第7話 犬探しはお手の物①
掃除を終えて綺麗になった部室。
真ん中に横長の机があり、椅子が2脚ずつ手前と奥に向き合うように置いてある。
部室の入り口から見て左奥には、掃除用ロッカーがあり、奥の窓2つの下に物置が置かれている。
「終わったーー!」
ひかりは掃除を終えた喜びと開放感から声をあげた。
「やっと終わった……」
ひかりとは対照的に、梓は掃除の疲れでもう元気がなかった。
「これでやっと始まる! さあ、早速呼び込みに行こう!」
ひかりはまだまだ元気で梓に容赦なく言った。
「もう、無理……動けない……それに夜だよ」
梓の体力は限界に達して、その場に座り込んだ。
時刻は19時ごろ、辺りは暗くなっており、生徒の気配がほとんど無かった。
「ほんとだ! いつの間に……今日はもう帰ろう!」
「うん、手貸して。立てない」
梓は手をひかりに向かって伸ばし、ひかりはその手を握り、引っ張って梓を立たせた。
ひかりが梓を抱えて駅まで送り、ひかりも家に帰った。
***
その夜——。
ある一軒家の窓が少し開いていた。
盗まれた形跡はないが、家族の大事なものがいなくなった。
一つの影によって。
***
翌日の放課後——。
OSBの部室に2人は集まって、横並びで座っていた。
ひかりは自分のスマホを梓に見せて、梓は不思議そうな顔をしていた。
「じゃじゃーん! SNSのアカウント作った!」
「なんの目的で?」
「目的は色んな人にOSBを知ってもらいたいからだよ」
「ポスターを貼れば良くない? ネットは知らない人が見に来るから危ないよ」
梓は自分の考えを丁寧に伝えた。
「うーん……そうだけど……分かったよ。鍵垢にするよ。
——それじゃあ、ポスターにアカウントID載せてdmで予約できるようにするのは?!
それならポスターを見た生徒しかフォローされないからさ!」
ひかりは代替え案を思いつき、熱量を持って梓に詰め寄って来た。
「それならいいよ。ポスターを作らないとだね」
「ポスターは梓に任せる!」
ひかりは梓の肩に手を置いて言った。
「なんでよ?」
「アタシ、アカウント作ったし、あと絵が下手だから」
「私だって絵が下手だよ」
2人は互いに押し付け合った。
「じゃあ、勝負しよう。どっちが下手か」
「いいよ、お題は犬ね」
こうしてどっちがポスターを作るか、絵を描いて決めることになった。
2人は真剣に自分のノートに犬を描き始めた。
数分後、2人とも描き終えて、見せ合った。
梓の絵はとても上手いとは言えないものの、普通に上手く、横向きのゴールデンレトリーバーだと分かるほどだ。
一方、ひかりの絵はノミみたいなものが描かれていた。
犬と言われても分からないほどひどい絵だった。
それを見た梓は眉をしかめて疑った。
「さすがに嘘でしょ。ポスター作りたくないから、わざと下手に描いたでしょ」
「真面目に描いたんだけど、ひどくない?」
ひかりはムッとした顔になった。
「ひどいのはその絵だよ。……分かった、私がポッチー買ってあげるから真面目に描いてみて」
梓は本当に描いたのか確信するためにひかりがやる気が出そうなことを言った。
「本当?! やるやる。また犬でいいね」
ひかりは犬を本気で描き始めた。
梓は描いてる最中を見ていたが、途中から顔が曇っていった。
「完成!」
と言って自信満々に梓に見せた。
この世の終わりと思うほどの最悪な絵が描かれていた。
「…………私がポスター作るよ。帰りに買ってあげるねポッチー」
梓はしばらくの沈黙の後、仕方なく受け入れた。
ひかりの絵を見た梓の顔には生気がなかった。
(3回見たら、死にそうな絵だった)
と梓は思い、見事にトラウマになった。
そんなこんなしていると、コンコンコンとノックが聞こえてきた。
ひかりはお悩み相談しに来たと思いテンションが上がり、机の上を整理しながら「は〜い!どうぞ!」と返事をした。
中に入って来た人はお団子ヘアーで明るく背が高い女子で、ひかりと梓のクラスメイトの白井遥花だった。
「遥花! どうしたの?」
「今日、OSBが出来たって自慢してたから手伝ってもらおうと思って」
遥花とはクラスで仲良くなった人物で、授業の合間に話したりしており、ひかりはフランクに話した。
