帝都炎上編その六前編
仮設指令室に獅子王将軍が入り、十分が経過していた。
「今、援軍に出せるのは第五部隊だけか…」
第四部隊長渡辺が顎に手っを当てて、頭を悩ませていた。
今の現状は第四部隊第一中隊と強化外装部隊は敵の残存兵力を始末している為、人手がない。
「渡辺部隊長、一刻も早く将軍の元へ行くべきだと私は思います」
「そうだな。だがな、お前達の身体は大丈夫なのか?あれだけの事をしておいて」
「はい。いつも、無茶をしているんでこの位平気です」
「そうか…。なら、将軍閣下の元へ行け」
本当は第五部隊の人間はボロボロなのだ、先ほどの戦闘で体力と魔力を消耗をしている。
特に幻徒は魔力生成剤の効果で自身の力は使用しなかったが、右腕に感覚が無い。
この状況で泣き言は言ってられない。殺し合いの相手は早乙女煉率いるテロリストだ。
それに敵の狙いは幻徒だ、逃げる訳には行かない。
例え、命が無くなると解っていても。
第四区画第三防衛線。
「くそっ!こいつ一人だぞ!」
非科学部門第一部隊第一中隊の魔術士達が火縄爆率いる先行部隊に苦戦を強いられていた。
「お前ら本当に魔術士かよ?大した事ないな!それでも、天下の第一部隊かよ!」
「この米国の犬がぁ!」
確かに第四区画防衛線には非科学部門第一部隊、第二部隊、第三部隊が戦線に投入された。
特に第一部隊は非科学部門の中でも魔術士の数が多く、熟練者が多いはずだ。
だが火縄爆には通用しない、対峙している魔術師達は理由を考えるが答えは簡単だ。
ただ強い、それだけで他の答えは無い。
「俺が犬だって?そうさ、俺は番犬の一員だからな!」
纏っている炎をさらに燃やし、闘志を剥き出しにする。
「はぁっ!」
「何だ?女?」
突然、女が刃物で切りつけるがもちろん受け止める。
「女が手で来るな!死にたいのか?」
「私を普通の女だと思わない事ね」
「「獅子王部隊長!」」
弱腰の魔術士達が一斉に声を揃える。彼女は非科学部門第一部隊第一中隊隊長獅子王凜。
「貴様ら、なぜここにいるか思い出せ!それでも誇りある第一部隊の魔術士か!」
この獅子王凜の活を入れ、一気に弱気だった魔術士達の士気が上がる。
「くっ!余計な事してくれやがって…。俺は星下幻徒に用があるんだ、邪魔するな!」
「なおさら、通すわけには行かないわね…」
剣を構え、腰を低くし魔術を発動する。
「くっ!はぇ…」
音速に近い動きに反応しきれずに斬撃を受けるが間一髪で交わす。
「避ける何てさすがね」
直線に進んだ進路を方向転換し、元の場所に戻る。
「ちょこまかと…。面倒だ!まとめて、地獄に落ちろ!」
叫ぶと火縄爆の身体に赤く輝き、衝撃波が放たれる。すると、周囲数十メートルの物体が消滅した。
吹き飛ばされた、凜が目を開けた時は周りいた兵士が殆ど影だけを残して消えていた。
「そ、そんな…」
『大丈夫か?!凜?!他の連中の魔力が消えたが、何かあったのか!』
耳元に付けていたインカムに第一部隊第二中隊隊長岡田の声が聞こえる。
「敵の…」
『おい!大丈夫か!」
強大な力の前に膝を折り、自分の無力さを痛感する。
それに恐怖で動揺してしまい、言葉が出ない。
ただ、悔しかった。他の人間より戦場を経験し、力も地位もあると自覚していた。
それが自分の自身でもあったが今、それがたった一人の少年に壊された。
「大した事無かったな。良くやった方だよあんた、人思いに殺す…」
冷たい声が耳と心に響いた。
完全に自分の命が終わったと思い目を瞑るが、何もされない。
不思議に思い、目を開けると見覚えのある後ろ姿がある。
だが以前と少し様子が違っている、制服の裾から痛々しい包帯が見えた。
「大丈夫ですか?」
その声に安心して涙が溢れてしまいそうなのを我慢して、声を出す。
「星下君?!」
「助けに来ました」
その自信に満ちた声と姿に惚れてしまいそうだ。
「星下幻徒!会いたかった!俺はお前と戦いたかった!さぁ、やろうぜ!」
幻徒は再びこの姿を見るとは想像はしていなかったが、今はこの赤髪を片付けなくてはいけない。
「今は君の相手をしてる場合じゃないけど…」
刀を構え、赤髪も刃を向ける。
その雰囲気は妙に静かだ、見守る人間は息を飲む。
数メートル距離があり走れば、相手に手が届く。
先に動いたのは火縄爆だ、刃に炎を灯しと同時に自身の周りに巨大な火の球体を作り出し漂わせている。
