帝都炎上編その四
早乙女煉が星下幻徒の引渡しを要求して、早くも二時間が経過したが大日本帝国軍と非科学部門には別々の情報が伝わる。
「良いか!お前ら!我が祖国に謀反を起こした、逆賊を許してはならん!」
「「はっ!」」
大日本帝国軍陸軍第一大隊は兵士が一列に並び、威勢の言い声を上げる。
「今から我々は帝都から東に進み、新潟港で第二大隊、第三大隊と合流する!その後佐渡城塞に向かい、城塞の奪還と逆賊の拘束だ!強化外装隊は十分後に輸送車に乗り込み、出発!」
「「はっ!」」
「その十分後に補給班と整備班は輸送車で移動!直ちに準備に取り掛かれ!」
大日本帝国軍には早乙女煉と米国のテロリストが手を組み、日本に謀反を計画。
その拠点として、佐渡城塞を占拠と言う情報が伝わった。
これは正しい情報なのだが、重要な部分が伝わっていなかった。
それはやはり、この国の黒い部分なのだろう。
わざわざ情報を二つに分割して、伝える必要が理由はこの国の「魔術」と言う技術を隠す為。
だがこの状況で隠している場合では無いと反対の声もあったが、政治家達と円卓の星達の圧力でこのような事態になってしまった。
この圧力のお蔭で非科学部門の人間は行動を制限される事になる。
「えっ?!それって本当ですか!」
第五部隊の事務室は何時も以上に騒がしくなっていた。
「あっ…。佐渡城塞が占拠され、幻徒君を引き渡せと抜かして来たわ」
獅子王将軍が直々に第五部隊の部屋に訪れるのは二度目で滅多にある事ではない。
「そんな要求飲めるわけないでしょう!」
「落ち着け、風斗。陸軍の方で対応しておる、心配するな」
「早乙女煉が何の準備もなしに攻めて来るとは思わないけどな…」
「どう言う事じゃ?」
「じじい、確か三ヶ月前にあいつが来た時にデータを持って帰って来たって言ってたよな?」
「まさか!それはありえんぞ…」
「あいつ一人で佐渡城塞は落とせないと俺は思ってる。じゃ、どうやってあの包囲網を突破したんだ?俺はとんでも兵器か超魔法でもない限り無理だぞ」
「それでは飛行外装と小型電磁砲を実現したと言うのか?それも、実戦に投入できる数を用意して。だとすると不味い!」
獅子王将軍が気づき、大隊長に連絡をしようとしたが一足遅かった。
帝都から東に三時間、高速道路を走ると新潟県に入る。
「ん?」
「どうした?」
輸送車の運転手が何かに気づき、目を細める。その瞬間、目の前が火の海に包まれた。
『一号車!どうした!?何があった!?応答しろ、繰り返す…』
「こちら、一号車…。無事なのですが…、敵です!」
外には火の海に中を歩いて来る一人の少年。
『総員に告ぐ!直ちに戦闘準備!繰り返す戦闘準備!』
少年が歩を進める度に地獄が広がる。
「おいおい!強化外装だけで俺と戦えるわけないだろう!」
一人の兵士が震えた口を開く。
「悪魔だ…」
ゆっくりと進んで来るそれは本物の悪魔だ、これだけの炎を生み出し笑顔を浮かべる。
「はっははは!久しぶりだな、本土で戦うのはよ!楽しくてしょうがねぇ!ん?」
一人の勇敢な兵士が立ち向かうが絶望が彼を襲う。
「お前らが何者かは知らないが、ぐっ!」
「あぁん?あんた達は何も知らなくて良い、これから死ぬんだからな!」
大日本帝国軍正式装備強化外装参型の装甲は少年の剣であっけなく貫かれた。
強化外装参型は現時点で帝国軍最新鋭の装備で銃弾も防ぎ、さらにある程度の衝撃も耐える。
『総員撤退!繰り返す、総員撤退!』
