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03 クソ親父


 ようがこの上なくブチキレていた。

 理由はいたって単純である。父が関与していたからだ。弟宛に届いていた転校先の学校書類にはこう記されていた。


 ───本校は、日向ひなた あおい 様の中等部三年生 訓練科への入学を許可いたします。


 今後の予定は、以下の通りになります。

 登校日時:七月二十一日、午前八時十五分。

 

 ───一度、職員室にお越しください。

 

 葵の進路先が決まっていたのだ。そして、今、数年ぶりに二人の父から電話が来ていた。彼の第一声が葵の携帯から聞こえた。


「葵の進路は俺が書いて送ったから! ごめんなあ」


 葉は弟の携帯を奪い取って激昂した。


「このクソ親父が! てめぇ、今どこで何してんだ!」


「おお、ようか? 元気そうでなにより!」


 と携帯から父の陽気な声が聞こえてきた。

 しばらくのあいだ、葉がガミガミとして暴言を吐きまくった。打って変わって、父の呑気な返答が続いた。

 二人の父・日向 一幸かずゆき は葵たちを日本に残し、十余年前に海外へ飛んだ。葵は父がどんな仕事をしているのか知らなかった。兄と祖母は彼の仕事について頑なに教えなかったので、葵の中では父が海外の外資系で働いていることになっていた。

 二人の母が事故で亡くなったとき、彼は葬儀に顔も出さなかった。葉だけは手紙や電話さえもよこさない父に対して恨み辛みと根に持っていた。そのことがあったにも関わらず、兄の大学費用も父が工面してしていたし、未だに、葵と祖母・美智子の生活費を父・一幸が出していた。なので葵としては、まだ、彼が父親としての威厳を保っているように思えた。

 だから、進路先を書いて出してしまったのなら仕方がない、とはならなかった。葵は運動神経や成績がずば抜けて良い方ではなく、将来、別にやりたいこともなかったし、できれば、転校先は普通科に行こうと思っていた。中学三年生からでは、部活動もろくにできないだろうし、高校に上がったらアルバイトをしようくらいにしか思っていなかったのだ。


「七月二十一日って、明日じゃねえか!」


 また、兄・葉が大声で怒鳴った。


「葵、俺、明日仕事休めないからおばあちゃんと一緒に───」


「いいよ。もう子どもじゃないし、一人で行くよ」


 葵は兄と祖母の気遣いをむげにした。たかだか、中学校の転校で騒ぐことなんてない。葵はそう思うことで気持ちが少し軽くなった。


 美智子は隣でそのやり取りを心配そうに見守っていた。


「訓練科の先生な、俺の元教え子なんだわ。葵、あいつによろしく言っといてくれ───」


 一幸の声が携帯からぷつんと消えた。


「クソ親父! 話終わってねえぞ! ───ックソ! あいつ切りやがった!」


 葉は葵を見て言った。


「ごめんな、葵」


「いいよ、別に」


 葵はそう言い残して自分の部屋へ戻った。



─────────────────────


 転送開始可能日まで、───残り353日。


─────────────────────

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