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18 衝撃


 八月八日、午前九時五分。

 氏家うじいえ 千春ちはる宅の寝室───。


 携帯から着信音が鳴り続けていた。

 氏家はうとうと携帯の画面を見る。日向ひなた ようから三十二件、緊急事態応急対策拠点第二施設 関東支部 本部から五分置きに着信履歴が残されていた。氏家は面倒くさそうに電話の応対をした。


「───千春先輩! やっとかかった! テレビを付けて、公共放送にしてください!」


 葉の切迫した声は非常事態であることを告げていた。


「俺が説明するよりもその目で確かめた方がいいです!」


「いったいなんだ……今日は非番だぞ」


 氏家はぶつくさと愚痴りながらもベッドから起き上がり、ふらふらと寝室からリビングへ移り、薄型テレビのリモコンを手に取る。テレビの液晶画面に女のアナウンサーが淡々と状況を説明していた。


「───本日、早朝未明、第二施設関東支部より約十キロメートル離れた場所で氏家 兼光かねみつ 防衛大臣の遺体が確認されました───」


 唖然として、氏家は手からリモコンを落とした。もう一方の片手に持っていた携帯から葉の声が漏れている。アナウンサーは続けた。


「独自の調査によりますと、氏家 兼光防衛大臣は第四施設九州支部へ戻るため、四台の警護車両と共に第二施設関東支部 本部から車で離れ、近くの飛行場へ向かっていたとのことです。飛行場から約五キロメートルの地点で何者かに襲われ、そこで警護車両四台の破損、重症者及び死傷者が多数あったとも報告を受けています。氏家 兼光防衛大臣の乗せた車は近くのパーキングから逃走を図り、再度、田んぼのあぜ道で襲われた模様です。氏家 兼光防衛大臣の乗せた車は炎上、同乗していた警護職員二名と秘書一名も───」


 氏家は衝撃を受けて声を震わせた。


「おい、いったい何が…… 」


「説明も感傷に浸るのもあとです! 千春先輩は本部に招集命令が出ているはずです! 早く向かってください!」


 葉の声からは緊迫した様子が伺えた。


「それと気を付けてください! 三十分前に第一地区の検問所が全て爆破されました!」


 氏家はそれを聞いて身体が勝手に動いた。リビングのテーブルに携帯を置いて、寝室に向かい、クローゼットにあるスーツに着替えた。拳銃用のハーネスとグロック19 Gen.5一丁、電撃弾のマガジンを装弾、さらに予備として電撃弾のマガジンと実弾の入ったマガジンを一本ずつ身に付ける。刀用のベルトには愛刀を携え、最後にジャケットに腕を通す。片手に革靴を持って、リビングのテーブルに置いてある財布をポケットに入れた。携帯を手に取って確かめる。まだ葉と通話中であった。


「葉に……」


 氏家はその先の言葉をグッと飲み込んで、


「お前も気を付けろよ」


 と言い換えた。


「はい! 落ち着いたら、また、どっか行きましょう!───」


 と葉の元気そうな声を最後に電話が切れた。携帯の時刻は午前九時十二分とある。氏家は携帯の写真フォルダを開き、昨夜の葉と撮ったツーショットを見つめたあと、ズボンのポケットに携帯をしまい玄関へ向かおうとしたが、その場でぽろぽろと涙が溢れ始めた。そのとき、


 ドガァ──────ン‼︎‼︎

 ドァ──────ン‼︎!

 ドォ─────ン‼︎

 ド─────ン!


 と爆発音が数回にわたり起こった。衝撃が振動となって伝い、家の中の埃をハラハラと浮かせた。氏家もその場でふらつき、ベランダへ歩いて行って外の景色を見渡した。自宅のマンションから一番近い検問所のある周辺では、黒い煙が複数見受けられる。そして、B校から無数の光が上空へ向けて撃ち上げられていた。そのまばゆい光は明らかに電撃弾であったが、リミッターが最大まで外されているのか白い色をしていた。ここで氏家は嫌な予感を覚えた。革靴を履き、ベランダの落下防止柵から飛び降り、神風かみかぜと口にして、B校がある方角へ飛んで急いだ。


 ◆


 午前九時十八分。

 田園都市ユートピア、第二地区B区画、上空約八〇メートル───。


 氏家は街の惨状を目撃した。

 第二地区B区画の検問所では無数の黒い煙と共に銃撃音が続いている。遠くからでは状況の把握が不確かであったが、B区画の検問所だけでなく、 A区画、C区画、D区画と他の検問所も同様に襲撃を受けたようだった。眼下、住民が避難のためにシェルターの前で列を成している。そうして氏家は防壁の防空システムからも黒い煙が上がっているのを見た。それはB区画からC区画のみに留まっていたが、氏家はそれが先ほど感じた嫌な予感と合致していたので、B校へ進行方向を定め、急いで向かった。

 

 近くのマイクからサイレンが鳴り始めて、そのあとに用意されたかのような音源で女の声が流れた。


「これは避難訓練ではありません。こちらは、緊急事態応急対策拠点第二施設 関東支部 本部です。ただいま、第一地区ならびに第二地区が襲撃を受けました。至急、住民の方々はお近くのシェルターに避難してください。こちらは、緊急事態応急対策拠点第二施設 関東支部 本部です。これは避難訓練ではありません───」

 

 マイクから繰り返し音源が流れている。

 氏家はB校の屋上で誰かが電撃弾を撃ち上げているのが、空から目視で確認できる距離まで近付けた。一度、氏家は空中で静止し、嫌なイメージが頭に浮かび、冷や汗が額に流れた。口の中に溜まった唾液をゴクリと飲み込み、B校の屋上に降り立つ。

 そこには、電撃銃を頭上に構える田中たなか 彩芽あやめの姿があった。田中は電撃銃を下ろし、氏家を見て、さも来ることを想定していたかのように笑顔を見せてこう言った。


「やっぱり、氏家先生が来た」


 氏家は怒りと悲しみの二つの感情に苛まれながらも口を開く。


「田中、お前・・・・・・何してんだ?」


「氏家先生、ごめんなさい」


 田中は穏やかな笑顔を浮かべ、それでも涙が流れている異様な光景に、氏家は後方に一歩下がった。田中は、氏家に電撃銃の銃口を向ける。それに反応して、氏家も刀のつかに手をかけた。氏家は訊いた。


「田中、なぜそれを私に向ける。あれはお前の仕業か?」


「はい、そうです……」


 と田中が答えた。


「その引き金を引いたら、私はお前のことを問答無用で切るぞ」


「でもやらないとパパとママが───」


 田中が何かを言い掛けたそのとき、突然、空から何かが降って来た。岩が砕けるような爆音と共に砂埃が舞い、その砂埃に混じって、大量の血飛沫が地面に散った。同じくして、田中とおぼしき肉片が凄まじい勢いで彼方へ吹っ飛んだ。少しして、砂埃の中から大柄の男が現れた。

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