この状況を目の当たりにした、大隊長は即刻の退避を判断をした。
このまま戦闘を行えば、不利だと言う事を直感したのだろう。
それに今まで自分が経験した事が絶望を生み、立ち向かうだけの無謀さと兵士達の命を天秤に掛けられなかった。
「尻尾を巻いて逃げるのか?本土の連中は腰抜けだな!」
さらに絶望が大きくなる、少年の後ろに無数の強化外装隊が歩いて来る。
しかもこちらと同じ物で纏って向かって来る。
午後二十時00分佐渡城塞奪還作戦失敗。
これにより大日本帝国陸軍強化外装大隊は帝都に撤退。
「さすが、参謀長だ。言った通りになった」
指令室で高みの見物をしていた、早乙女煉とトニーが予想通りだと冷静な口調で話していた。
「ここまでは予想通りだ。だが、問題はこれからだ」
今までの経験から割り出す答えは何時も同じだ、軍隊と警察の知能は猿以下だ。
だがここは敵の本土だ、
「そうだな、無能な連中も慌てだす頃だろう」
「必ず防衛線を敷くだろう」
「それも予想の中に入ってるのだろう?」
「だから、早めに動いた。軍隊のやる事なんてだいたい一緒さ」
「そうだな、手の内が解ってしまうのは少し面白みにかけるがな」
「通信入りました!火縄先行突入部隊が群馬県に入ったそうです!」
通信兵からの連絡に解っていたかのように反応する。
「そのまま進軍を続けろ。続いて待機させている剛斬部隊を出せ」
「了解、剛斬隊出撃の準備をして下さい」
この様子で見ていたトニー・アーロンは恐ろしい男だと心底思った。
祖国にクーデターを起こしているにも関わらず、冷静で事務的に指示を出している。
自分には絶対に真似出来ないと心の中で強く思う。
この連絡を受けた帝国本部指令室は慌てていた。
「何?!第一大隊の輸送車の大半がやられただと!」
「はい…。報告ではテロリストが新潟に向かう経路に潜伏しており、それの奇襲に合ったと…」
兵士が情報を伝えるが陸軍最高責任者獅子王将軍は険しいままだ。
「敵の方が上手と言った所か…。正直、若造だと軽く見ておったわ。それに向こうには優秀な参謀がいるらしい」
「将軍、報告がありました。テロリストは我が軍と同様の強化外装と…、ん?飛行外装と小型電磁砲!?」
「何?やはり、準備をして来たか…」
焦りを殺し、表情に表れないようにする。だが奥歯を強く噛む、これは焦りの代わりの行為だ。
「獅子王将軍。大隊長より、連絡です」
司令室の巨大モニターに額に汗を浮かべる、大隊長の顔が映し出される。
『獅子王将軍閣下、まずは私の失態を謝罪します。帝都に尻尾を巻いて来た事に…』
追い詰められた表情は悲惨さを伝える。
「大隊長、自分を責めるな。これは相手の戦力を甘く見ていたわしの責だ」
重みのある声は自責の念に駆られる者の心を静める。
『もったいないお言葉、恐れ入ります…』
「大隊長。わしに報告したい事があるのだろう?」
『はっ!閣下。敵の戦力は我々の予想を遥かに超えており、今の兵力ではとても敵わずに兵の命を削るだけだと』
「飛行外装と小型電磁砲の事か?」
『それだけではありません。あの少年兵が使う、妖術の前に我が大隊は歯が立たちませんでした』
「何?妖術だと?奴め…。解った、それはこちらで対処する」
『はっ、了解』
正直冷や汗が流れた、魔術士を投入して来るとは思っていなかった。
魔術はこの国とっては極秘技術だ。それを外に漏らすと言う事はどのような理由があろうが、問答無用で死罪に問われる。
