25 愛がゆえに
午前九時四十五分。
第二地区西側検問所第二拠点付近───。
避難所として設けられたシェルターの前で避難していた市民が幹線道路にまで列を成していた。そこから五〇〇メートル先の道路上には通行禁止の看板が立てられ、警備員たちが逃げ遅れた市民を誘導していた。通行禁止の立て看板より先には、多くの車が乗り捨てられている。その場所より五〇メートル手前の位置に二台の装甲運搬車両が停車した。各三名、隊員らが車両から降りて大声を出す。
「「避難所はこっちです! 急いでください!」」
道路の両脇には背の高い建物が建ち並び、それらの建物からも市民が遅れて避難していた。
「この方で最後です!」
数分後、警備員たちは通行禁止の立て看板より先に市民の人影がないことを目視で確認した。隊員ならびに警備用ピンキーが装甲運搬車両に合流し、荷台を開け、重装備を身に付けていった。
四機のAIドッグが車両から外され、起動すると四足歩行になって立ち上がり、立て看板の方角へ歩いて行く。
三機のピンキーが準備を終え、車両の前に三枚の簡易防壁を設置した。アンカーが降ろされ地面に固定、装甲の厚い防壁が横に展開、三ヶ所の防御壁が構築された。
防御壁の前方にAIドッグが等間隔に配置され、装甲運搬車両の運転席と助手席に警備員が一人ずつ防弾仕様のドアを開き待機した。ピンキーが車両のルーフパネルに設置されたミニガトリング砲の銃座に着き、前方に銃口を定めた。各防御壁の裏側に身を隠した隊員たちは前方に、ピンキーたちは後方に並んで待機した。
「全員、構えろ!」
と一人の指揮官が号令を出した。ある者は怯え、ある者は互いを鼓舞し、ある者は決意した。
「全員、聞け! 敵の移動手段は徒歩だ! 敵にこちらの銃火器は効かないと思え! なるべく遠距離戦は控えろ! 接近戦に持ち込むんだ! ここで敵の進行を止めるぞ!」
警備員たちがタクティカルヘルメットの黒いフェイスシールドを閉じた。前方一〇〇メートル先、路上に乗り捨てられた数台の車脇から五人の武装したテロリストが目視で確認できた。
(また奴らか、厄介だな……)
渡部 慶樹 三十一歳
※ラスト・ジャッジメント:班長
一番後方に立っていた渡部は最前列に立っていた味方の背中を見て、前方の敵へ短機関銃P-90の銃口を定めて言った。
「拉致対象者は五〇〇メートル先だ! 一般人には手を出すな! ここからは俺らだけになる! 気張って行くぞ!」
その号令にラスト・ジャッジメントの隊員たちがP-90を構えながら通行禁止の立て看板を通り過ぎた。ミニガトリング砲の引き金が引かれ、無数の弾丸がテロリストへ放たれた。弾丸が空を切り、テロリストの一メートル手前で消失した。
防御壁の一番前で身を隠していた指揮官が命令を出す。
「ドッグ! ピンキー!前進!」
AIドッグとピンキーが歩き出した。AIドッグは背中に装備された機関銃の銃口をテロリストへ定めながら電撃弾を撃ち始めた。ピンキーは三列になり、先頭は防弾用シールドを構え、それより後方のピンキーは敵へ電撃弾を放った。
指揮官は続けた。
「非能力者と遠距離能力者はここで追撃! 接近戦に特化した者は俺に続け!」
警備員たちは二手に別れ、ピンキーの最後尾に合流する者、防御壁に残りテロリストへ発砲する者で別れた。
ラスト・ジャッジメントの隊員たちは敵の銃火に抑えられ反撃できずにいた。一方、敵との距離が四〇メートルに到達し、指揮官が後方から命令を降す。
「各先頭より五機目までのピンキーはシールドを構えながら接近戦に持ち込め!ドッグはその援護だ!」
二機のAIドッグ、計十五機のピンキーが自動小銃HK416を背中に戻し、シールドを構え、腰のハーネスに備えられた大型サバイバルナイフを取り出し駆け出した。
ラスト・ジャッジメントの隊員たちは接近する人型ロボットを銃撃し倒していった。一人の隊員が使用過多で弾詰まりを起こし、短機関銃P-90を下ろし、腰に携えたハンドガンを引き抜こうとしたそのとき、
「避けろ‼︎」
と渡部の悲鳴にも似た大声が響いた。
三機の人型ロボットが畳みかけ、三本の刃がハンドガンを構えた隊員の体を突き刺した。
クッ───
と渡部は歯を食いしばり、倒れゆく愛しき人を目に焼き付けながら短機関銃のP-90を下ろした。腰裏に両手を忍ばせ、背負っていた大型リュックサックの両脇にあるチャックを開いた。
(『故意的死球‼︎)
渡部は両手を広げた。すると、リュックサックの中から野球ボールサイズのチタン球が空中に放たれ、左右に二〇個ずつ円を描くようにして浮遊した。
「もう見境なく、パンパンや……」
渡部は無念そうな表情を浮かべ、前方に両手を構えた。計四〇個ものチタン球が一球ずつ時速五〇〇キロの速度で放たれていった。 AIドッグやピンキーはことごとく粉砕され、援護射撃していた警備員たちは能力を使う間もなく致命傷を負われた。最後に二台の装甲運搬車両が炎上すると先程の銃撃戦で生じていた銃撃音がパタリと止んだ。地面にめり込んでいたチタン球が再び空中に上昇し浮かび上がった。まだ息のある者そうでない者に関わらず、チタン球は再び放たれた。
一人の隊員が渡部に歩み寄り、もうこれ以上は不要ですと伝えながら肩をゆすった。渡部は正気を取り戻し、チタン球を操って自分の頭上へ戻した。
「渡部班長、大丈夫ですか?」
隊員が心配そうに言った。
「拉致対象者を連れ帰れば、我々は自由の身です。急ぎましょう!」
渡部は肩に置かれた隊員の手をそっと払った。恋人のもとへ歩いて行き、その場にしゃがんで彼を抱き締めた。
「渡部班長! 早く行かないと拉致対象者が行ってしまいます!」
一人の隊員が急かすようにして言った。
渡部は上体を上げ、何も知らない隊員たちに顔を向けた。彼らの心境は、タクティカルヘルメットの黒い保護シールド越しにでも理解できた。無事に家へ帰りたいという気持ちは皆同じであるとあらためて感じたのだった。
ふと、恋人との約束を思い出した。仮に、どちらが死んでも約束の地へ行こうと。それでも渡部は恋人の亡き骸から離れられずにいた。




