帝都炎上編その五後編
普段は絶対に同じ場所に立つ事がない、二種類の人間。
魔術士とただの兵士が同じ場所に立ってると言う事実は全員が驚いている。
そんな中、冷静に全体を見ている一人の青年がいた。
その青年は見た目はどこにでもいそうな青年だ。
その横を通り過ぎる少年がいた。
「ちょっと、君。ここは一般人立ち入り禁止だぞ」
言葉には出さないが、その後ろ姿に息を飲む。
何かとてつもない気迫を感じる、一瞬だけ百戦錬磨の兵に見えた。
「え?僕の事ですか?」
「そうだ、君以外にいないだろ。それにそれは刀か?」
「あの~、僕は…」
「良いから、避難所に行くぞ」
少年を兵士が連れて行こうとすると、白髪交じりで気迫が全く無い男が近寄って来る。
「内の者がすまないな。あれ?赤川?」
「風斗さん?!内の者って、まさかこの少年が?」
驚きで思わず、動きが止まる。
「幻徒、行くぞ。配置と作戦の説明をする」
「あ、はい」
自分の目は錯覚ではないと言う、戸惑いが残る。
あの少年が大日本帝国軍の秘匿部隊。
非科学部門の一員と言うだけで驚きなのにあの八雲風斗の部隊の人間とは寒気がした。
部隊の実態は噂でしか聞いた事がないが入隊するだけでも、幾つもの試験を通らなければいけない。
知っているのはこれだけだ。
「良いか、幻徒。お前にはもう一つ、任務を増やす」
「え?」
「さっきはざっくりとしか説明しなかったが、お前には敵の進行を潰してほしい」
「敵って二百人もいるんですよね?!僕一人じゃ、無理ですよ?!」
「すまない、言葉が足りなかった。正確には敵が進行している、道路を落として欲しい」
「落とせって…、高速をですか?!」
「そうだ、今のお前なら出来る。俺は確信してる」
言ってる事はめちゃくちゃででたらめだが、この真剣な目は自分を信じきっている目だ。
自然と胸が熱くなるのが理解出来た。
「今の僕には一部しか破壊出来ないかもしれませんが、やってみます」
「よし、配置に付け。敵は後、三十分で来る予定だ。配置はさっき説明した通りだ」
「了解」
時刻2300時帝都第二区画防衛作戦開始。
『各隊員に告ぐ。これは大日本帝国軍と非科学部門が設立されてから、初めの大型共同作戦である』
非科学部門第四部隊部隊長渡辺が出撃前に演説をする。
『我々の背中には国民の命がかかっている!魔術士、一般兵士などは関係無い!皆、志は同じ同志だ!
例え違う日々を過ごしていようとも、こうして同じ場に肩を並べている。これは偶然では無い!
運命なのだ!共に国を守る者として、誇りに思う。これより、帝都第二区画防衛作戦を開始する!』
隣で聞ていて、何て熱く苦しいおやじだと思ったが、嫌いじゃないと少し笑う。
今回の作戦は第四部隊第一中隊と陸軍強化外装中隊を展開し、その周りに第五部隊を配置する。
さらにその後方から、戦車隊で火力支援を行う。その後、空爆を行い完了。
誰もがこの状況に違和感を覚えていた、隣には普段行動する事が無い人間がいる。
だが心強かった、それだけだった。理屈何ていらなかった。
そんな事を考えていると敵が直ぐ目の前まで迫っていた。
『敵を捕捉。第一陣、攻撃を開始してください』
その瞬間、一番先頭に幻徒が音速で動き出す。
「何だ?!あの小僧!めちゃくちゃ早い?!」
一番驚いているのは、仮設指令室にいる渡辺部隊長だった。
「や、八雲隊長。君の言っている事は本当だった見たいだな」
「でしょ。内の部隊は最高ですから」
モニターから一瞬で反応を消した、幻徒を誰もが驚く。
「幻徒、予定通りに頼む」
「本当に出来るのか?」
「出来るに決まってるでしょ、俺の部下ですよ?」
『了解』
「雷火と由紀、幻徒のサポートを頼む」
『了解』
「明、敵の航空戦力は?」
『二十機です』
「解った、雷火と協力して全て落とせ」
『了解』
「俺からの通信は以上だ。後は、渡辺部隊長の指示に従ってくれ」
実感しているのは涼子先生が渡してくれた、魔術生成剤の効果だ。
戦場の恐怖とか高揚ではなく、薬の効果がちゃんとあると言う事実。
