文化祭と星下家その二
二千二十年十月二十四日。帝都付属高等学校文化祭初日。
今日の天気は運良く晴れ、季節も秋と言う事もあって過ごし易い陽気である。
そんな空の下、帝都高校の生徒達は朝から賑わっていた。
星下幻徒が在籍する一年一組もその例外ではなかった。
「早くしろよ!時間がないんだからな!」
「あれ?パンの予備ってあったけ?」
「コップが足りないけど!誰か知らない!」
教室は猫の手も足りないほどに騒がしい。
「ねぇ…、本当にこの格好でしなきゃ駄目?」
「今さら、何言ってるの?もう諦めなさいよ」
「恥ずかしいよ…」
「その姿も可愛いわよ…」
クラスの女子は目がぎらついて、息が荒くなっている。
「幻徒、もう諦めろ。内のクラスの優勝がかかってるんだ」
「別に良いじゃない。星下君、似合ってるよ」
「委員長まで…」
拒否する事は不可能らしい。ここは流れに身に委ねるしかなさそうだ。
だが、スカート何て履くのは人生で初めてで足元の風通しが良すぎる。
このメイド姿も親や第五部隊の人達に見られたらと想像しただけで顔から火が出そうになる。
「おい、幻徒。何、顔赤くなってんだよ。もしかして恥ずかしいのかよ?似合ってるだから、良いんだろ?俺なんて昨日、全員の笑い者だぜ」
「明日、明さん達が来るんだよ…」
「は?」
「だから、見られたら恥ずかしいよぉ…」
「それって、あの黒髪美人か?」
その会話を聞いていた男子が反応した。
「なぁ…、その話詳しく聞かせてくれるんだろ?星下」
「え?それはちょっと…」
「お前だけずるいぞ!毎日、美人に囲まれてるって話じゃないか!」
「美人って…。まぁ~、綺麗だと思うけど」
明の顔を頭の中に想像するだけで、自然と顔がにやける。
「星下君…。その私も聞きたいな…」
「え…」
委員長の身体に鬼か悪魔が重なって見えた、錯覚ではない。死を何度か覚悟した自分が見間違えるはずがない。
冷たい汗が額から流れるのが理解出来た。
『生徒会から全校生徒にお知らせです。これより、帝都付属高等学校文化祭を開催します』
突然の放送でクラスメイト全員が我に帰る。
本日の学校全体の雰囲気は何時もと違い、お祭り気分と言った所である。
一年一組の出し物。「仮装喫茶」も在校生と一般客とで賑わっている。
「「いらしゃっいませ!ようこそ、仮装喫茶へ!」」
「へぇ~。結構、可愛い子いるじゃん?」
学校の文化祭で付き物、見た目が派手な生徒が二人。目的は誰もが一目瞭然である。
「いらしゃっいませ、お席にご案内します。こちらへ」
幻徒は背中に刺さる視線が気になるが、今は接客中なのでここで騒ぎを起こす訳には行かない。
それに幻徒は極秘部隊に所属する身とは言え軍人だ、一般人に手を出す訳には行かない。
「こちらになります。ご注文がお決まりになりましたら、お呼び下さい」
その場から立ち去ろうとした時、見た目が派手な生徒の一人が表情をにやつきさせながら口を開く。
「ねぇ~。君すごく可愛いね!この後、俺達と遊ばない?」
「は?」
「だからこの後、俺達と遊ばないって言ったんだけどさ。聞こえなかった?」
「あの~。僕、男なんですけど…」
「「え?!」」
まぬけな声と同時に派手な見た目の生徒は固まる。
「ここ仮装喫茶なんですよ。パンフレット見ませんでした?ナンパするなら、他の所に言って下さい」
「あぁ!てめぇ!上級生に向かって、なめた態度とってんじゃねぇぞ!」
お決まりの展開が起きてしまい、少し反省をする。
どうするか悩んでいると、大きな人影が後ろに立っていた。
「お客様、店内での騒ぎはご遠慮しております」
「げっ!ボクシング部の佐々木?!」
後ろにはタキシードを着用して虎雄が立っていた。
「まだ何かありましたら外でお話を聞きますが?」
「「ひっ!!」」
情けない声を出し二人共、尻尾を巻いて逃げて行く。
「ありがとう、虎雄。助かったよ」
「気にすんな。あんなの相手にしなくて良いからな、変なのが来たら俺を呼べ」
右腕を胸に軽く叩く、その姿は勇敢な戦士だ。
「ちょっと!早く次の客通してよ!」
「直ぐに行くよ!」
忙しさに時を忘れ、あっという間に十四時を時計の針が示している。気がつけば、慌しさが嘘のように引いていた。