全く、動こうとしない幻徒は目を瞑っていた。
何もしていない訳ではなく、魔力を体中に循環させている。
「動かないならこっちから行くぜ!」
一直線に向かっているが幻徒はまだ、動こうとしない。
火縄爆が幻徒の目の前に到着した瞬間。
「何?!消えた!」
突然姿が消え、数メートル先に幻徒が刀を鞘に収めている。
「君とは別の場所で会いたかった…」
ぽつりと一言呟くと、先ほどまで動いていた火縄が吐血していた。
「そ、そんな馬鹿な…。でも、悪くなかったぜ」
吐血しているのに満面の笑顔を浮かべ倒れる。
「うっ!」
勝利したはずの幻徒も胸を押さえ、苦痛の表情を浮かべる。
「だ、大丈夫?!星下君!」
凜が駆け寄ると、額に冷や汗を浮かべ虫の息で口を開く。
「だ、大丈夫ですよ…。それより、風斗さん達に連絡をしないと…。うっ!」
「そんな状態で大丈夫なわけないでしょ!私が連絡するわ」
幻徒のインカムを耳から取り出し、呼び出しをする。
『幻徒!無事か?!』
「私です、凜です」
『幻徒はどうした?!』
別人からの通信で少し混乱している。
「私を助けてくれたのだけれどふらふらよ」
「やっぱりか…。すまなかった、これからそちらへ向かう」
第五部隊が凜と幻徒の居場所に到着した時には敵側の先行部隊の殆どは無効化されていた。
第四区画防衛線、敵側残存勢力の総数は十機ばかりの小型電磁砲搭載の飛行外装部隊。
第一部隊第二中隊と天ノ雷火の活躍により、これを無力化し鎮圧する。
残りの後始末は第一部隊第三部隊が行っている。
ここまでは順調に進んでいるが問題が発生している。
「剛斬と火縄がやられたか…」
佐渡城塞の司令室で一人の男が呟くともう一人の男が眉間に皺を寄せる。
「ミスター早乙女。これは非常事態だ!我々の戦力の殆どが失われたんだぞ!どうする気だ!
それに元々無茶だったんじゃないのか?たった、六百人程度で一国と戦う何て!もう、後戻りできないぞ!」
アメリカ一の反政府組織のリーダーが劣勢に動揺をするが、煉はその仮面の下から冷たい声を発する。
「慌てる必要はない、それに向こうもかなり疲弊していてるはずだ。今度は私が出よう。残りの強化外装部隊を出せ」
「何?本気か?」
「私は最初からそのつもりだった」
その言葉を聞いた時は冗談だと思ったが、その言葉を信じてしまっった。
「本当に出来るのか?」
半信半疑で再び聞いて見るが、仮面の下の表情は読み取れない。
「私は出来ない事は口にしない。それに私ならこの状況を打開できる」
その声は自信に満ち溢れていたのだ、決して開き直っているようには見えない。
「解った。後の指示は俺が出す」
「それで良い。後の事は頼んだ」
椅子から立ち上がり、司令室を後にする。
出撃前に少し考えていた。
最初から無謀なのは解っていた。だが自分の願いが叶うと知って、試したいたくない人間がこの世にいるだろうか。
この願いが叶うなら、何も犠牲にしても構わない。
幼い頃は星下家の次期当主と生まれ、厳しく育てられた。
言葉だけ聞けば良いよう聞こえるだろうが、魔術の名家だから一般の生活は一切させてくれなかった。
だから、誰もが経験した「普通」は知らずに育った。
外から見える景色が羨ましくて仕方が無かった、それに「普通」の親子関係と言うものを経験したかった。
私は親の愛情を知らずに育った。私は友を知らずに育った。
私は「普通」を知らずに育った。私は親を憎んで育った。
そして、終いには実の親を自分の手で殺すと同時に全てを消したくて屋敷を燃やしてしまった。
そんな過去は消してしえば良い。そんな辛い過去は無かった事にして、「人生」をやり直せば良い。
私の願いが叶うなら他の人間がどうなろうと知った事ではない。
この世界がどうなろうと知った事ではない。
「残った戦力は我々だけとなった。だが、恐れる事は無い!日本軍も疲弊しているはずだ!
散っていた、英霊達の為にも我々はこの戦いに勝たねばならない!いや、必ず勝利する!
私はここにいる全員の力を信じている!全員の力があればこの状況を覆せる!」
明らかに劣勢の状況下で精神的に疲弊しているはずが、この口上を聞くと自然に闘争心が湧き上がる。
「「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」」
「これより、最終決戦を開始する!」




