第9話 約束は呪い①
昼下がり——。
小さな男の子と女の子の2人が楽しげな笑い声を上げて町を歩いていた。
2人は横断歩道に差し掛かり、男の子が先に走って渡り、女の子に向かって手を大きく振った。
「おーい!早く」
「待ってよ!」
女の子は走って渡ろうとした。
突然、ブレーキ音が響き渡り、続いて、鈍い音が周りの空気を震え上がらせる。
その光景を目の前で見た男の子は笑顔のまま引き攣った。
女の子はピクリとも動かない。
男の子は呆然と立ち尽くす中で理解した、もう叶えられないことを。
あの約束を。
10年後——。
放課後、ひかりと梓は部室に集まって、ポスターについて話し合っている。
梓は作ってきたポスターを見せて感想を聞く。
「どう?お母さんに手伝ってもらって作ったんだけど」
「めっちゃ良い!!!なんか分かんないけどとにかく良いよ!」
「具体的には?」
「えっとー…………」
「聞いた私が馬鹿だった」
「本当にめっちゃ良いから!梓のセンス最高!」
ひかりは焦りながらも食い気味に言った。
「ありがとう」
「よし!早速貼りに行こう!」
ひかりは切り替えてポスターを貼りに行こうとする。
「ちょっと待って、許可取らないと」
梓はひかりを止めた。
「許可?ポスター貼るのに?」
ひかりは知らない様子だった。
「いるんだよ。勝手に貼ったら怒られる。まずは生徒会にポスターを見せて、許可をもらう。時間はかかるけど」
「そうなんだ。早くOSBをみんなに知らせたいのにー」
「まあまあ、落ち着いて。ポスター10枚あるから手渡しで知らせたら?私は1枚持って生徒会に行ってくるから」
「それ良い!分かった、アタシ行ってくる」
ひかりは9枚持って見かけた人に配って行く。
梓は生徒会室に持って行き、話をつける。
ひかりが最後の1枚を、気丈な雰囲気でありながらも、明るい表情の女子に配った。
その女子はお悩み相談部について尋ねてきた。
「ここに書いてあること本当?なんでも相談に乗ってくれるの?」
「もちろん!アタシ達に解決できないお悩みは無い!」
ひかりは言い切った。
「それなら恋愛相談に乗って!」
ひかりはその女子をOSBの部室に案内して、梓が帰って来るまで待った。
梓が戻るとひかりは説明してからその女子のお悩みを聞く。
「そういえば、まだ自己紹介してなかった。アタシは天魔野ひかり!1年生で、こっちが」
「私も同じく1年生の鈴木梓です」
2人の自己紹介に続けて自己紹介と自分のお悩みを話す。
「私は藤原真希、3年生。
私、1年の頃に同じクラスになった津川蓮斗くんに一目惚れしたの。それでなんとか勇気を振り絞って話して友達にはなれた。
けど、そこからどうして良いか分からなくて、気づいたら2年経ってた。最後の高校生活は恋人として過ごしたい!お願い力を貸して!」
真希の切実な想いを受け取り、2人は引き受ける。
「もちろんです!真希先輩!」
ひかりは立ち上がり、真希に手を伸ばす。
真希はその手を笑顔で握る。
「私達にできることはします」
笑顔で梓が言った。
「2人ともありがとう!」
3人は作戦会議を始める。
「まず、私とひかりで蓮斗さんに真希さんのことを聞いてみる。そして、それを頼りに次の行動を決めるで良いですか?」
梓はすでに作戦を考えていた。
「いいね!梓やっぱ頼りになる〜!」
「それで行こう。でも、私が蓮斗くんのこと好きって絶っっ対バラさないでね」
「もちろんです。ひかり口滑らせないでね」
「分かってるよ。じゃあ、聞いて来るんで真希先輩はここで待っててください」
「蓮斗さんどこにいるか分かりますか?」
「今、私の教室で勉強していると思う。教室は3-2ね」
2人は真希の教室へ向かう。
教室には数人が勉強していて、別の3人が集まって談笑している。
「失礼します!津川蓮斗先輩います?」
ひかりが先陣を切った。
教室にいる生徒がみんなひかりの方を見る。
教室の真ん中で座って勉強していた爽やかで真面目そうな生徒が手を挙げる。
「僕だけど、どちら様?」
ひかりは近づき、梓は入らずドアから見ている。
「こんにちは!いきなりですけど、お話しがあるんでツラ貸してもらって良いですか?」
「いや、なんでヤンキーみたいに言った?」
蓮斗は困惑している。
ひかりとは面識がないのにいきなりツラ貸してと言われ、何かしたのか考える。
周りはひかりが告白すると思う。
「いいから早く来てください」
ひかりは蓮斗を急かす。
蓮斗はしょうがなくついて行く。
ひかりは校舎裏に連れて行き、真希について聞く。
「実はお話というのは……」
こんな場所に連れて来られて、蓮斗は告白かと思う。
(いや、嘘、全く知らないのに?!こんなことあるのか)
「真希先輩のことどう思ってます?」
「うん?」
蓮斗は拍子抜けする。
「私達、真希さんと仲良くなりたいです。それで、蓮斗さんが仲良いって聞いて、どんな印象ですか?」
梓はひかりの横で上手く真希のことを聞き出そうとする。
「そういうことね、びっくりした。真希さんはね、いつも笑顔で優しく接してくれるし僕の話に笑ってくれるから良い人だよ!」
良い顔で真希について話した。
「真希先輩のこと好きですか?」
ひかりは単刀直入に聞いた。
「いや、それは……」
