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YEHI OR/イェヒ・オール  作者: 海風 野花
第一章:田園都市ユートピア
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21 銃火の中で振るう斧


 氏家《うじいえ》 千春《ちはる》と連絡が取り合えたあと、葉《よう》は上司から警備場所の配置換えを命じられ、第三地区の検問所から閉鎖区域へ移動していた。配置換えの理由は何も明かされず、同様に警備していた同僚二人と持ち場を離れ、第二施設関東支部 本部の建物から経由して地下へ繋がる大型エレベーターへ乗り込んだ。

 最初、葉は田園都市ユートピアの市街地に侵入したテロ組織に動揺し、それでも重要拠点として第三地区外側検問所の警備の任を全《まっ》うしていた。内心、家族のもとへ行きたい気持ちを抑え、心底やるせない思いであったが、二人の同僚も同じ境遇であることを知り、葉はついに愚痴った。


「こんなときに閉鎖区域へ行って何になるんだよ!」


「たっく! 本当だよ!」


 と葉の左前に立っていた安斎《あんざい》がそれに共感した。


「俺の勝手な推測だが、」


 葉の右前に立っていた佐藤《さとう》が言った。


「テロリストの目的は閉鎖区域の奥にあるんじゃないかと思うんだ」


 葉は佐藤に尋ねた。


「その奥に何があるのか知ってるのか?」


「何があるんだろうな……」


 佐藤はそう言って肩に斜め掛けしていたHK416の位置を直した。

 安斎が鼻で笑って言った。


「きっと異星人の技術かなんかだろ」


 葉たちはどうせそんなことだろうと笑い合った。張り詰めた緊迫感が一転して和やか空気になった。佐藤はエレベーターの階層が目的の場所へ近付くのを見て、葉に言った。


「ヘルメットを被らないとドヤされるぞ」


「ああ、そうだな」


 と返事をして、葉はタクティカルヘルメットを被った。

 大型エレベーターの扉が開き、葉たちは外へ出た。閉鎖された地下区域には家具一つない大きなエントランスがあり、奥の通路前には巨大な柱が二本立っていた。エントランスには一〇〇人規模の隊員がまばらに揃《そろ》い、右脇に二〇機の警護用ピンキーが整列している。


「足立《あだち》巡査部長基準! 各配属順整列!」


 とどこからか号令がかかり、皆、配属別で横一〇列縦一〇人で整列した。警備員たちの前に警部が立った。


「熊谷《くまがや》警部にい──かしらあ──中!」


 熊谷警部が敬礼すると、隊員たちがそちらへ顔だけを向けた。熊谷警部が手を下ろすと、隊員たちも顔を正面に戻す。


「休め!」


 隊員たちが腰のうしろに両手を組む。熊谷警部はそれを見て話し始めた。


「これより諸君の指揮を取ることになった熊谷だ! 今一度、敵の情報を共有したい! 今回、この都市に襲撃をかけたのは国際テロ組織、ラスト・ジャッジメントであることは明白である! 第二地区中側防壁下、第一拠点検問所は全て制圧された! 四方の第二拠点検問所にて、今も同志が交戦中である! 幸いにも、地下鉄には奴らの手は及んでおらず、敵の侵攻は地上のみとしている! 第二地区内に侵入した人数、使用武器は不明! 敵は能力者と非能力者で構成されている! こちらの銃火器による攻撃は効果が低いとの報告も受けている! 確実に我々も能力の使用を余儀なくされるだろう。接近戦も頭に入れておけ!───」


 熊谷警部はそこで口を閉じた。整列している者たちを見て、視線を下に向けて続けた。


「なぜ、我々がここに集められたのか、その理由を話す前に、一つ、個人的な話をしたい。私には、妻と子どもがいる。まだ、安否の確認ができていない。こういう場合を想定して、しっかりと避難経路の確認はしていたつもりだが、シェルターに避難していることを願うばかりだ。この中で同様の者はいるか。その者は挙手をしろ!」


 数人の隊員が控えめに手をあげた。葉は、氏家と連絡を取り合う前、葵《あおい》たちと電話を済ませていた。そのときには、弟と藤原《ふじわら》 木《こ》の実《み》、祖母と避難するよう約束し、携帯で避難所のシェルターも共有していた。熊谷警部の話を聞いて、葉は自分の置かれた状況が多少なりと違えど、それは上層部や他の隊員も同じであるのだと認識したのだった。この場にいた同志たちもお互いがそうであることを知った。


