第53話 メリーゴーランドの異変に気づけ
「はあ〜! もう……」
ひかりは昼ご飯を食べてレストランから出る間中、肩を落としてフラフラしながら歩いていた。
3人は申し訳ないような目で見て、共感性羞恥で顔を引きつらせていた。
「どうしたらいいの?」
真希は梓に小声で話しかけた。
「こういう時はひかりを喜ばせたらいいんです」
「そうなの?」
「はい」
「ってことはジェットコースター?」
蓮斗が思いついたように横から口を挟んだ。
「そうです」
「分かった!」
真希はひかりに近づき、
「ひかりちゃん〜!」
と明るく声をかけた。
「メリーゴーランドだ!!!!」
ひかりは小さい子が初めて実物を見たかのようにはしゃいだ。
「え?」
3人はひかりの変わりように鳩が豆鉄砲を食ったみたいになった。
「あれ乗りましょう!」
「……う、うん」
真希は呆気に取られながらも頷いた。
「さすがはひかり……」
梓は感心と共にやや恐れを抱いた。
「じゃあ行こう!」
「私は乗らないから」
「なんで!?」
ひかりは体をのけぞり驚いた。
「恥ずかしいから」
「ぼ、僕も……」
蓮斗も梓に続き、小さく主張した。
「じゃあ、3人で乗ろう!」
真希は聞こえないフリをして蓮斗に笑顔で言い切った。
「え、えっ……」
「3人で乗ろうね! ね!」
蓮斗が困惑していると、真希は近づき気味が悪いほどの笑顔を向けた。
蓮斗は拒否しようにも真希が腕をしっかりと握って無理だった。
「うん……」
***
3人はメリーゴーランドに並んで乗って行った。
梓は入り口付近に立って待っていた。
3人は梓から見て奥側に行って見えなくなった。
「わっ! この馬めっちゃリアル!! これにしよう!」
ひかりは目を大きくして驚き、その馬に跨った。
梓が待っていると、ブザー音と共に
「それでは動きます!
ここは水すらまともにない荒野。草木が枯れて何もない場所。そこに咲く大勢の笑顔を駆け走って見せてくれたまえ!
出発〜!」
スタッフが熱い掛け声を送った。
「世界観作らなくていいから」
梓は独り言のようにツッコミを入れた。
そして、メリーゴーランドは軽快な音楽に合わせて回り始めた。
乗っている人は子供が多く、キャッキャしていた。
そんな中、それを隔てる2人の世界が広がっていた。
真希と蓮斗がお互いを見ながら楽しそうに乗っていたのが、梓の目に入ってきた。
「ほんと楽しそうですね」
梓が一人呟き傍観していると、もう一つ周りに溶け込まない異質の世界が広がっていた。
「ヨーソロー!!」
ひかりが周りの子供のようにはしゃぎまくっていた。
「それ違う。普通ヒーハーでしょ」
梓は大きめの声で言い捨てた。
そして一巡すると、やはり真希と蓮斗は楽しそうに何かを話していた。
「うんうん、この2人はいいんだよ」
梓は大きく頷き、次の衝撃に備えて身構えた。
「シーハー!! ハーハーズ!!」
ひかりは梓の言葉が聞こえていたのかヒーハーのように楽しく叫んでいた。
「なんでsheの格変化なの? あと周りの子がドン引きしてるよ」
梓は呆れた様子でツッコミ、ひかりの周りの子を見た。
そして、もう一度ひかりを見た時、梓はくっきりと眉間に皺を寄せて違和感を覚えた。
「ひかりの馬……なんか周りと違くない?」
ひかりの馬は周りにはない茶色で、どこか大きかった。
梓がよく見ようとした時にはもう奥に行ってしまった。
さらに一巡して、真希と蓮斗が見えて来た。
「梓ちゃん〜! 楽しいよ!」
真希が満足そうに手を振った。
蓮斗も恥ずかしいと言っておきながら、楽しそうな顔で小さく手を振った。
梓は普通の顔に戻して、手を振り返した。
その後、すぐに目を細めてひかりが来るのを待った。
「ヨ〜ロレイヒィ〜レイヒィ〜!」
ひかりは陽気な様子だったが、梓は無視して馬を確認した。
艶やかな毛並み、サラサラとしたたてがみ、尻尾がダラーンとなってはいるが時折フンと動いた。
「間違いなく本物じゃん……いや、なんで!」
梓は解決したと思えば、さらに謎が増えて眉間に皺を寄せた。
「大変だ!! ここに輸送中だった馬が逃げ出したぞ!!」
周りに振り撒く大声でスタッフと警察官がやって来た。
「絶対あれじゃん」
梓は一瞬にして悟って固まった。
メリーゴーランドは緊急停止して、スタッフが呼びかけた。
「すぐに降りてください」
すると、ひかりが乗っていた馬が急に動き始めた。
「う、うわ!?」
ひかりは絶妙なバランス感覚で振り落とされず乗っていた。
「えっ! この馬動くの!?」
ひかりは呑気なことを言っていると、馬がメリーゴーランドから飛び出した。
「えっ、すごっ!! どこまで動くのこれ!!」
「ひかり、それ本物!」
「えっ!? 嘘!?」
ひかりが呆気に取られていると、馬は走り出した。
地面を蹴って誰よりも速く駆けて行く。
空を切り、止まるという選択肢はない程に。
「うわー、めっちゃ風が気持ちいい!
待って……これ、あれだ!!」
ひかりは何かを思い出して、神妙な表情になった。
『“暗がりの、目に映るのは、負の極み、心が乱れ、何も感じず”』
虚しさを感じる声で吐き捨てた。
「完全にこれだ〜、主人公の師匠が自分の命を狙ってると分かって、やっと見つけた最愛の男性と別れて、馬で駆けるシーンだ!!!!
やってみたかったんだよね〜」
ひかりは状況が分かっておらず楽しんでいた。
「なに呑気なこと言ってるの」
梓はツッコミを入れた頃には、ひかりは遠くに行っていた。
TO BE CONTINUED




