大日本帝国非科学部門駐米部隊赤い番犬総隊長早乙女煉帰国その二
早乙女煉帰国祝賀パーティーの後日。
非科学部門第五部隊は打ち合わせ室で日程を上官から説明を受けていた。
「本日の日程を伝える。第三区画大日本帝国軍管轄区兵器開発部に早乙女煉総隊長が視察を兼ねて訪問なされる。以上質問は?」
「はい」
風斗が何を思ったか挙手をする。
「発言を許可する」
「あの~。何故、軍が管理する区画にで警護が必要なんですかね?」
「貴様、早乙女総隊長がどう言うご身分が知っているだろう。最初は第一部隊で担当したいと申し出たが大勢の護衛がいると周りの兵士達に気を使わせてしまうと言うご心配から貴様達になったんだ、これは総隊長のお心使いだ。感謝しろ」
質問なんてものは必要なかったが一様聞いて見た。予想通りの答えが返って来た。
早乙女煉がどう言う立場なのかは話を聞かなくても解りきっている。
二十五歳と若さで創設されたばかりの部隊で総隊長と言う地位に就けば、誰かしらに怨みや嫉みを買うだろう。
それに早乙女家の御曹司だ、暗殺や襲撃は十分に起きうる事だ。
だが今日足を運ぶ場所は国と軍が管理する区画だ、テロリストも易々と侵入出来ない。
それはあくまで、テロリストだった場合だ。もし軍の内部にいる人間なら犯行は可能だが、その場で処刑だろう。
「他に質問がないようなら出撃準備を整え、集合!」
大日本帝国第三区画。ここは会社と研究施設が密集している。
一般企業が密集している区画と軍が管理している区画と二つに別れている。
軍が管理している区画は特殊第二番地と呼ばれ関係者以外立ち入り禁止である。
特殊第二番地は主に兵器の開発と魔石の加工をしている。
大日本帝国が保有している魔術技能と魔石は他国と自国の一般市民には一切情報開示しておらず、もし情報を持ち出した人間がいれば重罪に問われる。
日本の中でも首脳、非科学部門、円卓の星しか情報が伝わらないようになっている。
「ここが特二ですか」
早乙女煉は関心があるように声に出す、本心は全く興味が無い。
この男の関心は悲願を達成出来るかも知れない「聖遺物集合体」だ。
「全員、早乙女煉総隊長に敬礼!」
その場に居た、技術兵達が一斉に敬礼する。
雄雄しい声が作業場に響き、耳に金属音がなる。
「総隊長殿、兵士達に何か一言お願いします」
「私の為に貴重な時間を割いて頂きありがとうございます。今日、私がここに来たのは米国での研究データを皆さんのお力を借りて完成する事です。どうか、私にご協力をお願いします」
下下の者達の為にこの言葉を口に何回口にすれば良い。
正直飽きてしまった、思ってもいない事を口にするのがこんなに苦痛だとは思わなかった。
今、視界に入っている星下幻徒を我が物にしたい。
だが、今自分が行動するわけには行かない。ここは我慢だ。
「総隊長殿のありがたいお言葉だ!しっかり、記憶しておけ!」
「ここが今日から総隊長に使って頂く、作業所です」
「ありがとうございます」
「何かありましたら気軽にお申し付け下さい」
「解りました、下がって良い」
「はい、それでは失礼します」
早乙女煉は二ヶ月の間使用する作業場に案内され、一息付いてた。
「総隊長。早速ですが、作業に取り掛かってもよろしいでしょうか?」
開発主任の山田が口を開いた。
「構わない。ただ、周りに気づかれないようにしろ」
「解りました、それではまた後で」
山田は飛行外装の起動実験をする為、部屋から外に出て行った。
すると入り口の鍵を掛け、戸締りをする。
「ふぅ…。やはり、まだ慣れんな」
仮面を取り、椅子に腰を下ろす。
疲れが溜まっているのだろう、溜息が自然と零れる。
そして、小型の情報端末を取り出し「聖遺物集合体」についての資料に目を通す。
