準備と星下家
土本一襲撃事件から時間が経過し、季節が移り変わろうとしている。
木々の葉を紅葉を始め、太陽が沈み景色を茜色に染める。
行き交う人々は肌の露出をしなくなる、季節は秋。
「学校に来るのも久しぶりだな…」
駅から見える景色はすっかり様子を変え、蝉の声が聞こえないのを少し寂しく感じる。
だが、見慣れた人混みは相変わらずで笑みを浮かべる。
これが、自分のもう一つの日常だ。
足を進め、学校へ向かうとすると聞き覚えのある声が後方から聞こえて来る。
「星下君!もう、大丈夫なの?」
「え…。あ、委員長か…」
いきなりクラス委員長が近づいて来て、驚きを口に出してしまう。
「何よ失礼ね、私がいたら不服?」
「別にそういう、意味じゃないよ」
「それより、星下君。身体は大丈夫なの?大怪我をしたんでしょ?」
「平気、平気。しばらく訓練も休んだし、敵も来ないし…。これは極秘事項だった?!」
「敵?星下君って、軍隊で何してるの?もしかして、物騒な事してるんじゃ…」
「ごめん。委員長、これ以上は言えないんだ。規則だから」
「そうなの?無事ならそれで良いけど」
「え…」
心配そうな表情を浮かべるその姿に虚を衝かれて、心臓の鼓動が早くなる。
「お、二人とも朝から熱いね~」
さらに二人をからかいながら、寅雄が現れる。
「ち、違うわよ!私は星下君とたまたま会って…」
「そっか、本当に~?」
「虎雄、止めてあげなよ」
他愛無い会話をしていると、学校に到着しそうである。
「そういえば、内のクラスの出し物って決まってるの?文化祭があるって…」
「もう、準備にしてるぜ。それは学校に行ってからのお楽しみだ」
自信あり気に笑みを浮かべる。その姿を見て、楽しみになっている自分を子供だと少し心の中で笑う。
約一ヶ月ぶりの校舎に新鮮さを感じ、まるで入学してたての頃を思い出した。
校舎に足を踏み入れると、生徒達の様子がすっかり変わっていた。
夏服から冬服へと衣替えをしていた。
「おはようっす!幻徒が戻って来たぞ!」
虎雄の声でクラスメイト数人が集まって来る。
「皆、久しぶり」
数ヶ月前にもこんな光景を見たが何度見ても照れてしまうが文化祭の準備期間と言う事もあってか、教室の様子は何時もと違う。
一目で認識できるのは教室全体に飾りつけが施してあると言う点だ。
他に黒板に歓迎をする言葉が書かれている。
恐らく、飲食店を出店するつもりなのだろう。
「あ、星下だ。久しぶり、元気だったか?」
「本当だ!星下君だ。大怪我したって、聞いたけど大丈夫?」
「う、うん。今は平気…」
クラスメイトの優しさに胸の奥が暖かくなるのを感じた。
そうこうしてると、予鈴が鳴り響く。
「虎雄、内のクラスは何するの?」
「聞いて驚くなよ…」
虎雄は自信ありげに表情に笑みを浮かべる様子を見て、その雰囲気に息を呑む。
「内のクラスは仮装喫茶だ!!!」
その言葉に言葉を失った、余りの安直さに呆れてしまった。
「それって、他のクラスでもやってない?」
呆れ気味に言うと自信満々に答えた本人は反論に出る。
「お前、ただのコスプレ喫茶だと思ってるだろう!内のクラスは違う!」
「何が違うの?」
「男子生徒が女装をし、女子生徒が男装をするんだ!」
力説をする姿はまるで演説をする独裁者だ。その姿に圧倒されてしまう。
「は?」
「何だ、何だ!そんな顔はいかにも、めずらしくもなんともないって言いたそうな顔だな!」
「そうじゃなくて、女装って…」
「当然、お前もするんだよ。当然だろ?」
当たり前のように言葉にする。
「星下君の女装見た~い」
突然作業をしていた女子が入って来た。
「え?!突然、何言ってるの?!」
「だって星下君の顔って、顔の作りが薄いから化粧栄えすると思うんだよね!それに身体つきが細いし!」
「突然そんな事を言われても、困るよ…」
「良いからさ、この衣装着て見てくれる?」
だんだんと近づいて来る顔は恐怖に近いものを感じる。
「はっ、はっ…」
息が荒くなって、はたから見ればただの変質者だ。
「待って…。少し落ち着こう?」
気がつけばその姿に脅えている子羊になっていた。
「あぁーーーーー!」
数十分後。
「きゃーーー、可愛いーーーー!」
「酷い、お婿に行けない…」
クラスの女子達が囲い、目を潤まる。
「大丈夫だよ。なんなら、私が貰ってあげようか?」
今、自分がどのような姿をしているかは解らないが男として大事な物を失ったのは間違いない。
「佐々木も見てみなよ!星下君、超可愛いよ!内のクラスが優勝間違いなしね!」
「え…、優勝?」
優勝と言う言葉に反応してしまった。
「お前には説明してなかったな、この学校は文化祭最終日にクラスの出し物の順位を決めるんだ。それでな、優勝すると修学旅行の行き先を決める権利が貰える」
「え?それだけ?」
「いや、後もう一つある。その行き先がどこであろうが予算が全て学校が負担してくれる!」
少し前の自分なら一緒になってはしゃいでいるだろうが、今は冷めている自分がいる。
それはたかが学校の行事だと思っているからと言うのが本音だ。
