大日本帝国非科学部門駐米部隊赤い番犬総隊長早乙女煉帰国その三
自分の前に「星下幻徒」が刃を構えているが、何も感じ無い。
「実物は大した事ないな…」
鼻で嗤い、煙草を吹かす。だが、油断は出来ない。
「はっ!」
いきなり、高速で接近して切りつけて来た。これはかなり物騒だ。
しかも、地面に軽くクレーターが出来ている。
「やはり、化け物だな」
冷静に状況を観察すると刀を振る力で生まれる衝撃で地面にクレーターが出来るのははっきり言って「異常」だ。
「僕は人間だ!」
続けて、刃がわき腹目掛けて向かって来るがもちろん避ける。
数メートル距離を取り、口を開く。
「どの口が人間だって言うんだ?常人は高速で動いたり、クレーターなんて作れない」
この少年は「化け物」と言う言葉に反応する。これを利用すれば、捕縛できる。
「どうして、あなた達は僕を狙うんだ!僕は…」
会話になってない、これは相手が動揺している。これは好機だ。
敵と打ち合っていると、胸の奥が苦しい。これは一体なんなのか、自分でも解らない。
ただ、はっきりしているのは「化け物」と言う言葉を耳にすると胸の奥に針が刺さったような痛みが走る。
「僕は、人間だ!」
同じ事を言葉を叫んでいる。
「俺の話が耳に入っていないようだな」
敵の腕が腹部に向けて突き出され、身体が吹き飛ばされる。
「ぐぅ…」
森林の中に吹き飛ばされ、木が数本薙ぎ倒されるが大した傷では無い。
「ほう、今のは力を入れたのだがな」
ゆっくりと向かって来る足音がはっきりと鼓膜に響き、睨み付ける。
立ち上がり、高速で駄目なら音速で動けば良いだけの話だ。
「はっ!」
身体が軋む音が聞こえるがそんな事は今構っていられない。
目の前の敵を何とかしなくてはいけない。
「何?!」
音速で一直線に突っ込むがこちらの攻撃が当たらない。
「くっ…」
何故当たらない、それだけを考えていた。相手は未来予知でもしているのか。
もし、そうだとしても音速で移動していば反応できないはずだ。
後ろに振り向き、敵を睨み付ける。
「い、今のは危なかった…」
敵は冷や汗を流し息を荒げる、その隙にいっきに距離を詰める。
「これで終わりにしてやる!」
刀を音速で振り下ろし、その衝撃で周りの物が吹き飛びクレーターが出来上がる。
土煙で周りが見えなくなり、敵の姿がなくなる。
これで終わりだと楽観するほど、幻徒は愚かではない。
「はっ、はっ…」
視界が晴れるが身体が動かない、あれだけの力を出せば当たり前の話だ。
人間が一瞬で木端微塵になるほどの衝撃を出したのだ、普通は本人も一緒に消えている。
数ヶ月前も魔力を使い過ぎて身体が悲鳴を上げ、危険な状況になった事があった。
その事を思い出し、自分の未熟さに嫌気が指し奥歯を噛む。
「この化け物め、お前の力は底なしか!」
どこからか、声が聞こえると同時に足元の地面が噴火を起こし身体が宙に舞い上がる。
「え…」
自分に何が起きているのか理解出来ず、さらに衝撃が加わり地面に叩き付けられる。
「ぐはっ!」
数十メートル中に舞い、さらに叩き付けられ身体にかなりの痛みが走る。
まともな人間なら死んでいるが幻徒は何とか立ち上がろうとしている。
「それだけの傷を負って、まだ立て…」
言葉を言いかけた時だった、土本一は自分の背中に殺気を感じた。
殺気はどうでも良いのだ、常人ならすでに死んでいる高さから叩き付けたはずなのに自分の直ぐ後ろにいる事に焦りを感じていた。
再び、刀を人目では追えない速度で振り下ろす。
「何っ!?まだ、動けるのか?!」
だが、またもや身体を高速で動かし斬撃をかわし距離を取る。
「そうだよ…。僕はあの位じゃ死ねない!痛みも直ぐになくなるし!傷も直ぐに治る!でもここがすごく痛いんだ!」
胸を押さえ、悲痛をぶつける。
これが今の自分の気持ちだ、傷も直ぐに治り、痛みも直ぐに癒える。
これは常人にとっては良い事なのだが、星下幻徒はこの二ヶ月ずっと悩んでいた。
今まで「普通」と思っていた自分がこの「力」があるばかりに「化け物」と呼ばれる。
この言葉に過敏に反応してしまう自分がいる。「普通の学生」と「特別な存在」の間で揺れていた。
周りの人間も「特別な人間」と言う目で見ていた、それが心地良かった。
だが、友達と一緒にいる時も楽しかった。
結局、自分は中途半端でどっち着かずの子供だ。
そんな事をずっと一人でずっと考えている内に胸の中に黒い物が出来ていた。
「だからどうした?私には関係ない事だ。そんなに化け物が嫌か?それじゃ、大人しく軍門に下れ!」
手を前に突き出す、そして幻徒の足下の土が突然軟らかくなり足場を崩す。
