24 チェスト!!
第四施設九州支部所長 氏家 兼光防衛大臣の死報ならびに国際テロ組織 ラスト・ジャッジメントによる急襲は全国の支部へ通達された。中でも第四施設九州支部 本部では、激震が走っていた。
午前九時○○分。
第四施設九州支部 本部、講義室───。
階段毎に設置された横長のテーブル席には二〇名の隊員がまばらに着いていた。皆、席に着いている中、一人の男だけは席から立ち、彼の怒鳴り声が一室に響いていた。男が大声を上げるたび、彼の周辺に微細な電気が走った。
「だっから、なんべん言わんといけんとや!」
坂本 和馬 三十二歳
※第四施設九州支部 本部勤務
坂本はテーブルの上を叩いて言った。
「おやっどんがやられちょっど‼︎」
「どげんしたって、認められんけん!」
と講義室の壇上に設けられた席に座っていたスーツ姿の男が言った。名は、───木下 勘十郎 五十七歳
※福岡県衆議院議員
※日出国保全党
※日本国啓示現象対策拠点全施設 役職:委員 他
木下は続けて言った。
「各施設には緊急時に対処できるだけの人員ば配置しとるっちゃろ! 今、君たちば行かせてしもうたら、九州全域の防衛はどけんなるとね‼︎」
坂本はクッと歯を食いしばった。
「だから言っちょっが! 明道さん一人おりゃ問題なかっど!」
木下は隣の席に座っていた明道を見下ろした。
早川 明道 五十五歳
※ 第四施設九州支部 本部勤務
早川はテーブルの上で両手を組み黙っていた。
(明道さんも、ひと言くらいなんか言うてくれんと困るとよ!)
木下はそう思いながら仕方なしに言った。
「気持ちわかる! だが、そればどうこうできる話やなかと!」
「なんち言うとか! おはんに何がわかっちょっど‼︎───」
と坂本は言い捨て説得するのをやめた。テーブル席から通路へ出て階段を上がった。
「もうよか‼︎ これ以上、話すだけ無駄じゃっど! おいは行く!」
木下は彼を静止するようにして言った。
「待て! 処罰されても構わんとね⁉︎」
「そげか! そげか!」
坂本は片手であしらうようにして言った。
「おやっどんもおらん! お嬢もおらん! そげなところ、こっちから願い下げじゃっど!」
「おい待てっち言いよーと!」
木下の呼び止めにも応じず、講義室のドアが勢いよく閉まった。木下は他に残った隊員たちを見て言った。
「君たちもそげん考えとうとね?」
「木下さん、───」
と女性の声がした。
立花 千花 二十七歳
※第四施設九州支部 第ニ地区外側検問所 勤務
「うちらも同じ考えです」
「普通に見えるよるかもしれんが、───」
と立花の隣に座っていた男が野太い声で言った。
久野 清二郎 三十四歳
※第四施設九州支部 第一地区外側検問所 勤務
久野も席から立ち上がり、
「俺たち全員、腹ん中が煮えたぎっとるばい。木下さんには申し訳なかばってん、俺も行かせてもらいます」
と言って会議室をあとにした。それに続くようにして、一人またひとりと部屋を出て行った。
「明道さん! 正気の沙汰やなかとですよ! ほんとに、これでよかとですか⁉︎」
木下は耐えられなくなって隣に座っている明道に確かめた。
「あーだこーだ言うちょっても、しゃーなかが」
明道はようやく重たい口を開いた。
「こういうときは、好きにさせちょけばよかとよ。九州は、私一人で守れるっちゃが。本当は、私も行きたい気持ちやっちゃがね」
「しっかし!」
「察してくれんね。こらもう仇討ちとかそげなもんじゃなかとよ。こっちも正気の沙汰じゃあやっちょれん」
「どうなっても知りませんよ……」
木下はジャケットのボタンを外しながら席に腰を下ろした。明道は彼に身体の向きを合わせて言った。
「アンタも偉うなったもんやっちゃなあ」
明道は木下のネクタイに触れて位置を正した。
「ほれ? 随分変わったがね。若いもんの責任は俺らが引き受けんといかんとよ」
「は……はい……」
と木下は萎縮し俯いた。
◆
第四施設九州支部 本部屋上 飛行場───。
「もうすっど! もうちっどじゃって……」
坂本は戦闘服に着替えたあと、屋上でパイロットに待つよう説得していた。
「───おお、来たっか! まっちったど!」
講義室の面子が戦闘服に着替え勢揃いになってやって来た。坂本は面々の険しい顔を見て奇声を上げた。
「い"い"ぃあ"あ"ぁああ! チェァ──ストォ──‼︎」
と坂本が言い終える。皆、互いの顔色を見て笑い合った。中には涙しながら笑う者までいた。坂本は満面の笑みを浮かべて言った。
「良か顔つきになった! ほいじゃあ、行こっど!」
坂本たちは鬼の形相でC-2輸送機の後部乗口から入って行った。皆、心の内に秘めた激情があった。
((チェスト! チェスト! チェスト! チェスト! チェスト! ───))




