第8話 犬探しはお手の物②
数日後の朝——。
ひかりはいつものように遅刻ギリギリで教室に入って来た。
「いや〜今日も間に合った。セーフセーフ!」
ひかりはそんなことを言っていると遥花が近づいて来た。
「また、OSBに頼みがあるんだけど……」
遥花は少し落ち込んでいる様子でひかりに言った。
「どうしたの?」
「また犬を探して欲しいの。今度はコロネと一緒にいた犬を」
ひかりと離れた席で聞いてた梓は同じ向きで同じタイミングで首を傾げた。
「なんで?」
「連れ帰ってからコロネの元気がなくなって、ご飯も全然食べなくなったの。
家族と話し合って、その犬を飼うことにしたの。だから、一緒に探して」
遥花は切羽詰まる想いでひかりに頼んだ。
ひかりはもちろん断ることはなく快く引き受けた。
梓は頷きひかりがやるならと引き受けた。
***
放課後——。
梓の提案で一度OSBの部室に集まった3人。
「梓、早く探しに行こうよ! なんで部室に集めたの?」
ひかりは今にも動きたそうな様子で聞いた。
「遥花さんは犬のこと知らないでしょ。
それに私全然覚えてないから、ひかりに聞こうと思って。ひかりもちょっと見たでしょ」
梓は全く覚えていなかった。
その言葉で、ひかりは思い出そうとするが、身体が拒否反応を起こした。
どんな様子か思い出す前に、気持ち悪いという感情が覆い尽くし、犬が思い出せなかったどころか「いやーーー」とひかりは悲鳴をあげる始末だった。
いきなりの悲鳴に2人は目を丸くして驚いた。
「どうしたの?」2人が同時に聞いた。
「無理、思い出せない。うっ、気持ち悪い」
ひかりは元気を消失した。
「ダメだ、トラウマになってる。でも、ひかりが頼りだからさ、思い出してもらわないと」
梓は水風呂のように多少は優しく、けれども冷たく言った。
遥花はひかりの様子に、コロネがしていたことを想像してしまい、気持ち悪くなった。
「ウチも無理だ。よく梓は大丈夫だね」
梓はひかりに近づき耳打ちをした。
「魔法で私の脳を覗いて犬の特徴を教えて。トラウマで思い出せないなら、見れば良いんだよ」
ひかりは首を横に激しく振り、全力で拒否した。
「無理無理無理、もう一回は絶対に見たくない」
「でも、見ないと探しようがないからさ。頑張って」
「ひかり思い出して。頑張れ。乗り越えて」
梓に続いて遥花も応援した。
ひかりは2人に押され、震えた声で遥花に聞こえない音量で言った。
「『透視』あの時梓が見た犬の記憶を見せて」
そう言って、魔法を使い梓の頭の中を見た。
すると、ひかりの頭の中にコロネが白いチワワの上に乗っている光景が流れた。
「いやーー!! 『テレパシー』」と悲鳴をあげて力なき声で言って、ひかりは膝から崩れ落ち、魂が抜けたような状態になった。
ひかりは最後の力で魔法を使い、梓の頭の中へ、何もつけてない、少し汚れた白いチワワの記憶を送り込んだ。
「遥花さん、私思い出しました。白いチワワです。首輪も何もつけてない」
梓は魔法のことを隠して遥花に説明した。
「白いチワワね! OK探しに行こう——ひかり大丈夫?」
「バ、バナナスムージー……」
ひかりは完全に壊れた。
「馬鹿になった? それならバナナでしょ。なんで加工してるの——ほら、行くよ」
梓はひかりを抱えて探しに向かった。
***
コロネを見つけた公園に来た3人。
前のように二手に分かれることにした。
「じゃあ、ウチはコロネを連れて来て、臭いで探すから! 梓、大丈夫、ひかりを任せて?」
「大丈夫です。私達はあっち探します。それでは」
遥花は走って2人と分かれて、自分の家へと向かった。
「ひかり、生き返って。おーい、ポッチー買ってあげるから」
梓はひかりを揺さぶり起こそうとするが変わらなかった。
「バ、バナナポッチー……」
「バナナ味は海外じゃないと買えないよ」
梓は顔をしかめて困り果てた。
ひかりが喜ぶものは無いか考えていると思い出した。——ひかりに推しがいることを。
「あっ!? あんなところに一条燦がいる!」
その声にひかりは反応し、
「どこどこ?! どこにいるの? 教えて!」
見るからに元気な様子で、周りを見て探し始めた。
「本当にごめん。元気出してもらおうと嘘ついた」
「え〜嘘か……」
ひかりはがっかりしたが、さっきと比べると驚くほど元気になった。
「許して。なんでもするから。ひかりが頼りなんだからさ」
「分かったよ。でも、どうやって探すの?
あの魔法は使えないし」
梓は頭をフル回転させたが何も思いつかなかった。
「分かんない。地道に探すしかないね。二手に分かれる?」
ひかりもどの魔法を使えるか頭を回転させた。
(透視とか浮遊で探す? 犬だから見つけにくいし。犬……犬……そうか動物と話せばいいのか!)
