第10話 約束は呪い②
昼休み——。
ひかりは授業が終わるとすぐさま3-2の教室へ向かう。
教室では真希と話しているが、そんなのお構いなしに蓮斗に話しかける。
「蓮斗先輩、聞きたいことがあるんで来てください」
「いや、でも……」
蓮斗は真希の方を見る。
真希は察して、蓮斗に行くよう伝える。
「行って来な。私は待っているから」
ひかりに連れてかれて、昨日と同じ場所で話す。
「なんで泣いていたんですか?」
「ホラー映画苦手なのに見て、眠れなかっただけだよ」
蓮斗は目をひかりに合わせようとせず、どこか不自然だった。
「本当のこと言ってください。アタシは泣いてる人をほっとけないんです」
ひかりは真剣な想いで言った。
「分かった。放課後に見て欲しい所があるからついてきて。その時に話す」
蓮斗はひかりと目を合わせて言った。
「分かりました。校門で待ってます」
2人は一旦解散した。
真希のいる教室では噂が立つ。
親しんだ感じで真希に話す女子生徒。
「真希の好きな蓮斗くん、さっきの子に告白されたって噂だよ」
「ないない、ひかりちゃんは私のために蓮斗くん呼び出して話しただけだから」
真希は拒否する。
「それだと良いけど。もしかしたらね、聞きたいことがあるって言ってたし、告白の返事を聞きに来たのかも」
「はあ、いやないないよね?」
真希は疑い始める。
「本人に聞いてみないと、分かんない」
数分後、蓮斗は教室に戻る。
真希は駆け寄り何を話したか聞く。
「ひかりちゃんと何を話したの?」
「別に大したことは話してない」
「だから何話したの?ひかりちゃんに告白されたって噂だけど、本当?」
「だから、朝に話した通り、真希さんと仲良くなりたいから、いろいろ聞かれただけだって」
真希はまだ半信半疑で、放課後OSBの部室に行った時に聞こうと思う。
放課後——。
ひかりは昼休みの時に梓に蓮斗と行く場所があると言って、蓮斗を待つために校門へ向かう。
行くと蓮斗が待っており、行く場所も分からないままついて行き、電車に乗る。
一方、真希と梓は部室で話し合っている。
「ひかりちゃんが蓮斗くんに告白したって噂だけど本当?」
真希は興奮気味に聞いた。
「噂は所詮、噂ですから。昨日は真希さんの印象を聞いただけですから」
梓は呆れた様子で言った。
「うーん、ひかりちゃんはどこなの?本人に確かめる」
「ひかりは急用で出てます。ひかりがそんなことしないので信じてください」
「急用?もしかして、蓮斗とデート?今日はすぐに帰っていったから、絶対そうだ」
真希は確信した。
梓はあんぐりと口を開ける。
(どうしよう、ひかりは幼馴染の所に行ってると思うし、あのこと言うべき?言わなかったら、ひかりに変な誤解が生まれるし、言うか)
梓はもうどうにでもなれという思いで話す。
「実は言ってなかったことがあります。蓮斗さんにはフィアンセがいるんです。」
「はあー?!!!嘘……フィ、フィ、フィアンセ?終わった……」
真希は放心状態になり、机に突っ伏す。
「言わなかったら、良かったのかな?まあ、ひかりを待とう」
梓はカバンから筆記用具とノート、ワークを取り出して、真希をほっといて勉強を始める。
ひかりと蓮斗は電車で数十分、バスに乗り換えて、また数十分かけて自然豊かな場所に着く。
その間、一切会話がなかった。
ひかりは話しかけようとしたが、蓮斗から暗い雰囲気を感じてやめた。
更に徒歩で歩いて着いた所は墓地だった。
「ここって、もしかして、蓮斗先輩の幼馴染は墓地で働いているんですか?」
「ううん、そうじゃない」
蓮斗はメモを取り出して、墓を探す。
そして、和泉家の墓の前に着く。
ひかりは墓の裏を見る。
その裏には和泉理沙と彫られていた。
「どういうことですか?理沙って、蓮斗先輩が結婚を約束した人ですよね?」
「そう、5歳の頃に約束をして、2年間恋人みたいに過ごしていたのに、車に轢かれてそのまま…………
18歳になったら来るつもりだった。それまでは自分が見合う人間になるために努力するって誓ったんだけど」
やるせない気持ちで言った。
「ごめんなさい……アタシ知らなくて、蓮斗先輩を連れてこさせた」
ひかりは申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
「違う、ひかりさんを責めてる訳じゃない。それを言い訳にして、来なかった自分に言ってた。もっと早く来るべきだったのに……怖かったんだ……」
「そうだったんですね……見合う人間になったから来れたんじゃないですか?
