帝都炎上編その五前編
早乙女煉率いる強化外装部隊と魔術士二人が侵攻を始めて、三時間が経過した。
火縄爆が隊長を務める、先行突入部隊が帝都の目の前に迫っていた。
「くそっ!実弾が全く効かないぞ!どうなってやがる!」
「そんな、おもちゃが俺に効くはずないだろう。死にたくなかったら、さっさと失せな!」
地獄の火炎を纏い蹂躙する、彼が歩いた後には灰しか残らない。
まさに地獄その物だ。
「うぉぉぉぉぉ!」
一人の勇敢な兵士が自動式振動刀を振りかざし、立ち向かうが水が蒸発するように消える。
「銃が駄目なら、接近てか?お前馬鹿か?」
「何?!」
その言葉とともに兵士は灰となる。
「撤退だ!」
防衛線が下がり兵士達の命だけが無残にも削られて行く、この光景を目の当たりしている者達はこれを現実だと思いたくなかった。
瞳を閉じ、再び瞼を開けると同じ景色が広がる。
どうしたら、この地獄から開放される。どうしたら、この地獄は終わる。
どうしたら、この地獄から逃げられる。どうしたら、楽になれる。
負の思考回路が全兵士の頭を支配する。
「第二防衛線、突破されました!どうしますか!?」
「獅子王将軍閣下が戻られるまで持ちこたえるんだ!」
司令室も焦りと恐怖が支配する。
大日本帝国軍の将校達も焦っていた、防衛線を突破しているのはたった二百人の中隊だ。
しかも自分達が理解が及ばぬ、妖術使いを軸に進軍している。
情けない話だが対処のしようがない、指令室にいる人間全員が奥歯を噛む。
大日本帝国非科学部門訓練所。
非科学部門に所属する人間が全て集められた
「良いか!これはわしの独断じゃ!ぬしらに責は一切無い!円卓の星が何か言って来ても、わしが全責任を負う!」
「将軍!良いのですか!命令を無視すればどうなるかなんて、一番…」
獅子王将軍の愛娘が口を開く。
「そんな事は解っておるわ…。だがな、何を一番優先するべきか誰もが解ってるはずじゃ!国民の命に他ならない!弱者を守るのが我々の使命だ!
上の連中は己の利しか考えておらん!これでは早乙女煉と何も変わらん!こう言う事態にこそ、魔術が必要なんじゃ!
今さら、隠してなんになる!技術は使ってこそ価値がある!この状況を打破できるのはぬし達だけじゃ!直ぐに出撃用意を済ませろ!」
「「はっ!」」
この言葉で全員の士気が高まった。
生まれた時から自分の運命が決まっていた。十五歳の頃、大日本帝国陸軍に入隊した。
初めて実戦に投入されたのは十五歳の夏、この時は緊張と暑さで倒れそうだった。
当時日本と中国の仲が最悪で武力衝突を何度もしていて、兵士が足りずに新兵を送るのが珍しくなかった。
その場の空気も重苦しく、吐きそうなのも鮮明に覚えている。
今の状況で若い頃を思い出す、そんな事を思い出しながら廊下を歩いていた。
「すまない、遅れてしまった。状況は?」
「お戻りになれましたか、閣下!だたいまの状況は良くありません…」
一人の参謀が額に汗を浮かべ寄って来る。
「第三防衛線を超えられそうです…」
「そうか…。大丈夫だ、手は打った」
「閣下、まさか…」
「そうだ、非科学部門に出動命令を出した」
息を飲むのが伝わるが冷静さを保ったままでいなければいけない。
「良いのですか?閣下の身が危ないです!」
「そんな事は百も承知だ。今は手段を選んでいられない」
二人が会話をしていると、新たな通信が入る。
「緊急連絡!九時の方向から、敵の援軍が向かって来ます!」
「余りしたくないが空軍に連絡を取れ、空爆機を出してくれと」
「了解。空軍に連絡、空軍に連絡」
『こちら、空軍』
「獅子王将軍からの伝達です。現在、帝都から九時方向に進んでいる敵軍に対し空爆を行って下さい」
『了解。直ちに出動させる』
上空で鉄の鉛が鳥のように舞い、その翼には黒い塊が張り付いている。
そう、爆撃用戦闘機。合計で出撃したのは三機で傘型で飛行している。
『こちら、一号機。聞こえるか?』
『こちら、二号機。聞こえます』
『こちら、三号機。聞こえます』
