第54話 落とし物は飛んでくる
「はあ〜やっと戻れた」
ひかりは疲れた様子で歩いて来た。
「大丈夫?」
真希は心配そうに声をかけた。
「あの後何があったの?」
梓は心配な目を向けながらも興味本位で聞いた。
「あの後はね〜……馬に乗ってあっちこっち行って、捕まえられた」
「肝心なところが抜けてる……なんで捕まえられたの?」
梓は話が飛んだことにすぐに突っ込んだ。
「なんでって馬と会話したから」
「だから、どんな会話?」
「えっと……」
***
少し前——。
「『翻訳』馬さん、どうして逃げ出したの?」
ひかりは暴れる馬にしがみつきながらも、優しく聞いた。
「俺はニンジン畑で一生暮らすんだヒヒーン」
馬は荒々しく言葉を発した。
***
「待って、馬の語尾ヒヒーンなの?」
梓はひかりの話を遮り、眉をしかめて突っ込んだ。
「うん、普通そうだよ」
「普通を知らないよ」
「それから……」
ひかりは話を続け始めた。
***
「そうなんだね! 行ったら何するの?」
「それは……」
馬は急に動きを止めて、目線を右上に向けた。
そして、ニヤケたように顔が崩れた。
「それは、口いっぱいニンジンを頬張るヒヒーン! そして、ぐうたらするヒヒーン!」
「う〜ん……アタシは連れて行けないけど、見せることならできるよ! 『幻想』」
ひかりは馬に同情からか魔法を使ってあげた。
馬の頭の中には、吹き渡る空の下に見渡す限りの畑が広がる場所にいる光景が流れた。
馬はそこで、空気をたくさん吸って、自然を体感した。
そして、土から見えるオレンジの鮮やかな色に目を向けて興奮した。
馬は葉っぱを歯で掴んで引っ張った。
「どんな大きさだヒヒーン!!」
それを地面に置いて、全貌を見た。
——一瞬にしてげっそりと顔を青くした——
引き抜いたニンジンは土から見えているところは美味しそうだったが、その下は1本のポッチーだった。
“バタン”——馬は膝から崩れてそのまま気絶した。
***
「いや、なんでポッキーが出てくるの!?
なんでそれで気絶するの!?」
梓はいつにも増して、驚き声を張り上げツッコミを入れた。
「いや〜、アタシもポッチー畑で生きたいなって思ったら、混ざったみたい……!」
ひかりはテヘペロと言わんばかりの顔で言い訳した。
「ポッチー畑ってなんなの」
梓はもう呆れ返った様子だった。
「ひかりちゃん、面白いね! そんな話思いつくとか天才だね!」
真希は作り話だと思って、冗談半分で笑っていた。
「なんか漫才見てるみたいで面白い!」
蓮斗も真希同様に笑って聞いていた。
「本当なのに……」
ひかりは作り話に思われたのが不満で少しだけ拗ねた。
梓はひかりに近づき小声で聞いた。
「それで、なんで気絶したの?」
「ショックでじゃない?」
「そんな適当なことある?」
梓はさらに呆れてしまった。
そんな梓を無視して、ひかりはさらに話を進めた。
「あとね、面白いの見たんだ! ライオンのたてがみみたいな木の帽子に半裸の民族みたいな人が細長い筒を持ってたんだ!」
「……絶対その人が原因じゃん! 吹き矢で麻酔打ったから馬が気絶したんだよ」
梓はひかりの分かりにくい説明から想起させて、吹き矢を使う民族が麻酔針を打ち込んだと推理して、驚いた。
「そうなんだ」
「いや、違う!」
「どっちなの?」
「普通そういうのは麻酔銃とか使うでしょ」
梓はすぐさま自分を否定した。
「2人とも何話してるの? 次行こう!」
真希はコソコソ話す2人に割って入った。
「なんでもありません! 次ジェットコースターがいいです!」