「こんにちは」梓は一応挨拶しておいた。
「こんにちは、えっと〜」
遥花は挨拶を返したが、眉をひそめて考えていた。
「梓だよ」とひかりはすぐさま教えた。
「梓ね。ごめんね、まだ覚えてなくて」
遥花は手を合わせて謝った。
「いいんです」
梓は距離を取って言った。
「手伝いって何?」
ひかりが本題に入った。
「実は、昨日の夜うちの犬が逃げ出したの。だから探すの手伝って」
「もちろん、いいよ! 早く行こう!!」
ひかりは初めての依頼で子犬のように元気が溢れた。
「元気だね……」
「ほんとにね」
2人はひかりの元気に置いてけぼりになった。
***
3人は遥花の家の近所に着いた。
「ここから分かれよう!」
遥花は快活に提案した。
「うん、分かった! じゃあ、アタシ達はこっち探すよ」
ひかりは左を指して、梓と2人で向かった。
「分かった! じゃあウチはこっち探すね!」
遥花は右に向かった。
「ねぇひかり、私達……犬の情報聞いてなくない?」
梓は気がついて、重い口ぶりで言った。
移動中はひかりと遥花が話していて、たまに梓も話す感じで、ずっと中学の話をしていた。
「そうじゃん——遥花ーー待ってーー!!」
ひかりは大声で遥花を呼び、追いかけて行った。
遥花はひかりの声に気づいて歩み寄って行った。
「どうした?」
「犬のこと聞いてなかった。どんな見た目?」
「本当だ〜ごめん2人とも。うちの犬はこんな感じ」
遥花はスマホで犬の写真を見せた。
明るい赤みのある茶色い毛並みのプードルで青い首輪をしていた。
「可愛い〜!」
「チョコみたいで可愛いでしょ! だから名前はコロネ」
「普通チョコじゃない? チョココロネから取るんだ」
梓は思ったことをそのまま口にした。
「じゃあ、今度こそ分かれて探そう!」
と言って遥花は快活に向かって行った。
「よし、じゃあどうやって探す?」
ひかりは梓に自分で考える前に聞いた。
梓はすでに答えが出ていた。
「首輪がどこにあるか分かれば良いんだから、校長の銅像見つけた時の魔法を使って」
「なるほど。さすが梓天才!」
ひかりは梓の頭に感心して、言われた通りにした。
頭にさっき見た、首輪を思いながら、魔法を使った。
「『サーチ』コロネの首輪を教えて!」
すると、頭の中に公園の茂みでコロネがいることが流れてきた。
「公園!」それを聞き、梓はスマホで近くの公園を調べて、2人は向かった。
広い公園で緑が生い茂る場所で、子供達がたくさん遊んでいた。
ひかりは見た光景の場所をウロウロしながら探した。
梓は少し離れた場所でコロネの姿を探した。
ひかりは同じような光景の場所を見つけて、足早に近づき、茂みの裏を見てみると、
「きゃーーーー」
甲高い声で悲鳴をあげた。
その悲鳴を聞き、梓は急いで駆けつけた。
ひかりは背を向けて目をぎゅっと瞑っていた。
「どうしたの?」と聞くと、ひかりは茂みの方を指差し、「梓、あれ見て」と言った。
梓が見ると……コロネがチワワの上に乗っていた。
「あーね、ひかりはこういうのダメなんだ」
梓は平気な顔で呟いた。
「梓、コロネを連れてきて」
梓は申し訳ないと思いながらもコロネを無理矢理抱き抱えた。
コロネが吠えまくるが容赦なく、梓は引き離した。
「これで大丈夫だから。遥花さんと合流しよ」
ひかりと梓は遥花と連絡を取り、家の前で合流した。
遥花はコロネを見るなり、足早に近づき、梓から奪い取るようにコロネを抱き抱えた。
「コロネ〜!!!! 心配したんだよ。もう逃げ出さないでね——2人ともありがとう」
「これがOSBの仕事だからさ!」
ひかりは自信満々に言った。
「そうだ! お礼にジュースあげる。家上がって」
遥花は2人に家に上がるよう促した。
ひかりは嬉しそうに家に上がるが、梓はいいのかなと思いながらも上がった。
遥花は家の中でどこにいたのかなどの状況を聞いてきた。
梓は気まずそうに事情を話し始めた。
「実は……公園で他の犬の上に乗ってたんです」
遥花は理解が追いついておらず、口をパクパクさせていた。
「コロネが……他の犬と……嘘でしょーー」
遥花は拒むように叫んだ。