アタシに真実を教えるために自分の誓いを破って、連れて来たんですから!」
「そうだと良いけど……僕はあの時何もできなかった。目の前にいたのに。なのに……」
蓮斗はしゃがみ込み泣き始めた。
「僕が、先に行かずに、一緒に渡っていれば、理沙ちゃんは死ぬことなかったのに……」
所々鼻を啜り、震えた声で言った。
そして、墓を抱擁して、号泣する。
ひかりはただ見ていることしかできなかった。
蓮斗にかける言葉を探すが、見つからない。
どれくらい経っただろうか、辺りは一層暗くなっていた。
蓮斗は目を腫らして、顔が体液でぐちゃぐちゃだった。
ひかりはティッシュをあげて、蓮斗は顔を拭いた。
「ごめん、見苦しい姿見せて。もう帰ろう」
「良いんです、アタシにも辛さがなんとなく分かるんで」
2人はその場を後にしようとすると、ひかりの頭の中で声が聞こえる。
「蓮斗をお願い……」
そして、一瞬だけ白い背景に小さな女の子が立っている光景が頭の中に流れる。
ひかりは辺りを見渡すが見えた女の子はいない。
不思議に思いながらも墓を後にする。
帰りの移動ではもっと話し辛く、重い空気が漂う。
翌日——。
ひかりは元気がなく、どう話せば良いか分からなかった。
そんなひかりに梓は寄り添う。
「何があったの?」と聞くが、
「真希先輩がいる時話す。ごめん」と言って、ひかりは考える。
放課後——。
部室に真希先輩を呼び出して、昨日知ったことを話す。
「実は、蓮斗先輩には結婚を約束している人がいます。
でも、その人はもうこの世にはいないんです。
だから、蓮斗先輩はきっと、その人との最後の約束を守るために、恋人を作るつもりが無いと思います」
ひかりは重い口を開き、真実と憶測を語った。
2人はその真実を受け止めるために時間を要した。
「そうだったんだ、私、全然蓮斗くんのこと知らなかった。
こんな状態で付き合えるはずもないか……」
真希は俯いたまま言った。
「小さい頃の約束を信じる純粋な人じゃなくて、亡き人との約束を守る純粋な人だったんだ」
梓は変な人と思ったことを反省する。
「真希先輩、どうします?この先は真希先輩が決めることです。アタシ達はその選択で動きます」
ひかりは現状を真希に伝えた。
「そうよね、ありがとう。もういいよ。ここまでしてくれたし、ここからは私自身でやってみる」
真希の中で答えが出ていた。
2人を残し、部室を出る。
ドアを閉めると、真希は立ち止まり、拳を強く強く握りしめている。
(私がやれることは、蓮斗くんを過去から救うこと。私は絶対に諦めない!)
そして、走り出して行った。
「梓、アタシ気になることがあるから一緒に墓地へ行かない?」
「うん。いいよ」
2人は墓地へと向かう。
部室を出て、靴箱に行くと、真希が蓮斗の手を強引に引っ張る光景を目撃する。
「なんで言ってくれなかったの?」
その声は怒りが込められていた。
「言っても、暗くなるだけだし」
「いいから、連れてって」
真希は蓮斗を急かす。
ひかりと梓はこっそり後をつけることにする。
理沙の墓の前に着くと真希は手を合わせ、祈る。
(私の行いを許して)
そして、蓮斗と向かい合い、目を見つめる。
「私は、蓮斗くんのことが好き!!結婚相手がいても関係ない!私は蓮斗くんと付き合いたい!!」
真希は墓地で愛を叫んだ。
「ごめん、こればっかりは無理。理沙ちゃんとした最後の約束だから、叶えないと。僕が死なせたから」
蓮斗は譲らなかった。
「もうそれは約束なんかじゃない。ずっと蓮斗くんを縛ってる呪いだよ。……私が蓮斗くんの苦しみを一緒に背負うから、その縛りを断ち切って」
真希は涙ながらに説得した。
蓮斗はそれでも約束を守ろうとする。
「ダメだ。約束も守らなくて、僕に生きる資格はない」
ひかりと梓は遠く離れた所で見ていた。
ひかりは蓮斗を見かねて、魔法を使う。
『透明』と言って、姿を消して、蓮斗に向かって走り出す。