「梓、居場所が分からないなら聞き込みすれば良いんだよ! 動物に」
「動物? もしかして動物と会話できるの?」
「まあね! 『翻訳』」
とひかりは魔法を使った。
ひかりは周りを見渡し、木の上にスズメがいるのを見つけ、話しかけた。
「スズメさん、こんにちは。この辺で白いチワワ見なかった?」
「白いチワワか……あ、少し前に黄色い変な頭の人間が連れ去ったぞ」
スズメはフランクな口調で答えた。
「黄色い変な頭? 何それ」
「スズメがそう言ってるの?——もしかしたら、帽子かも? それなら、『サーチ』が使えるよ」
梓の頭は冴えており、すぐに答えを導き出した。
ひかりはその言葉を信じて魔法を使った。
「スズメさんありがとう!
ごめんけど、頭の中を覗かせてもらうね。『透視』帽子の人を見せて」
すると、ひかりの頭の中に通学帽を被って赤いランドセルを背負った小学生の女の子がチワワを連れ去る光景が流れた。
「よし、『サーチ』通学帽と赤いランドセルの場所を教えて」
すると、ひかりの頭の中に商店街にいることが流れた。
「商店街だ!」と言って、梓がスマホで調べて向かった。
道中でも、魔法を使いどこに移動しているかを都度確認して近づいて行った。
2人はその子を見つけて、背中を追いかけた。
その子が横断歩道を渡っていると、トラックが気づかず、迫って来た。
ひかり達は慌てて走り、助けようとするが距離がありとても間に合わない。
抱き抱えられていたチワワは暴れて、手を振り解き、地面につくと勢いをつけて、その子にぶつかった。
火事場の馬鹿力を発揮して、その子は後ろへ倒れ、そして、チワワは、トラックに撥ねられた。
ひかりはやっと魔法を使えば良かったことに気づき、『浮遊』と言った。
チワワは数メートル吹っ飛び、地面につく直前で浮いて衝撃は避けられた。
ひかり達はチワワに駆け寄った。
その子は泣いて、必死にチワワを起こそうとしていた。
「お姉ちゃん達に任せて、死なせたりしないから」
ひかりはその子に言って、チワワをすぐに動物病院へ連れて行った。
道中にひかりは『治れ』と連呼して、魔法で治そうとするが、死にそうな生き物に効果はなく、チワワは息絶え絶えだった。
***
動物病院に着いてすぐに治療が行われた。
遥花とコロネが連絡を受けて来て、ひかりは状況を話した。
医師の迅速な対応でチワワはなんとか瀕死の状態で助かった。
少しだけなら会っても良いと言われて、3人と1匹は側に行った。
コロネとチワワは話しているようだったので、ひかりは「『翻訳』プラス『共有』」と言って、犬の言葉が2人にも分かるようにした。
「なんで、人間なんか助けた?」
コロネが泣きながら聞いた。
「いつもご飯くれたから、捨てられた私に。コロネも遥花ちゃんが同じ状況ならそうするでしょ」
チワワはなんとか声を出して言った。
「……うん。でも俺たちを引き離した」
「それはコロネが家族だからだよ。勝手にどこか行ったから、心配で探しに来た。幸せ者だよ」
「お前の側にずっといる」
「馬鹿言わないで、コロネには心配してくれる人がいる。私を忘れて暮らし……て……」
と言って、チワワは麻酔の効果で眠りについた。
3人は黙って俯いたまま聞いていた。
遥花が耐え切れなくなり最初に口を開いた。
「ごめんコロネ……ウチのせいで。気持ちを考えないで連れ戻してって頼んだから」
「私が無理矢理連れ帰ったからだよ」
「アタシがちゃんと、魔法を使っていたらこんなことにはならなかった」
3人は自分の至らなかった点を責めた。
コロネは3人を見て、反省していることが分かったから許すことにした。
「今回は許す。ハルが生きているからな」
「ハルって言うんだあのチワワ。可愛いね!」
ひかりはこんな状況でも明るく褒めた。
「新しい家族になるのは、ウチと同じハルがつくのか」
遥花が呟くが、梓は申し訳なさそうに遥花に事情を話した。
「実はハルちゃん、助けた女の子に連れてかれてたんです。
おそらく、家で飼うために……だから、譲ってあげてくれないですか」
遥花は目を丸くして驚き、しばらく考えた後、コロネに聞いた。
「コロネがいいなら、その子に譲るけど」
「ハルが命をかけて助けた人に飼ってもらう方がいいか……また会えるから」
コロネは一緒に住むことを断った。
そんな話をしていると、医師と看護師が聞いてきた。
「あのなんで、犬の言葉が急に聞こえるようになったんですか」
遥花も便乗して聞いてきた。
「普通にコロネと話したけど、なんでなの?」
ひかりの魔法は周りにいる全員にかかっていた。
「あ、ミスった! どうしよう?」
ひかりは焦り、梓に聞いた。
「どうしようって言われても……記憶消せないの?」
「記憶を消すか! やってみる! 医師と看護師の犬が喋った記憶を『消して』」
すると、医師と看護師達はふっと記憶が消え何事も無かった様子で業務に就いた。
「ウチの記憶は消さないの?」
「うん! それが良いと思って。その代わり誰にもアタシが魔法使いって言わないで」
「分かった、約束は守るから」
***
その後元気になったハルは小学生の家に迎えられた。
遥花とはご近所さんだったので、良く会うようになった。