だが、何かを察知し距離を取るが後方から硬い物体が接近する。
反応しきれずに衝撃で前に押し出される。
「くっ!」
身体が蟻地獄に吸い込まれて行く、身動きが取れない。
「はっはははは!これでやっと願いが叶…。ん?!いない?!」
土に埋もれていたはずが姿が無い。とっさに魔力を追うと頭上にいた。
「誰が化け物って言われて嬉しいんだ!」
太陽を背に敵に目掛けて、刃を振り下ろす。
幻徒の動きが早すぎて、避ける事が出来ず両腕で致命傷を防ぐ。
「あの短い時間で回復したのか…」
衝撃で身体が数メートル下がる。
「そうだよ…。この身体は少しの時間があれば、致命傷も動けるまでに回復する」
「少し、油断したようだ…。そろそろ、本気を出すとするか」
一瞬で土本一の姿が消えた。気配も足音も無い。
幻徒は精神を集中させ、相手の魔力を追がどこにもいない。
すると、足元から人間の手が生えて来て両足を掴み身体を引きずり込もうとする。
「僕にそんな手が通用するとでも?」
刀に魔力を通し、地面に突き刺すが手応えが無い。
「所詮はまだ、子供」
「え?」
背中に冷たい殺気が尖った刃のように突き刺さる。
「がはっ!」
気がつけば口から血を吐き、自分の身体に敵の手が貫いている。
「これで終わりだ…。化け物」
血まみれの片腕を笑みを浮かべ引き抜き、勝利を確信した瞬間。
土本一の身体が一直線に吹き飛ばされ、木にぶつかりそのまま地面に滑り落ちる。
この時何が起こったか理解出来なかった。確かに自分の手はあの身体を貫き、臓器の一部を破壊してはずだ。
それなのになぜ立っている。なぜこっちを見ている。なぜこっちに向かって来る。
疑問が頭を支配する。答えは簡単だ、相手にしているは人間の格好をしている「化け物」だ。
なぜか笑いがこみ上げてしまう。自分が愚かだったのか、相手が化け物なのか。
理由なんてどうでも良い、答えはもう出ている。
自分の悲願のために戦うと誓った。誰の為ではなく、自分の為に。
妻と子供がいた、あの時間を取り戻すために地獄の落ちようと決めた。
だから、ボロボロの身体で立ち上がる。
「私の願いを叶えろ。聖遺物集合体」
「はっ、はっ、はっ…」
自分がなぜ、敵を真っ直ぐに見つめているのか理解出来なかった。
ただ、理解しているのは身体に穴を空けられ血まみれになった事だ。
身体を触るが、その傷も治癒しつつある。
今の本心はこの身体で良かったと心底思っている。気づけば、胸の中にある黒い物がなくなっていた。
考えていた自分が馬鹿見たいに見えて、自然と笑っていた。
すると身体が軽くなっいる事に気づく。
そして、二人は一直線に力をぶつける。
「貴様は私の願いの為に捕まれば良い!」
「あなたの願いって何なんだ!僕はその願いの為に狙われていたのか!」
二人は刃と拳で命の取り合いをする。
「そうだ!私には叶えるべき悲願がある…。願いの為に貴様は死ね!」
右ストレートが顔面目掛けて放たれるがそれをかわし、刀を上に振り上げる。
「あなたの事は知らないけど、そんな個人的な願いで僕の命を差し出す事は出来ない!」
全うな理由を言葉にするが相手は聞く耳を持たない。
「だからどうした?そんな事は私には関係ないんだ!願いが叶えばそれで!貴様が死ねば、里美と香奈が帰って来る!」
まるで狂った狂信者である、自分の妻子の名を叫ぶ。誰が見ても異常者だ。
「あなたは一体何を言ってるんだ?!僕が死ぬと願いが叶う?!そんな事、あるわけないだろう!」
「貴様は何も知らないんだな!お前の身体の中にあらゆる聖遺物が入ってるんだよ!呼び方を変えよう化け物。いや、聖遺物集合体!」
全く聞き覚えのない言葉に頭が一瞬真っ白になる。
「僕の中に、聖遺物?」
聖遺物何て言う単語は初めて耳にする。
十五年間生きて来て、魔術に触れたのはこの約半年だ。そんな、素人同然の自分に聖遺物何て言われても困惑するだけだ。
しかも、自分の身体の中に聖遺物が入ってる何て信じられない。
「そうだ!貴様が知らなくても、俺達が知っていればそれで良いんだよ!だから死ね!」
暴言の嵐に眉間にしわを寄せる。だが、相手の言葉に耳を貸している時間は無い。
早くこの男をどうにかしなくてはいけない。
「くっ!」
身体が負荷に耐えられずに悲鳴を上げる。痛みが全身に走り、歯を食いしばる。
「どうしたっ!そろそろ限界かっ!」
一瞬、痛みで力が抜けた瞬間。相手の攻撃で後ろに弾き飛ばされるが空中で体勢を整え地面に着地する。
「何だ?!まさか!」
着地した、地面が足を飲み込み固定する。
「これで今度こそ動けないだろう…」
足掻いてみるが、微塵も動かない。
「どうすれば…」
少しずつ近づいて来る、敵は興奮しているのか両目が淡く輝いていた。