早乙女家の人間が知らないはずが無い。それを知っていて、戦力の一部として投入して来ると言う事は死を覚悟していると同義。
それに保有している、魔術士も気になる。大隊に撤退をさせるほどの魔術士にはそれほど多くはない。
心当たりを思い出し、口を開く。
「大隊長、少年兵はどのような格好をしていた?」
『赤い髪に髑髏を絵柄が入っていた服装していたような…』
「感謝する、それでは下がって良いぞ。指示は後で出す、その間休め」
『はっ』
大日本帝国陸軍本部。
「指令室から、指令が出た。各隊長は陸軍指令室に集合」
陸軍本部会議室は張り詰めた空気に包まれていた。
「我々に出された指令は埼玉県から防衛線を三つ敷き、それを死守する事だ!テロリストをこの帝都に一人たりとも入れるな!以上だ、質問は?」
俯いている隊長が一人、震えながら手を挙げた。
「大将殿…、我々は死ぬだけなのでしょうか?」
「貴様は自分が何を言ってるのか解ってるのか!我々の大儀を忘れたか!国民の命がかかってるのだぞ!」
「ですが!あの正体不明の妖術とどうやって戦えって言うんですか?!今まであんなのは見た事ありませんよ!」
大の男が今にも泣きそうな顔をしている、それほどに恐怖を味わって来たのだろう。
「他には質問がないなら、直ちに配置に着け…」
「何?!それは本当ですか!魔術士が戦力として…」
「そうらしい、強化外装部隊大隊からの報告だ。特徴は赤髪と髑髏の入った服装だと」
風斗は一人、心当たりがある。今年の五月に帝都大学付属高校に襲撃して来た魔術士。
火縄爆。早乙女煉が幻徒捕獲部隊の一人として、抱えていた一人。
「それが帝都に向かっていると?」
「あぁ。恐らく、帝都軍でけでは歯が立たないだろう…」
非科学部門は機密保持の為に円卓の星から圧力を受け動けない。
「じじい…、何時もの調子はどうしたんだよ!圧力なんかに負けるなよ!」
「風斗…」
風斗自身も自分が何を言っているか、自覚している。
もし、円卓の星の命令を無視すれば自分だけではなく他の人間にも被害が行く事は十分に理解している。
だが、このまま指をくわえて見ている事何て出来い。
所属も違い、殆ど顔も見た事が無いが同じ屋根の下で暮らしている同士が死のは見たくない。
もう、誰か自分の手の届く所で傷つくのは見たくない。
綺麗事かもしれない。でも大人の事情、国家機密、所属の違いとかはどうでもいい。
何も出来ない自分が悔しい。
午後22時、埼玉県と帝都の県境
「こちら陸軍強化外装第一大隊。配置完了しました」
『了解、そのまま待機していて下さい』
千はくだらない鉄で出来た鎧を纏った兵士達が規則正しく並んでいる。
見ているだけで、圧倒されてしまう。
続いて第二大隊も第二防衛線を敷き、第三大隊も第三防衛線を配置を終えた。
全ての防衛線を配置完了僅か十分の事だ。第一防衛線からの指令本部に入電が入る。
『こちら、第一防衛線!敵襲です!』
「何?!こんなに早く!構わん、攻撃しろ!」
「総員、戦闘準備だ!とにかく武器を構えろ!」
一人の兵士が正面を向くと怒号が聞こえる、自分達も聞き覚えがある音だ。
「やっはーーーーーーーーーーー!このまま、帝都に一直線だぜ!」
音と同時に赤髪の少年が物凄い速さで向かって来る、誰もが二時間前の恐怖を思い出し銃の引き金を引く。
「撃ち方やめーーーー!」
鉛の雨が止むとそこには無傷の少年が立っている、その姿に誰もが背筋を凍らせた。
「邪魔をするな!星下幻徒に俺は用がある!」
声を荒げた瞬間に並んでいた兵士が溶けた。