三機が上空から地上から見ていると不思議な物が見えた。
三人は同時に同じ物が視界に入った。
『人間が空を飛んでいます?!』
『何?構わん、作戦通りに爆撃を開始する』
『了解!』
二機は隊長の命令通りに爆撃を行おうと手元のボタンに親指をーに力を入れ、戦闘機から数多の爆弾が投下された。
確かに三人は地上が爆撃されたのを目視で確認した。
だが、目標は健在。
『隊長…。爆撃、失敗しました…』
『な、何?確か…、そんな馬鹿な?!』
その操縦者達が動揺していると一線の光線が直撃する、その瞬間爆撃機は空の藻屑と消えた。
「将軍…、爆撃隊の反応が消えました」
巨大モニターから三機の反応が消えた。
「くっ!奴らめ、まだ電磁砲を持っておったのか…」
さらに正体不明の竜巻が進行する敵軍の前で発生していた。
「将軍!正体不明の竜巻が発生しています!さらにこのまま、帝都に進んでいます!」
「何?!まさか…」
この竜巻はまるで得物を狙う獣。
手元の電話機を取る。
「わしだ、今すぐに非科学部門第四部隊、第五部隊に出動命令を出せ」
『了解、今すぐに準備させます』
「それと出動できる、強化外装部隊を出せ」
情報漏洩を防ぐ為に非科学部門の人間と大日本帝国軍に属する一般兵士は極力接触させない。
「将軍。出撃出来る、強化外装部隊は一個中隊だけです」
「構わん、援軍は時間がかかる。それと、大阪に援軍の要請を頼む」
「了解」
正直、援軍を呼ぶと事になるとは思ってなかった。必ず例外は起こる、まさにこの状況の事を言うのだろう。
佐渡城塞が占拠された今、さらに援軍を呼ぶ事になる事になるかもしれない。
相手は戦術兵器並みの魔術士を投入して来たのだ、自国の兵器だけでは対応しきれない。
推測すると魔術士は二人。問題はこの二人だけではない、「稀代の天才魔術士」と呼ばれた早乙女煉だ。
あの男がどれだけの殺傷能力を持っているのか解らない。あの男が出てくる可能性は高い、その時は腹を括らなければいけないかもしれない。
「隊長、俺達が出るんですか?」
「あぁ…。だが、俺達は援護だ」
「援護でいいんすっか?」
「中隊規模の人数を相手にできないだろ?」
第五部隊は今現在五人しかいない。
なぜ魔術士が不足しているか、その理由は日本が情報漏洩を防ぐ為に育成人数を制限しているために設立されて日が浅い部隊に配属される人間がいない。
それに加えて、適正検査で優秀な人材は部隊長の争奪戦が行われるがどこの部隊になるかは、本人の意思が基本的に象徴される。
「大丈夫っすよ、俺達なら平気ですよ。今は幻徒と由紀がいますからね」
だが、今の第五部隊の戦力は設立当初の倍にはなっている。
「その幻徒はどこにいる?」
風斗の一番の心配事は幻徒だ。
幻徒は早乙女煉との衝突で意識不明の重症を負いしばらくの間、ベットの上。
「風斗さん、遅くなりました」
そこには制服の裾からはみ出る包帯が痛々しく見える、幻徒が立っていた。
「身体は大丈夫か?」
作り笑いを浮かべ、口を開く。
「平気って言えば嘘になります…。でも、僕も出撃します」
その表情は決意を固めたように語る。
「そうか、それは良かった。もともとお前にも出てもらうつもりだった」
「ダーリン!まだ、起きたら駄目って先生から言われてるでしょ!」
由紀が心配そうな声を出しながら、側に駆け寄る。
「だ、大丈夫ですよ。少しなら…」
傍目から見れば辛そうにしか見えない。
「おい、星下!お前、何してるんだ!?寝てなきゃ駄目だろ!」
「明さん…、僕は平気です。僕も皆と一緒に…」
自分の娘が他の男に寄っている場面を直面すると腹が立ってる来る。
「幻徒、明に由紀、出撃の準備をしろ。直ぐに出撃だ」
「ダーリンと一緒に…」
「了解」
少しの嫉妬で三人に命令をする。
「ちょっと厳しいんじゃない?」
「りょ、涼子…。何の話だ?」
「別に幻徒君なら、良いと思うけど?」
「こんな時に何言ってるんだ?!明はまだ十八だぞ!」
「ふふ。そんな事より、幻徒君にこれを」