この二ヶ月、ベットの上に居たわけではない。
五色の花、氷堂氷香に稽古を付けて貰っていたのだ。
周りの人間は身体に悪いからと止められたが、何もせずにはいられなかった。
あの男のとの戦闘の後、気を失い気づいた時にはベットの上で目かせ覚め悔しい思いをした。
それに助けてくれたのは氷堂氷香だ。あの人が来てくれなかったら今頃、僕達はどうなっていたか解らない。
だから、今度は自分の力でも一人でも守れるようになりたい。
気が付くと目的地に付いていた。そして、呼吸を整える。
「おい、ガキが一人突っ立てるぞ?」
「お!マジだ!轢き殺して行くか?」
数十メートル先に目標が接近して来るのが目視できる。
『幻徒、敵が近づいて来るぞ』
「解ってます…」
静かに居合いの構えに入り神経を集中をする。
「なんだ、あのガキ?」
そして、音速で刀を抜く。その瞬間、テロリスト達の足元が崩れ下に落下して行く。
落下して行った人数は不明だが、かなりの兵力は減ったのは間違いない。
その光景を冷静な目で見つめながら、刀を鞘に納める。
この光景で自分がやっているのは殺し合いだと実感する。
今まで二度戦闘を経験したが、こんな感情を抱くのは初めてだ。
そしてその場に背を向ける。
『幻徒、戻って来い』
この声に反応するかのように足を向ける。
「下が騒がしいな…。な、何だ?!た、隊長!下の連中が!」
上空を飛んでいる敵側の飛行外装型装備兵の一人が下の異変に気づく。
「どうした?何が起きたんだ!本部と連絡を取れ!何だ?電波が…」
この瞬間、空から雷が兵に向かって降り注ぐ。
「隊長!」
その雷で敵の一人が消えた。
その様子を見ていた、他の兵士は動揺していた。いや、動揺しない方が以上なのだ。
普通に生活をしていれば、雷に打たれて消滅する何て事は無いのだから。
これは偶然では無い、人間が一人不自然にビルの上に立っている。
大日本帝国軍非科学部門第五部隊所属、天ノ雷火。
彼の二つ名は「雷神」。
字の如く、雷火は雷を使用する魔術士である。日本で一番希少な魔石で発生する魔術を使用する。
だが雷火は魔石を一切使用しない純正種であるがその変わり、強大な魔力を保有するが為に普段の魔術の使用は禁止されている。
使用した場合、被害が多きすぎる為である。
「久しぶりだな!本気を出すのは!」
続いて、次の得物に向けて雷を放つ。そして、当然のように消える。
二十機存在していたはずの敵の航空戦力があっという間に半分に減っている。
これは仮設指令室の隊長達も驚きを隠せない。
『予定通りだ。雷火、残りは何機だ?』
「半分消したんで、十機程度っすね」
『そうか。明、準備は良いか?』
『はい。何時でもいけます』
夜風が吹き抜けるビルの屋上で狙撃用スコープで敵の残存勢力を確認している。
何時も彼女が引き金を引く前に行うと決めている事が一つがある。
それは目を瞑り、命を取る相手の冥福を祈る。これは狙撃兵となった時から決めていた。
星下幻徒と出会ってから彼女の日常は一変した。
自分が使用していた愛銃が敵によって爆破されたり、全身筋肉で出来た巨漢が本部に攻めて来たり、米国人が突然入隊して来たり、
父親の元同僚が幻徒を狙い、襲撃して来た。
そんな事を考えていたら、自然と笑みが生まれた。こんな感情を抱くのは初めてだ、誰かを思い胸が温かくなるのは。
早くこんな戦争を終わりにしてまた、幻徒と一緒にどこかに行きたい。
意地を張るのはもう止めよう、素直になろう。私はあいつが好きなんだ。
だからあいつらを落とす、平和を手に入れる為に。
そんな思いを胸に引き金を引く、それと同時に五百メートル離れた兵から爆発が起こる。
彼女が使用しているのは対物用ライフル、アンチマテリアルライフル。
緊急で用意させた、対飛行外装用の装備である。
彼女は魔力を持たない変わりに魔術士と対抗できる狙撃を習得した。
その腕前は同じ軍のスナイパーを真っ青にする。
「まずは一機…」
続けて、引き金を引く。
