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13 That blade cleaves everything.


 正午、氏家と生徒たちは駐車場に停めてあったバスで学校へ戻った。生徒たちはお昼を学食で済ませ、お昼休みのあと、午後の授業は自習となった。葵と氏家のみ、訓練が行える地下一〇階の都市へ向かう。


 氏家は両腕を組んで言った。


「夏休みまでにお前の能力を発現させる。一週間、みっちりしごいてやるからな!」


 葵は人差し指を立てる。


「なんだ? 日向」


「能力の発現させる方法について聞きたいのですが……」


「そりゃあ、決まってんだろうが! 実践あるのみだ!」


 終わった……。


 葵は天井を見上げた。


「今日より二日、肉体的能力について調べる。初めに基本的な運動能力から。それが終わり次第、ナイフの扱い方を教える。最後に、体術や射撃を行う。これでわからなければ、二日間、精神的能力の調べに移行する。物に触れず、その物を上げられるかどうか。そういった小さいところから始める。それでもわからなければ、残りの一日は、事象的能力について調べる」


 氏家はだんだんと火が付いて鬼教官のようになった。


「最初は基本的な運動能力からだ! ランニング五キロ! 腕立て伏せ、腹筋、スクワット各三〇回! まずは五キロ、走って来い!」


「え"え"!」


 葵は腕をだらんとさせてやる気の無さを表した。


「行けー!」


 氏家の形相に、葵は嫌々と都市を走り始めた。一台のドローンがあとから飛んで来て、そのドローンから氏家の声が常に聞こえていた。地下一〇階の広さは五平方キロメートルあり、入り組んだ都市がゆえに、瓦礫が道を塞いでいて通れない場所もあって、葵はドローンから聞こえてくる氏家の声を頼りに走って行った。

 葵は二五〇〇メートル走り過ぎたころから徐々にまともな息ができなくなり、大量の汗が流れ、思考力は薄らとして、すでに葵の心は折れていた。


「し! 死ぬ!……」


「死なない!」


 氏家の声がドローンから聞こえてくる。


「もう無理です!」


 と葵が弱音を吐く。その度に氏家が葵の弱気な心を叩き起こすようにして言った。


「無理じゃない!」


 そうして葵はなんとか五キロを走り終えることができた。葵は氏家の前に仰向けになって倒れ込んだ。


「お前、運動音痴か?」


 氏家は葵を見下ろした。


「もうっ!……そうです! はいっ!」


 葵は息を切らしながら大の字になる。氏家はその姿を見かねて言った。


「三十分の休憩だ。ピンキー! 水分補給用の栄養ドリンクと日向の着替えを持って来い」


 いつの間にか、近くには数台の人型ロボット ピンキーが立っていた。命令を受けて、ピンキーがどこかへ走り出す。


「スーツ、ここで着替えるんですか?」


 葵は氏家を見上げて訊いた。氏家がそれに答える。


「そんなわけねえだろうが。この階にはシャワー付きの更衣室もあるんだ。身体が冷えると風邪を引くかもしれないから、日向、着替えて来い!」


 葵は自分の身体を見て言った。


「着替えたいんですけど、身体がバキバキで動かないです……」


「仕方ねえな」


 氏家は自分の肩に葵を担いで更衣室へ向かった。葵はゆさゆさと揺られながら、ふと、氏家の能力について疑問を抱いた。啓示現象が起きてからまだひと月も経っていないというのに、どうしてそんなにも能力を使いこなせているのか。葵は氏家に質問してみようかと悩んでいた。それを察したのか、氏家は言った。


「何か言いたいことでもあるのか?」


「たしか……啓示現象が起きてから一ヶ月も経ってないじゃないですか?」


「そうだが、それがどうした?」


 と氏家が訊き返す。


「氏家先生はなぜそんなにも発現した能力を使いこなせているんですか?」


 急に、氏家がその場で立ち止まった。葵は氏家に何かドヤされると思い目を閉じる───が、何も起こらない。


「良い質問だ」


 と言って、氏家はまた歩き始めた。


「ジャックという男は知っているな?」


 葵はほっとして答える。


「国連の会議で映っていたエイリアンのことですよね」


「これは極秘扱いだが、いつかは世間に知れることだ。特別に教えてやるよ」


 氏家は淡々と明かした。


「ジャックは複数の能力を持っている。過去視かこし、記憶操作、状態異常の抑制、分身体の作成、そして、───能力の強制覚醒。十数年前、最初にジャックたちは人間側との仲介役として十三人の人間を選抜した。それから数年後、日本に限って言えば、全国の自衛隊員及び警察官の能力適合者を集め、その中の志願者たち一人ずつ啓示現象を引き起こさせた。あくまで、これは本当の啓示現象に備えて行われたことだ。彼らは志願者であり、それなりの待遇もあったから、ほとんどの公務員がそれを受け入れた。先ほど、人間側との仲介役として十三人が選抜されたと言ったが、その中にお前の父親、日向 一幸かずゆき先生もいたんだ」


