べてきたと思っているのかしら」


 英莉花が送る膨大な力さえも、ヴァレンタインは底なしの沼のように飲み込んでいく。熾祈の顔色は土色のまま変わらず、逆にエネルギーを吸収したヴァレンタインの肌だけが、より艶やかに、毒々しく光り輝いていく。


「っ、嘘……! 吸収が止まらない……!? しきぴょんの命が、空っぽになっちゃう……っ!」


 必死に叫び、涙を浮かべて力を送り続ける英莉花。それはまさに、命を懸けて戦友を救おうとする正ヒロインの献身そのもの。だが、その献身が皮肉にも敵を太らせる、残酷な逆転現象が起きていた。


 英莉花の背中越しにその光景を見つめていた玲奈。

 彼女の視界の中で、二人の女が”自分のもの”を奪い合っている。


(……何ですの、これは)


 熾祈に触れ、その命を蹂躙し、味わい尽くすヴァレンタイン。

 そして、熾祈と共有した過去を持ち、彼を救うための特等席を譲らない英莉花。


 自分だけが、何もできない。彼の過去も知らず、今の戦いにも関われない。ただ、安全な場所で震えているだけの守られるだけの”脇役”。その事実が、玲奈の心に鋭い爪を立てた。


(嫌。……嫌ですわ。あのサキュバスが彼に触れるのも。英莉花様が彼を助けるのも。……そんなの、全部、反吐が出ますわ……!!)


 内側から湧き上がるのは、純粋な正義感でも殺意でもない。ただ、他者の介在を許さないドロドロとした所有の意思。


「熾祈さんは――私のものですわ!!」


 玲奈の絶叫。

 彼女は何か衝撃波を放ったわけでも、銃を撃ったわけでも、剣を振り下ろしたわけでもない。

 でも、世界の形は何かが変わった。


 熾祈の首筋から必死に命を吸っていたはずのヴァレンタインが、突如として内側から爆ぜるような激痛に顔を歪める。


「……っ!? な、何よ、この拒絶は……!? 私が、弾かれる……っ!?」


 ヴァレンタインの求める熾祈の命は、逆に彼女を苦しめる毒に変貌していた。

 他者の介入を一切許さない、玲奈の傲慢なまでの独占欲が、本来のルールを書き換えてしまった。


 ヴァレンタインとの接続を強制遮断され、彼女の腕から、力なくずり落ちようとする熾祈の巨躯。だが、その身体が床に触れる寸前。

 ――カチリ、と運命の歯車が致命的な音を立てて噛み合った。


 熾祈の右腕が、血管の一つひとつが浮き出るように禍々しい赤に発光する。

 そして、閉じていた瞳が――カッ、と見開かれた。


 その双眸は、玲奈の激情に呼応するように、底なしに深い、深い真紅に染まりきっている。


「……あ……あぁ……。そうよ……これよ、これこそが私が求めた……究極の死神……っ!」


 恐怖と歓喜で全身を震わせるヴァレンタイン。

 覚醒した熾祈の右手が、自分を抱いていたヴァレンタインの細い首を、不浄なゴミでも処理するかのように無造作に、そして冷酷に掴み上げた――。



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