「よし!」


 と言って、熊谷警部は親指を立て、大型エレベーターの方角へ向けた。


「今ならまだ間に合うかもしれない。責任の追求、お咎めもしない。私が一切の責任を負う。英雄にならなくていい。家族、恋人、友人のもとへ行ってあげなさい」


 誰一人、その場を去ろうとする者はいなかった。大衆圧力ではなく、意志の結束によって、志高く誰もがその任を全うしようとしていたのだ。決して、美化されるべきではないが、皆、意気揚々《いきようよう》として殺気立ち始めた。

 熊谷警部は残った者たちを見渡した。


「感謝と敬意を表したい。ありがとう」


 熊谷警部はそう言って頭を下げた。


「───今回、我々がこの閉鎖された区域を守らねばならない理由としては、薄々、気付いている者もいるだろうが、この区域の奥には星の民の技術が保管されている! 我々は、敵からその技術を奪われないようにしなければならない! このエントランスの出入り口はこのエレベーターのみである! 我々はここで敵の侵入を防ぐことになるだろう! 以上、ここまでで何か質問はあるか⁉︎」


 挙手する者はいなかった。熊谷警部は続けた。


「では、人員の配置を行う! 最前線にはピンキーに任せる。最前列のピンキーは防弾用のシールドを構えてもらう。その後方に各二列でわかれろ。五、二、二!」


 壁際に整列していた警護用ピンキーたちが最前列に一定の距離感を保って一人五列で並び、一列の後方に各二列、さらにその後方に二列で並んだ。


「次に、接近戦が得意な者、防衛が得意な者は前へ出ろ! 中距離戦が得意な者は後方へ下がれ!」


 隊員たちは少しの迷いもなく指示通りに並んだ。二人の同僚は前方へ、葉は後方へ下がり隊列を組むようにして整列した。


「私が五人の小隊長を選出する! 一個小隊二〇名余りになり、ピンキーの後方へ並べ!」


 熊谷警部は五人の小隊長を選出し、彼のもとへ小隊長たちが集まった。そこで少しの計画が立てられ、小隊長たちのもと、隊員たちが選ばれていった。一小隊《ひとしょうたい》各五列に並び終えたあと、熊谷警部は言った。


「長丁場になることが予測される。皆、身を引き締めて───」


 突然、熊谷警部が口を閉じ、目付きを鋭くした。わずか数秒、その場を見渡し───熊谷警部は左手方向を見て注意喚起した。


「諸君! 三時の方角! 構えろ!」


 隊員たちはその掛け声に三時の方角へ身構えようとした、瞬間、壁が凄まじく爆発し、近くの隊員たちがその衝撃をもろに受けた。大破した壁の中から数個もの平坦地戦用《へいたんちせんよう》転榴弾《てんりゅうだん》と同型の閃光弾が転がって行った。それらはまだ冷静に状況の判断ができぬ隊員たちの足元を転がり、最も被害の多い効果があると感知した転榴弾が各々で爆裂した。同時に、同型の閃光弾が隊員の足元を転がりながら複数回にわたり、目潰しとして鋭い光を放った。その効果はピンキーも同様に機能し、彼らの視界は支障をきたしショートした。カカカカッ───と崩れ切った壁の中から何かを引きずる音が響いていた。

 太宰は薪割り斧を引きずりながらエントランスへ出た。混沌とした敵地を目にして、右肩に薪割り斧を担ぎ上げて晴《は》れ晴《ば》れしく言った。


「さあ! 殺り合おうか‼︎」


 熊谷警部はよろめきながらも指示する。


「発砲よし!」


 被害の低かった隊員たちは敵と思われる人物へ正確に銃口を向け、引き金を引いた。無数の銃弾が放たれ、───太宰は姿勢を低く構えて口にした。


「『走れ、メロス』」


 一瞬、太宰は隊員たちの合間にあった一直線へマッハの速度で駆け抜けた。瞬《まばた》きする間《ま》もなく、隊員たちが爆風に巻き込まれ、シェイク状態になりながら左壁に追いやられた。葉はエントランスにある大きな柱へ激しく打つかり脳震とうを引き起こした。意識が混濁《こんだく》し、ふらつきながらもその場に起き上がろうとした。地面に手を付いても腕に力が入らず、肘関節が曲がり倒れ込んだ。葉は朧(おぼろ》げな眼《まなこ》でエントランスの中央を見た。

 茶色い爆煙が揺らめく中、太宰はゆっくりと上体を起こして敵に挑発した。


「意表も意表! 滑稽《こっけい》じゃなあ!」


 隊員たちは体制を立て直した者から彼へ立ち向かった。銃撃が続き、ある者は能力を行使した。警護用ピンキーも加勢したが呆気なく、太宰は持っていた薪割り斧でそれらを巧みに切り裂いた。俊敏な移動速度、振り回される斧の回転速度が増して残像を残す。

 葉は味方の薙《な》ぎ倒されていく惨劇を前に意識が途切れた。

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