「人も引いて来たな。委員長と幻徒は休憩に入って良いぞ」
「え?良いの?」
なぜ委員長と二人なのかが気になったが、朝から働きぱなっしだった為そんな事に頭を働かせる余裕は無かった。
「良いから、二人で行って来い」
強引に二人の背中を押し、控え室から締め出した。
「締め出されちゃったね…」
「うん…。行こう」
自分の格好が仮装したままだと気づいた時には教室から離れた後だった。
「ねぇ~、何食べようか?」
「何でも良いから早く食べたい。お腹空いてるし…」
二人の間に淡い空気が流れる。これは他人から見れば、恋仲である。
「そこのカップル!」
「私達?」
「そう!あんた達!お嬢さん達だよ!内の店に寄って行ってよ!」
威勢の良い声が聞こえて来る。そこのクラスの出し物は文化祭の王道である屋台だ。
嗅覚を刺激するソースが二人の食欲を誘う。
「じゃ~、たこ焼きと焼きそば下さい」
委員長の表情は何時も以上に緩んでいた。
「まいど!ありがとうね!またよろしくたのむよ!」
女性に荷物を持たせるのは男性として余り好ましくない為、自ら商品を受け取る。
そのまま休憩出来る場所を探し廊下再び歩き始める。
同時刻。大日本帝国中央、星下家跡地。
非科学部門第五部隊隊長八雲風斗は幻徒の身体に起きた異常の原因を探る為、この国の中央に足を踏み入れた。
何故星下家だけが帝都の中心に存在するのか、それには幾つか説がある。
一つ目、星の光を利用して魔力を生成する為。
二つ目、この帝都を守る為に星下家中心に作られた。
三つ目、星下家がこの国を発展させた為。
風斗は自分が持っている情報が正しいのか思考を巡らせる。
「さすがにこれだけ焼けてたら、何も無いか…」
何時もの様に白髪交じりの頭を揺らし、焼け跡の上を歩く。
屋敷の半分が焼け落ち、殆ど何も残っていないと半分諦めの感情が思考を鈍らせる。
ポケットの中に入ってる煙草を取り出し、火を付ける。
煙を口に含み、吐き出す。すると風もないはずなのに煙が空に消える。
それに気づき、足元を調べる。
「こいつは…」
そこには地下室へと続く扉があり迷いも無く扉を開け、歩を進める。
階段を下り、辿り着いた部屋でまず目に付いた物は人一人が入るカプセル。
周りを観察する、部屋の広さは学校の教室と言った所で乾季をする為に窓が何箇所か付いていた。
一番奥には恐らく何しらの研究をしていたのだろうと思われる形跡が残っていて書類も散らばっている。
まず何か掴めないか、その書類を手に取る。そこには何かの研究の記録が記されていた。
『二千五年、初頭。私は星下家が管理する、聖遺物が周辺諸国に狙われている事を耳にする。
私はそれに危機感を覚え、ある事を思いついた。聖遺物の保管場所を変える事だ。
だが、変えるだけでは直ぐに見つかってしまうだろう。だから、移動する箱に入れてしまう』
風斗はこの文章の内容を理解して、衝撃を受ける。
『さらに時が経てば、消滅すれば都合が良い。そんな物を思いついた、成長するホムンクルスを生成する。
さらに寿命を設定し普通の人間にように暮らし、一生を終える。そうすれば聖遺物を廻り争いは無くなる。
私はこの事を「next generation計画」と命名する。
これが完成し、世の中から戦争と言う物が無くなり全ての人間が話合いの席に着く事を祈る』
これが今まで自分が抱いて来た謎の真実なのかと思ったが、続きがまだあるらしい。
間のページがあるが読み飛ばし、気になる部分を読む。
『二千十年。幻徒ももう、五歳になり。大分言葉も覚え、会話が出来る様になる
私の事をパパと呼ぶこのホムンクルスの事をわが子と思ってしまう程、愛おしい。
だが私は命を狙われている身の上だ。何かあったら、円卓の星代表代理獅子王に全てを任せる』
何か他にないか周りを見渡すが何もないらしい。この書類と遺書だけらしい。
「あなたがここに来るとね…」
背後から聞き覚えのある声が聞こえ、咄嗟に身構える。
「早乙女煉!つけていたのか!」
「その書類を渡してもらおう!渡たせば、悪いようにはしない」
「俺がそんな素直な人間に見えるか?」
「抵抗する気か?あなたに勝ち目はありませんよ?」
咄嗟に近くの窓を破壊し外に逃げ、難を逃れた。