「右手が邪魔だな…。千切っても、大丈夫だろう」
近づいて来る人間が悪魔に見えた。
それもそうか、今自分は地面に両足が埋もれていて身動きが全く取れない状態にある。
こんな危機的状況は何度もあったが、今回はどうにもならない。
今までは仲間が助けてくれたから何とかなったが、今は自分一人。
しかも、何故か周りには誰もいない。恐らく、人払いの結界が張ってあるのだろう。
おまけに身体は力の使い過ぎでボロボロ。
今回ばかりは死ぬかもしれない。
「これで、願いが叶う…」
不敵な笑みを浮かべ、右手を振り上げ軽く振り下ろした。
すると、激痛が身体中に電撃を走らせる。
視点を痛みの方に向けると右手が地面に落ちていた。
「ぐっ!」
自分の片腕が切り落とされたのだ、余りの衝撃で言葉が出て来ない。
「痛みで声が出ないか?化け物も痛みは感じるのか?」
痛みで相手が何を言ってるか聞き取れないが、良く切り口を見てみると出血していない。
自分の身体は普通ではないと解っていたが、怪我をすると出血はしていた。
「ん?何故、血が…!どういう事だ!さっきまでは!この化け物がぁ!」
切り落とした本人も混乱している。
「そうだよ、僕は化け物だよ!」
敵の胸ぐらを掴み叫んだ。
「でも今はこの身体で良かったって、はっきる言える!悩んでた自分が馬鹿だって思える!あんたに解るか!僕の気持ちが!普通って事がどれだけ大事か!」
「そんな事知るか!私は自分の願いが叶えばそれで良い!普通?だからどうした?それは貴様の事情だろう!私は家族が帰ってくればどうでも良い!」
土本一は掴まれた腕を振り払い距離を取る。
「それになも私の普通は『家族』がいる事だ!今が異常なんだよ!」
「あんたは僕を殺して、蘇った家族はどう思う!それで喜ぶと思ってるのか!あんたは自分の事しか考えてない!」
この男の目的がはっきりとした。自分を殺して、家族の蘇生。
「私は何も悪く無い!悪いのはこの国だ!あの火事さえ起きなければ、今頃…」
この男はあの火事と言い放った。それはもしかして十年前の『星下家大火災』の事だろうか。
「この国は何もしてくれなかった!ただ、不幸の一言で片付けた!だから私は!」
「それで僕を殺すのか!それは間違っている!」
「だから、何だ!貴様に何が解る!たった、十数年しか生きていないガキに!」
完全に理性を失い、殺気を纏いこちらに向かっている。このままでは確実に死ぬ。
死が高速で迫って来ている、こんな状況が前にあったと思い出していた。
すると相手の動きがスローモーションに見えて来た、これは走馬灯とものなのだろうか。
本格的に死を覚悟した。
『破損部位を確認しました。修復します』
機械的な声が聞こえたと同時に切り落とされた、右腕が再生する。
『生命維持の危機を感知しました、第二防衛機能を使用。展開を開始します』
その瞬間、幻徒の身体が輝き出し土本一が何かの衝撃波で吹き飛ばされる。
さらにその光が空まで一直線に伸び、何かが砕ける音が響く。
「な、何が起きてるんだ?!私はこんな事聞いていないぞ!」
その光は全世界の機関に観測される事になる。
目を開けるとそこには、資料でしか見た事がない物が空中に浮かんでいた。
正確には星下幻徒の後方に剣、弓、斧、槍など視界で確認するだけで各種類の武具が漂っている。
まるで、指示ほ待って整列する兵士のようだ。
「貴様はバビロニアの王か…」
自分の想像を遥かに超えた本物の『化け物』が目の前にいる。
瞳は輝き、身体の周りには淡い光の粒子が漂よい神々しい。
自然と身体が動かない、こんな少年に自分が恐怖を感じいている。
「そんな…、俺が、俺がこんなガキに!」
無意識に身体が動いていた、死にたくないからだ。
こんな子供に死の恐怖を感じいている自分を認めたくないと言う意地が恐怖に勝る。
気がつけば敵が高速で迫っていた、だが自然と恐怖や焦りは無かった。
何故か冷静で状況を見ている。それに自分の身体が熱いし周りに淡い光が漂っている。
「一体、何が起きたんだ…。あれ、刀が無い」
右手に握っていた、愛刀が無くなっている事に気づく。
すると空間から見た事も無い両刃刀が現れる。
「これ何?剣?」
握っている剣を眺めていると、高速で接近している事にようやく気づく。
「この化け物が!さっさと…」
「もう、止めませんか?僕はもう、あなたと戦う気はない」
「な…、何時の間に後ろに?!」
高速を遥かに超えた瞬間移動で敵の後方に立つ。
「くそっ!」
拳を突き出すが幻徒には届かなかった。
「終わりにしよう…」
一言だけ呟く。
「里美…、香奈…」
土本一は倒れた。
後少しだけ続きます