また、同じく爆発を起こし羽を毟られた虫のように地に落ちて行く。
その光景を下で見ていた、由紀は呟いた。
「派手にやってるわね…。私も始めるとしますか」
彼女の任務は高速を落とされ、進路変更してする為に下道に降りて来た残存兵力をさら減らす事。
ぞろぞろとやって来る、鉄の鎧を纏った兵士達を目の当たりにしても臆する事は無い。
「お、おい…。誰か、いるぞ」
「女じゃなぇかよ…。でも良い女だな」
そんな、軽口を聞いていると足元から地下水が物凄い勢いで噴射して来た。
それに巻き込まれて、何人かが動かなくなった。
それを見た他の兵士が銃口を向けるが、さらに噴出して来る。
これを見ていた、後方の兵士達は完全に臆病風に吹かれている。
『由紀。そろそろこちらの部隊がそちらに向かう、お前は戻って来い』
「りょうか~い」
第五部隊が仮設指令室に戻ると第四部隊第一中隊隊長斉藤から緊急連絡が入る。
「どうした?」
『部隊長、大変です!正体不明の竜巻がそちらに向かっています!何人か向かわせていますが追いつきません!』
その慌てぶりから、モニターに視線を運ぶと確かに竜巻がこちらに向かって来ている。
しかも、不気味なくらいに一直線に。
この竜巻に覚えがあるのか、風斗が反応を示した。
「渡辺部隊長、私に心当たりがありますのでちょっと様子を見て来ます」
「隊長!一人で行くんすか!」
突然の行動に雷火が声を出す、すると振り向き口を開いた。
「お前達は非戦闘員の非難だ。恐らく、ここにも被害が出る」
「ちょっと待て、八雲隊長!君はここから離れる気かね?」
「部隊長。恐らく、あの竜巻は俺が狙いでしょう。ですから、俺が一緒にいると被害が大きくなります。これは勘ではありません」
その表情に偽りは無く、真剣な瞳をしていたが許可する事は出来ない。
司令室に指揮官が不在になる事は絶対にあってはいけない事だからだ、それは風斗自身も理解しているはず。
「ま、待て!」
部隊長が引き止めるが外に出てしまった。
「まただよ…、どうするかな」
雷火が他の四人を見るがやはり、困った顔をしていた。
一歩、外に出ると台風が来たかのような光景だった。
周囲の建物が揺れ、木々がしなり、土と小石が宙で舞っている。
「こいつはひでぇな…。しかも、近くにいるな」
顔を両腕で守り、少しつづ進む。
すると、聞き覚えのある声が聞こえる。
「八雲風斗、久しぶりだな!」
この野太い声は半年前に非科学部門本部に襲撃して来た、剛斬力。
この声と同時に台風が止み、軽く地面が揺れる。
「やっぱり、お前だったか…」
「そうだ、私はこの機会を待ち望んだ!貴様を殺すためにな!」
その容姿は以前と少し変わっていた。
前も筋肉隆隆だったが、今はさらに血管が以上に浮き出ている。
それに加えて左目が緑色に輝いている、これには一つ心当たりがある。
昔の話だが、日本軍に魔力を持たない兵士に魔石を直接取り込むと言う話があったらしいが危険すぎると言う事で中止になった。
「魔石を取り込んだなのか…」
「そうだぁ!貴様と戦うためにだ!」
異様に興奮している、これも魔石を直接取り込んだ副作用なのか。
冷静に観察をしていると目の前に巨漢が高速で迫っていた。
「くっ…」
咄嗟に交わしたが、掠ったらしい。
「はぁはぁ…、さすがだ!次はどうかな!」
二撃目が来る前に動き出す。そして、懐に潜り込み溝撃ちを入れる。
「何…」
「ふん。今の私には見える」
片腕で止められるが、さらに腹部に向けて膝蹴りを入れる。
少しは効いたらしく、数メートル後ろに下がる。
「はっははは!今の私には効かんぞ、そんな物ではないだろう。八雲風斗!」
「そうだな…」
「な…、何…」
喋っている隙に後ろから胸を貫き、魔石を取り出す。
すると、巨漢が膝を付き胸を押さえ苦しんでいる。
「ば、馬鹿な?!」
冷たい声が空に響く。
「魔石を取り込んだ程度で俺に勝てると思うな。それにお前は向かう方向を間違えた」
その言葉と同時に巨漢は地面に倒れた。
『隊長。将軍から援軍要請っす!』
「何?直ぐに戻る」