この資料を手に入れた時は衝撃を受けた、この世界を変えられる可能性を持った物があるとは思ってもいなかった。
時間も遡り、思いのままに出来る。それはタイムマシンがなければ不可能だった。
だが、「聖遺物集合体」を手に入れる事が出来れば過去の変換も可能なのだ。
星下家当主が研究していたとされる「成長する人造人間」。
なぜ「成長する人造人間」を作らなければならなかったのか、資料にはこう記したあった。
『星下家が保有している聖遺物が他国に狙われていると察した我々は一つの場所に保存しようと決定した』
さらに続きがある。
『これらが周辺諸国に渡れば争いの火種になるだろう。それだけは必ず避けなければいけない』
これで資料は途切れていた。
早乙女煉はこの資料で空想を頭の中で描いた。
願い叶える聖遺物は聖杯、魔剣と考えるだけで表情に笑みが浮かぶ。
もしもこれらの物が星下幻徒の体内にあるなら早く解体したい。
「はっははははは…」
声を殺して嗤う。
「隊長~。退屈で~す」
第五部隊は特二兵器開発施設周辺で警護をしていた。
『我慢しろ、俺だって退屈だ』
小型通信機で会話をしている。
「やっぱり、幻徒の事を狙ってるんですかね?」
『確証はまだ無いがその可能性が高い。警戒するに越した事はない』
「僕って、狙われてるんですかね…」
『由紀の言っていた事は本当だろう。お前も気をつけろ』
幻徒と雷火は二人は入り口を警護、風斗は周辺に生えている木の下で雑誌を読んでいた。
「そう言えば、明さんは?」
『あいつなら、由紀と一緒に屋根の上で警護だ』
「そうなんですか?なら、大丈夫ですね」
なぜ幻徒と雷火が一緒に警護をしているか、それは一人にしない為である。
これは風斗の勝手な憶測だが、敵は恐らく幻徒が一人の時を狙って来る。
しかも今度の相手は風斗の同格だ、幻徒一人では危険だ。
「ブラウン、周囲には敵はいるか?」
「う~ん。正確な位置は解んないかな~、それよりダーリンに会いたい!」
明と由紀は屋上で索敵を行っていた。
「真面目にやらんか!貴様は何時も…」
「違うわよ、ジャミングがかかって良く解らないようにしてるの」
「そうか…」
スコープを覗き周囲を見渡すが怪しい人物は見当たらない。
「応答願いします、隊長。こちら、明」
『こちら、隊長』
「以上はありません。索敵を続けます」
『了解~』
男は一人、妻と幼い子供の写真が入っているペンダントを眺めながら煙草を吹かす。
関係者以外立ち入り禁止の区画で一人で過去の出来事に浸っていた。
普段は特二で働く人間達の為に設けられた森林公園だ、普段は人で賑わっているのだが今日はこの男以外誰もいない。
「これでお前達が帰って来るのなら…」
一言呟く。
この男の時間は十年前から止まってた。進む事を止め、停止する事を自ら選んだのだ。
返って来ないと知りながら男は縋った、大事な物を失った事実を消す為に。
もし娘が生きていたら、中学校の入学式に妻と出席していた。もし娘が生きていたら、卒業式に妻と出席していた。
もし娘が生きていたら、高校の制服に袖を通してはしゃいでいる姿を見る事が出来た。もし娘が生きていたら、花嫁姿を見る事が出来た。
こんな事を十年間ずっと考えていた。妻子の墓前でずっと、泣いていた。
そんな時、あの男が現れた。
『あなたの願いが叶うかもしりません』
悪魔の囁きだった、だが縋るしかなかった。こんな、胡散臭い話を誰が信じる。
だが、信じてしまった。
男は自分の願いが叶うのなら、地獄で閻魔に裁かれても良いと覚悟している。
男はペンダントを懐にしまい、言葉を呟く。
「星下幻徒…。いや、人形。貴様の身体貰い受ける」
「今、何か感じませんでしたか?」
幻徒は頭に何かを感じ、声を漏らした。
「俺は何も感じなかったけど?」