蓮斗は答え辛そうにしている。
梓はひかりを少し離れたところに移動させて、蓮斗には聞こえない声で話す。
「ちょっと、聞くにしても早すぎるよ」
「そうかな?印象良さそうだし、好きか聞いた方がいいじゃん」
「初対面で自分の好きな人を話させるのは無理だって」
「いけるって!アタシに任せて!」
「魔法使って話させるの?」
「それは良くない。梓が言ったように初対面じゃ話してくれない。なら初対面じゃなければ良いってこと」
梓はピンときてなかった。
「『錯覚』アタシ達を仲良い友達だと思わせて」
すると、蓮斗の中で、今まで感じていた距離がなくなり、緊張も消えた。
「蓮斗先輩、真希先輩のこと本当どう思ってるんですか?」
ひかりは慣れ親しんだ様子で聞いた。
「ただの友達だよ、それに……なんでもない」
蓮斗は何かを隠す。
「それに?なんですか?隠さなくても良いじゃないですか?」
ひかりは追求した。
「……僕には、結婚を約束している人がいるんだ」
「えっ?!」「はい?!」2人は驚きを隠せない。
「本当に?!誰ですか?」
ひかりは聞くと、蓮斗は恥ずかしそうに答える。
「幼馴染の理沙ちゃん。5歳の時に約束して、もうすぐ18歳になるから叶うんだ。ほら、これが指輪だよ」
幸せそうに語り、ポケットからおもちゃの指輪を見せてきた。
2人は空いた口が塞がらず、理解が追いつかない。
「気持ち悪いかも」ひかりは呟いた。
「ひかり。失礼だよ」
「だって、」
「良いんだよ、勉強に戻るよ」
蓮斗はそう言い残し、教室に行ってしまった。
「どうするの?真希先輩に話すの?」
「話さない方が良いと思う。印象だけ話そう。さすがに全員が引くと思う。100年の恋も冷めるレベルで」
梓は引いた様子で冷たく言った。
「そうしよう。でも言い過ぎだと思う」
2人は真希のいる部室へと戻る。
戻ってくるなり、食い気味に聞いてくる。
「どうだった?私のこと好きって言ってた?」
「好きとまで言ってないですけど、えっと……なんだっけ、忘れちゃった。その後のインパクトが強すぎて」
「まあ無理はない。真希さんの印象はいつも笑顔で優しく、自分の話に笑ってくれる良い人だって言ってました」
梓がひかりをフォローする。
「本当に?!良かった〜これで嫌われてたら、私生きていけなかったわ」
真希は喜びと安堵に包まれた。
「それで次はどうする?」
ひかりが梓に聞いた。
「次は……思いつかない。一旦、整理したいので、真希さん明日また来てもらえますか?」
「分かった!印象知らせてくれて、2人ともありがとう!」
2人に礼を言って、部室を後にする。
「どうする?真希先輩に言うべきだったかな?」
「分からない。明日、幼馴染について聞いてみよう。
そして、幼馴染に会って結婚のこと聞いて、覚えてなかったら蓮斗さんに伝える。
そしたら、失恋したところに真希さんが寄り添えば、付き合えると思う。」
「それで良いのかな?……真希さんはどうする?明日ここに来てって言ったけど」
「ひかりには幼馴染の所に行って聞いてみて。私が真希さんの相手するから」
ひかりはモヤモヤしたまま、この日を終える。
翌日——。
この日はなんだか曇っている。町は暗い空気を漂わせている。
そんなの関係なく今日も今日とて、ひかりは遅刻しそうで全力で走っている。
校門に着くと先生が門を閉めている最中だった。
「うおおおお!!『ジャーーンプ』!」
ひかりは雄叫びをあげて、ハードル走の要領で校門をジャンプで飛び越えた。
「よし!今日もセーフ!」
「いや、遅刻だから。門閉まっているから」
「閉まってないじゃないですか」
門は完全には閉まっておらず、数十センチメートル開いていた。
「完全に閉まってなくても、遅刻だから。登校時間過ぎてから門を閉め始めたから」
「普通、門が閉まってからが遅刻でしょ」
「君の普通は知らないよ。良いから来なさい」
「はい……」
ひかりは肩を落として、校門付近に置かれた机に向かい入室許可書に名前を書く。
「君は何回遅刻するんだ?」
「2回くらい?」
「今回で4回目だぞ」
「そうでしたっけ?」
「ああ、教師して長いが初めてだ、こんなに早く顔と名前を完璧に覚えたの。入学式で話題になってたこともあるけど」
「いや〜照れます!」
「褒めてはないからな」
ひかりと先生がやりとりしていると、蓮斗が登校してきた。
蓮斗は元気が無さそうな様子だった。
蓮斗の目が赤く腫れていた。
「どうした?津川が遅刻とは体調悪いのか?」
先生は驚いた様子で心配する。
「大丈夫です。ちょっと悪夢見て寝れなかっただけなんで」
「そうか。勉強のしすぎで睡眠の質が悪いんじゃないのか?受験張り切るのはいいが、ちゃんと寝ろよ」
「すみません、そうですね」
蓮斗も入室許可書に名前を書いて、先生は2人分判子を押して早く教室へ行くよう急かす。
ひかりはずっと蓮斗を観察して何かが引っ掛かる。
ホームルームが始まっている中で教室に入り、梓の所へ行く。
「おーい、天魔野さん、自分の席に着いてください」
担任の言葉を無視して、ひかりは梓に聞く。
「ねぇ、悪夢を見ただけで泣く?」
梓は不思議に思いながらも答える。
「それは無いと思う」
「だよね……アタシ聞いてくる!」