「何だこれ?」
アタッシュケースから顔を出したのは飴ぐらいの物。
「これは開発部門が開発した、魔力生成剤の試作品よ」
「何でそんな物を?もしかして、幻徒を実験材料にする気か!?」
「落ち着いて聞いて。今幻徒の状態はあの力をもう一度使ったら、非常に危険な状態になる可能性になる。
だから力を出来るだけ使用しなくても良いようにって、私がお願いしたの。それに娘のお婿さんですもの」
「俺は絶対に認めないぞ!絶対に!」
「良いから幻徒君の所に行くわよ!」
手が震える、恐怖からではない。
約二ヶ月前にあの男と帰路の途中で衝突して重症を負い、まだ完治していない。
普通なら、即死でもおかしくない傷だったと先生から聞いた。
ベットの上で目が覚めた時は激痛が走った。
起きるのも辛かったが、今は通常戦闘なら行えるまだに回復した。
だがしばらく安静にしていろと言われているがこんな状況になり、大人しくしていられない。
「ちょっと失礼するよ」
更衣室の扉が開き、冷気を纏いながら歩いて来る。
「氷堂さん、どうしたんですか?」
「星下君、体は本当に何もないか?」
「え?それはどういう事ですか?」
いきなりの質問に困惑する。
「風斗に聞いたぞ、身体に刀傷見たいな亀裂が入ってるってな」
「はい…」
「俺が何物かは知ってるよな、だから君の身体の事も知っている。この二ヶ月気になっていた」
「知っていたんですか、僕の事を?それならなぜもっと早く言ってくれなかったんですか?」
「親父達からの命令でな、君の始末を任された」
「え?!」
「安心しろその意思はない、権限は全て俺に与えられている。それに二ヶ月間、君を見ていて殺す事何て出来はない」
突然の告白に呆然としているが、自然と冷静に戻る。
「もし僕がこの力を制御できなかったら、どうなったんですか?」
「命令通りにするつもりだったが…。風斗の目は正しかった」
「え?」
それだけ言い残して、部屋から出て行く。
「幻徒君。入るわよ?」
今度は涼子と風斗が入って来る。
「何ですかこれ?」
風斗と同じ反応を示す。
「魔力生製剤の試作品よ、本当は魔力を持たない兵士に使うのだけど」
「これを僕に?なぜ?」
意味が解ってないらしく説明をする。
「幻徒君…。真面目に聞いてね、今君の身体は危険な状態にある。私も初めての事態でどうしたら良いか解らなくて、これくらいしかできないけど。
君は力を使用すると今度こそ…」
「解ってます。だからこれを?解りました、ありがたく頂戴いたします」
「でも一度に複数は使用しないでね、副作用が出る可能性があるから」
「幻徒、無理はするな」
「了解」
大日本帝国帝都県境防衛線。
「私は非科学部門第四部隊部隊長渡辺だ。八雲部隊長、よろしく頼む」
「非科学部門第五部隊部隊部隊長八雲です。渡辺部隊長、こちらこそお願いします」
「作戦は聞いてるか?」
「はい、第四部隊の後方支援だと」
「そうだ、強化外装中隊と我が隊の支援だ。他に質問はあるか?」
「いえ、ありません」
「そうか、指揮は私が取る。それでは配置に付いてくれ」
この雰囲気はあまり慣れない。軍隊に入隊して約八ヶ月経つが出撃の緊張感は神経に良くない。
良く考えれば、自分は十五で他の学生と変わらない。
それが軍に入り武器を取り戦って来た。それも基本、受身で自分から立ち向かった事はない。
でも今は違う。クサい事を言えば、守りたい人達が出来たから、偶然が重なりここまで来た。
もう、偶然で血は流さない。もう、偶然で武器は取らない。
もう、偶然を理由に戦わない。もう、自分の意思で決める。
この命をあの人達の為に使うと決めた、自分の終わりは近い。
恐怖は無い。あるのは早乙女煉を止めると言う意思だけ。
「良いか、お前達はあの連中の支援だ。好きなだけ、暴れて良い」
「隊長、いいんすっか?俺が本気出すと、味方も巻き込むかもしれないっすよ?」
「あのおっさんの言う事は守らなくて良い。何かむかつく」
長くなりそうなので分割にします