『幻徒、何か感じたのか?』
「はい。一瞬ですけど、微弱な魔力を感じました」
幻徒の声に風斗が反応し、会話にした。
だが、周りには研究員と警備兵しかいないはず。
『雷火、お前は何か感じたか?』
「いえ、俺は何も感じませんが?」
これはおかしい。これは明らかに敵の罠だ。
『二人とも油断するな。敵がどこから攻めて来るか解らない、俺は周りを探ってみる』
「了解、気をつけて下さいね」
男は一人ベンチに座り、薄ら笑いを浮かべていた。
敵が思惑通りに動いてくれた事に感謝するがまだ安心は出来ない。
相手は「魔女狩りの悪魔」と恐れられた男の部隊に所属している。
まず、対象を一人でここにおびき寄せなれければ意味が無い。
あの部隊を一人で相手できるほど若くはない。
煙草に火を付けて口に煙を含ませ吐き出し、心を落ち着かせる。
ようやく、悲願が叶う日になる。そして、一言呟いた。
「こっちに来い、星下幻徒」
すると空に一筋の光が走る
「う…」
幻徒は突然の頭痛に頭を抑える。
「どうした?」
「い、いや、大丈夫です」
「そうか、無理すんなよ」
雷火は何も感じなかった様な素振りを見せる。
だが、風斗は何かを感じいた。
『幻徒、何か感じなかったか?』
「それが…、一瞬何かが頭の中に走ったような気が…」
『何?お前が感じて俺が感じなかった?危険だ、絶対に一人になるな』
危険を察知し、幻徒に注意をする。
すると、後ろから早乙女煉が現れる。
「調子はどうだい?星下君?天ノ君?」
雷火と幻徒は同じ事を考えていた、何故ここに来た。
「はい、おかげさまで調子は良いっすよ~」
「そうか…。それより、一緒に昼食はどうかね?」
『断るな…』
小声で風斗の声が聞こえる。この言葉には何か意味があるのだろうと雷火が察する。
「いいっすね!丁度、腹が減ってたところなんすよ~」
「それでは、食堂に行くとしよう」
三人は食堂に足を運ぶ。
「早乙女隊長、一人で出歩いて良いんすか?」
「君達がいるから安心して、外に出歩ける」
「そうっすか!照れちゃうな~。褒めても何も出ないっすよ!なっ!幻徒…」
さっきまで、一緒にいたはずの幻徒がいない。
雷火は焦り、額に冷たい汗が流れる。
「こちら、雷火!応答願います!げ、幻徒がいなくなりました!」
『何?!一緒にいたはずだろ!何で気づかなった!恐らく、敵の罠だ!』
この時、早乙女煉は仮面下に笑みを浮かべていた。
幻徒は無意識に歩いていた、何かに導かれるように。
頭の中で誰かが囁くのだ、こちらに来いと。
視界はぼやけて良く見えず、自分がどこに進んでいるのか解らない。
だんだんと視界が晴れて来て、視界に入って来た景色は公園。
そこには一人の男がベンチで煙草を吸っていた。
数メートル離れた距離でもはっきりと声が聞こえた。
「待っていたぞ、星下幻徒。いや、聖遺物集合体」
男は立ち上がり、ゆっくりと歩みを進め幻徒に近づく。
この男はどこかで身を覚えがある。
四ヶ月前に敵が襲撃して来た時に現れた男。
「土本一…」
これで自分に襲いかかって来る人間は四人目になる。
いつの間にか。こんな状況に慣れてしまっている自分がいる。
本当は「普通の学生」だったはずなのに、たった半年で変わってしまった。
冷静に考えれば異常なのだ。偶然とは言え軍に入り訓練を受け、魔術何て物に触れて。
ましてや自分が「特別な存在」何て呼ばれて少し浮かれていたのかもしれない。
そして、自分を狙って謎の組織が襲って来る。まるで漫画やアニメの世界だ。
今、その世界に自分が中心にいる。正直、嫌気が指している。
もう、「普通」に戻りたい。「普通」に学校に通って、「普通」に友達と遊んで、「普通」の人生を送りたい。
幻徒は自然と刀を抜き、構えた。