ひかりは無邪気に答えた。
「じゃあ、行こう!」
「バイキングはいつ乗れるんだろう?」
蓮斗はボソッと呟いた。
***
2時間弱並んで4人はジェットコースターに乗り込んだ。
「やっっっっと乗れる!!!!」
ひかりは圧から解放された期待のように飛び出る元気さでワクワクしていた。
「うるさい」
梓はひかりの声の大きさに怒った。
「私も楽しみだったの!」
真希も元気な笑顔を蓮斗に向けた。
「やっぱり醍醐味だもんね!」
蓮斗は真希に合わせるように笑顔を見せた。
「それでは出発進行!」
スタッフの合図でジェットコースターは動き出した。
ゆっくり上へ上へと進んで行った。
「ドキドキする!」
ひかりはワクワクが止まらなかった。
ジェットコースターは頂点に達して止まった。
「来るよ来るよ!」
「うるさい」
ひかりの声に隣に座っていた梓はまた怒った。
そして、ジェットコースターは凄まじく急降下し始めた。
「わっ! 来た!……わっ!? 来た!?」
ひかりは楽し気な声を上げたのも束の間、前方から帽子が飛んで来て驚いた。
ひかりは自前の反射神経ですぐに腕を上げて掴んだ。
「わっ!? まただ!」
今度はスマホが飛んで来て、それもひかりが掴んだ。
「またなんだけど!?」
さらに今度はメガネが飛んできて、ひかりが掴んだ。
「ちょっと、梓持って」
「なんでそんなに飛んでくるの?」
「知らないよ」
ひかりは梓に今持っている物を渡した。
その間、真希と蓮斗は万歳して楽しんでいた。
「ふうーー、最高!!」
「わあーー、風が強い!!」
「うわ!? まただ」
順に、手錠、警棒、警察手帳が飛んできて、ひかりは次々と掴んでいった。
「さっきの騒動の警察乗ってる?」
梓はツッコミを入れながら、ひかりからそれらを受け取った。
「えー、まだ来る」
さらに順に、長いネイルチップ、つけまつ毛、シール帳が飛んできて、ひかりはそれすらも掴んだ。
「前にギャルがいる? 後、よくひかりはつけまつ毛取れたね!?」
梓はひかりの身体能力の高さに驚きを隠せなかった。
「なんで来るの?」
ひかりは不思議がりながら、黒いフサフサとした塊を掴んだ。
そして、ジェットコースターはスタート地点へ戻って来た。
「はあ〜楽しかったね!」
真希は幸せそうに息を吐き、ひかりと梓に目を向けた。
「どうしたのそれ!?」
真希は梓の膝上にないはずの物が大量にあり、目を見開いていた。
「飛んできて……」
「飛んできすぎじゃない……?」
蓮斗は真希の声で梓を見て、不思議に思った。
***
そして、4人は持ち主に返していった。
「あとはこの黒いのだね」
ひかりの手元には最後に飛んできた黒い物だけ残っていた。
すると、腰を低くして小さく声をかける中年の男性が来た。
「あの〜それワシのです……」
「あ〜これですね! はい、どうぞ!」
ひかりは快く引き渡した。
「いや〜ありがとうございます! もうどうしようかと思いました」
その男性は頭頂部に黒い物を乗せて、光の反射を遮断した。
そして、ひかりの顔を見てお礼を言った。
「あれ……もしかして、校長先生?!」
「えっ……天魔野……いや、人違いです……」
ひかりには身を覚えがあり、相手も身を覚えがあったが知らないフリをした。
「何言ってるんですか、天魔野ひかりですよ!」
ひかりはアピールするが、校長は顔を合わせようとしなかった。
「知らない知らない、もういいです」
不機嫌そうに校長は去って行った。
「校長ってハゲてたんだ……」
真希と蓮斗は同時に言葉が漏れた。
TO BE CONTINUED