蓮斗の手を透明のまま掴み、もう一つの手で理沙の墓を触る。
「お願い、蓮斗先輩にも姿を『見せて』」
ひかりの願いが届いたのか、蓮斗は全面白い世界にいた。
そして、蓮斗の目の前にはひかりが見た女の子が立っている。
「理沙ちゃん?!」
そう、彼女こそが理沙だった。
「蓮斗、ダメだよ女の子を泣かせたら」
理沙は笑いながら言った。
「理沙なんで?」
蓮斗は涙が溢れ出そうな顔で聞いた。
「蓮斗が会いたそうだから、化けて出た!」
理沙は笑顔で冗談っぽく言った。
「理沙、ごめん、僕のせいで……」
蓮斗は泣いてしまった。
「蓮斗のせいなんかじゃないよ。あたしがちゃんと確認しなかったのが悪いんだから。
責める必要はないし、あたしの約束を守らなくていいんだよ。」
「いやだ。理沙ちゃんと交わした最後の約束なんだから。結婚する」
蓮斗は理沙に縋る。
「じゃあさ、今ここで約束しよう!幸せになって!これが約束ね!」
理沙は小指だけ立てて蓮斗に前に伸ばす。
「でも、それだと理沙が報われない」
「いいの、あたしは蓮斗が幸せな姿を見てればそれで。あたしと結婚しても幸せにはなれないから」
「幸せだよ。理沙ちゃんと結婚できるなら。僕が生きている意味だから」
「真希ちゃんの言う通りだね。あたしと結婚したらずっとあたしの死を背負って生きていく。
でも、真希ちゃんは一緒に背負ってくれると言ってる。そっちの方が何倍も蓮斗にとって幸せなんだから」
理沙は優しく諭す。
蓮斗は俯いたまま黙っている。
理沙は続ける。
「あたしを忘れてって言ってない。ただあたしの呪縛を切って幸せになってって言ってるの」
蓮斗はようやく、覚悟を決めた。
「分かった、約束する!理沙の分まで幸せに生きる!」
と言って、理沙の小指と自分の小指を結ぶ。
理沙は嬉しそうだった。
「約束だからね!バイバイ!」
理沙は手を振る。
「いやだよ。まだ話したい!」
蓮斗は嫌がる。
「話は蓮斗が死んだ時しよう!それまでちゃんと幸せな報告待ってるね!空から見てるから!」
優しく微笑みを浮かべる。
蓮斗はまだ話そうとしたが現実に戻された。
周りを見渡し、ひかりに掴まれた手を気にして、今のことが夢だったのか考える。
真希は黙っている蓮斗に話しかける。
「ねぇ、どうしたの?私じゃダメなの?」
蓮斗は夢にも思えたが、理沙の言葉だったと直感で確信して、考えを変える。
「真希さん、僕が間違ってた。ずっと縛られていたんだ。ありがとう!気づかせてくれて」
その言葉を聞き、真希は安堵する。
「でも、今すぐには付き合えない。
なんたって10年以上も想い続けたのに、いきなり他の人に行くのは自分が許さないし、気持ちを整理したい。だから、ごめん」
真希は一瞬だけ、がっかりするがすぐに切り替えて笑顔で言う。
「そう、いいの。気持ちの整理がつくまで待ってるから!——そうだ、私これから蓮斗って呼ぶから、真希って呼んで!お近づきの印に!」
「うん、分かった、真希!」
笑顔で返事をした。
ひかりは梓の横に戻り、透明化を解除した。
「いや〜良かった良かった!」
梓はびっくりした。
「そこにいたんだ。——うん、良かったね!2人幸せそうだよ!」
ひかりは2人に話しかける。
「先輩良かったですね!」
2人は声の方を見て驚く。
「ひかりちゃん!?いたの?」
「こっそり後をつけてました!それよりアタシも真希って呼んで良いですか?」
「なんでよ。まあ、2人のおかげだし、いいよ」
真希は特別に許可する。
「やったー!!」
「もう、暗くなるし帰ろう。——理沙、また来るから」
理沙にそう言い、みんな立ち去る。
ひかりの頭の中に理沙が立っている様子が流れる。
「ありがとう!魔法のお姉ちゃん!おかげで蓮斗を救えた!」
理沙は笑顔で礼をした。
それを見て、ひかりは自分が役に立てたことに嬉しくなった。
4人は楽しく笑いながら話して帰った。