「え"え"⁉︎」


 葵は氏家の肩の上でジタバタと動いて驚いた。


「父さんから氏家先生のことを教え子と聞きました。それじゃあ、僕の父さんは……」


「能力の扱い方は、私も含め、ほとんどの公務員が一幸先生の指南を受けているはずだ。お前の兄もそこに参加していたはずだが……その様子からして、葉は教えてくれなかったんだな」


「何も教えてもらっていないです」


「そうか……思い悩むな。心のうちに留めておけ」


「はい……」


 葵はもやもやとして地面を見つめた。



 ◆


 氏家は葵に軍事訓練用ナイフを手渡して言った。


「まず、ナイフの持ち方から教える。普通に持ってみろ」


「はい」


「順手持ちの場合、ハンドルの……」


 氏家はそこまで言い掛けて、伝え方をあらためた。


が上のときは、グリップの下に小指を引っ掛ける。人差し指の上に親指の第一関節より先を被せる。こうするとナイフが安定して、何かの衝撃があっても手からこぼれ落ちない」


 氏家は葵の持っていたナイフを逆向きに持たせて続けた。


「ナイフのが下の場合は、グリップの上に親指を引っ掛ける。小指に力を入れる。どうだ? 安定したか?」


「まあ、はい」


「最初の握り方が順手持ちという。逆向きの握り方が逆手さかて持ちという。逆手持ちは防御や接近戦で有利だ。いいな?」


「はい」


 と葵は返事をして、心の中ではこう思っていた。


 父さんと葉兄ようにいのことが気になり過ぎて全然集中できねえ……。


「色々な持ち方があるから、今回はその二種類を覚えておけばいい。その都度、教えてやるから」


 氏家はそう言って腑抜けた葵の顔を見た。


「返事は⁉︎」


 葵は急に怒鳴られ渾身の返事をする。


「サァー! イェッサー!」


「よし! 早速、私にナイフを振ってみせろ」


 氏家は躊躇う葵に言い聞かせる。


「大丈夫、切れやしない。おもちゃなんだから」


「……行かせていただきます!」


 積年の恨み!


 と内心、葵は叫びながら二、三歩と踏み込んでナイフを振り上げる。そのまま勢いに身を任せて、氏家にナイフを振りかざした。氏家はナイフを難なく避けてみせた。氏家の瞳にナイフの頭身が映った。ナイフの刃先には空間を切り裂くような波紋を残していた。葵は勢い余って、ナイフを地面に当てる。すると、そこから先に大きなひび割れが真っ直ぐ続き、二人の立っていた場所から後方にそびえ立っていたビルへ凄まじい爆音と共に、いっきに上階まで深い亀裂が走り、最上階が吹っ飛んだ。ほんのわずか、氏家と葵はそのビルを見上げた。次第にビルが倒壊し始める。

 氏家は危険と判断し、葵を肩に担ぎ上げてその場を駆け出した。葵は訳もわからず、ビルが崩れていくのをただただ眺めていた。瓦礫とH鋼エイチコウが二人の頭上から降ってくる。氏家はその脅威から逃げながら、安全地帯まで離れた。最後に砂煙が舞って、葵はゴホゴホと咳き込んだ。氏家は周囲を確認し、地面に葵を下ろした。氏家は険悪な表情をして言った。


「お前、……今、何をした?」


 葵はその場に立ち上がりながら答える。


「いや……自分でも何が起きたのか───」


 事象的か肉体的か……筋力の増加は見られなかった。あの一瞬、刃の先に何かが見えた気がしたが───。


 と氏家は葵の能力について考察を始めた。疑問は疑問を呼び、答えなど見つかりようもなく、考えるのをやめて言った。


「親が親なら子も子だな……」


「なんか言いましたか?」


「こっちの話だ、気にするな───」


 氏家は確信した。


「お前の能力は人前で使えるような代物ではない。とりあえず、その能力に何か名前を名付けろ」


「うーん」


 葵は少し悩み、ひらめいて言った。


神切かみぎりで」


「お前、厨二病ちゅうにびょうか?」


 あんたが言うなよ。


 葵はそう思いながら氏家に名付けをゆだねた。


「それじゃあ、氏家先生が決めてくださいよ」


「お前、英語は得意か?」


「いえ、まったくです」


「その能力が安易に使われないような名前が良いな……Thatザッ bladeブレイドゥ cleavesクリィーヴス everythingエヴリシング.」


 葵は首を傾げた。


「直訳すると、その刃は全てを切り裂く───だな」


「なんか、初めて氏家先生のことがカッコよく見えました」


「お前、私のことを舐めてんのか?」


 葵は首を横に振った。


「にしても、お前の能力が今日中にわかるとはな……」


「僕って、凄い能力の持ち主なんですか?」


「つけあがるな!」


 氏家が叱った。


「すみません‼︎」


 と葵は身体をシャキッとさせてその場にならった。


「これより一週間、お前がその能力を制御できるように訓練する。いいな!」


「サァー! イェッサー!」


 葵はそう言いながらぎこちない敬礼をした。



─────────────────────


 転送開始可能日まで、───残り348日。


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