死線を潜り抜け、一回は死を覚悟をした事もあった。そんな事から比べれば、ここは平和だ。
決して見下しているわけではないのだが、心の底から喜べない。
そんな自分を鼻で笑った。浸っている場合ではない、今は自分が望んだ日常にいるのだから。
「そうだ。委員長、買出しがあるんだろ?行ってくれないか?」
「え?そうだっけ?」
急に思い出したように言葉にする。
「昨日、言ってただろ?あ、幻徒も一緒に言って来いよ。委員長、一人じゃ大変だろ?」
「え?!この格好で?!」
なぜか、委員長と材料の買出しに行かされる事になってしまう。
同時刻、非科学部門第五部隊事務室。
風斗は何時もの締まりがない顔ではなく、深刻な顔で書類を眺めていた。
「これが本当なら、不味い事になるぞ…」
事務室には自分一人だと確認する、盗聴器などがないか慎重に索敵をするが異常はない。
異常がないと確認すると、ある人物に連絡を取る。
『珍しいなこんな時間に連絡をして来るのは、急にどうした?』
「将軍…。急なお願いで恐縮なのですが、星下家立ち入りの許可を私に下さい」
『急だな…。幻徒君の事か?』
「はい。隠しても、将軍には直ぐにばれてしまうので」
『はっははは!お前と何年の付き合いだと思っておる!それで、幻徒君は大丈夫なのか?』
「それが、身体に謎の異常が発生しています」
『異常?まさか、あの光の柱が関係あるのか?!』
「はい…。幻徒は以前将軍が仰っていた、聖遺物集合体です…」
『やはり、そうだったか…』
「はい。あいつの身体に亀裂があり、常人ではありえない症状だと。俺の責任だ…、襲撃されると解っていたはずなのに。もっと早く対策ができたはずなのに…」
自分の愚かさに奥歯を噛む。自分の慢心で部下に負担を掛けてしまった。
『風斗よ自分を責めるな、これはわしの責でもある。それに幻徒君の力を悪用しようとしている連中が背後にいるのだ、まずその連中をどうにかするのが先だろう?星下家の立ち入りは直ぐに手配しよう』
「無理な申し出にお答えして下さって、ありがとうごさいます」
優しい言葉に瞳から涙が零れそうになったが、強がって見せた。
『無理はするな、何か直ぐに連絡しろ』
「それでは失礼します…」
自分が弱さ見せれる二人の内の一人だ、部下には絶対にこんな姿は見せるわけにはいかない。
何時もは締まりがない顔は今だけは重圧に負けそうになり歪む。
そんな己を落ち着ける為、煙草に火を付け煙を肺に送る。
二人で歩くのはこれで二度目だ。
この何とも言えない空気ははっきり言って気まずい。
何を話して良いのか、戸惑うのは年頃なのだと言い訳を胸の中でする。
「ねぇ…、星下君」
「何」
「軍隊に入って何してるの?答えられる範囲で良いから」
隣で歩くその頬はほのかに赤色に染まっていた。
「う~ん。僕のいる部隊は五人しかいなくて、毎日大変でさ」
「え?!たった五人、それだけで何してるの?」
「訓練したり、事務室の掃除かな…」
「掃除って、何で?」
「隊長がさ、だらしない人で良く居眠りしてるんだよ」
「星下君、楽しいそうだね」
「そうかな?楽しいと感じた事はないよ…。辛い事ばかりだしそれに怖い人もいるしね」
「もしかしてその怖い人って、あの黒髪美人?」
笑顔を浮かべて見せる。
「そうなんだよ、少しでも遅刻すると怒るんだよ。少しは優しくして欲しいよ」
「でもその人の事、嫌いじゃないんでしょ?」
その時自然と明の顔が頭の中に浮かび、身体の温度がほんのりと上がり頬が赤くなる。
「そうだね、嫌いじゃないね」
「そうなんだ…」
少しの無言が二人の空間に生まれる。この時間が身体に悪い、はっきり言って委員長とはほとんど関わりがない。
それは当たり前の事だ。高校に通ってた期間は一ヶ月ほどで、クラスメイトの名前はほとんど知らない。
それに自分は軍隊でも情報開示がされていない部隊に所属している為、ほとんど友達とは会えないのだ。
「ねぇ…。文化祭の当日、一緒に回らない?」
「え?」
「星下君が嫌なら、別に良いけど…」
女の子の上目使いに心臓が反応する。
「べ、別に良いよ」
「ほ、本当!」
その姿は、子供が嬉しくてはしゃいでいるようだ。つられて、表情に笑みが生まれる。
他愛無いやり取りをしているとあっと校舎に到着してしまった。
教室に戻ると、虎雄が女装をしていた。
「何してるの?」
「違うんだ、これは女子どもが!」
筋肉隆々の男が女性物のメイド服を着用している。その姿を直視し、身体が硬直してた。
すっかり日は落ち、鴉が鳴き始める時刻。普段なら生徒達は下校する時間だが、文化祭準備とあってほとんどの生徒が残っていた。
幻徒は小型携帯端末を取り出し、通信画面をタッチする。
「もしもし、明さん?」
『何だ星下、私に用でもあるのか?』
「あの~。もし良かったら僕の通っている学校で今度、文化祭をやるので一緒に回りませんか?」
『え?!貴様はいきなり何を言ってるんだ?!心の準備が…』
「文化祭は週末ですよ?」
『そ、そうか…。いきなりで驚いたぞ…。話は星下が戻って来たらにしよう。それでは通信を切る』
「何か、様子が変だったな。ま、良いか」




