第52話 遊園地ダブルデートチェックポイント
「えー、じゃないですから。完全なる自業自得です」
「まあまあ、梓さん、そんなに言うことじゃないよ。切り替えて次は乗り物に乗ろう!」
蓮斗はどうにかして空気を変えるべく、無理して明るく言った。
「そうだね、蓮斗の言う通り! 今度はみんなが楽しめるやつにしよう!」
「じゃあ、コーヒーカップ!!!!」
ひかりの切り替えの速さに3人は呆気にとられた。
「う、うん、行こうか……」
***
4人はコーヒーカップに向かった。
並び始めて数十分後、4人はコーヒーカップに乗り込んだ。
「ふ〜、やっと乗れる!」
「ひかりは元気だね」
「結局こういうのが楽しいよね!」
「うん、小さい頃はよく乗ったな〜」
4人はそれぞれ思いを口にして座った。
「アタシ回していいですか?」
「うん、いいよ!」
ひかりの言葉に真希は快く承諾した。
「それでは、いってらっしゃい!!」
スタッフさんの元気の良い掛け声と共にコーヒーカップは回り出した。
「いや〜本当に懐かしい」
蓮斗は過去の記憶を呼び起こして、感傷に浸っていた。
「理沙ちゃんと来たの?」
「あ、うん……でも、思い出すことじゃないよね」
「ううん、いいんだよ! 別に私は理沙ちゃんと仲良くしていきたいから!」
真希は聖母のように包容力のある笑顔を蓮斗に向けた。
梓はいい感じいい感じ、と思い頷いた。
蓮斗は心のわだかまりが溶けていくのを感じた。
「あり……」
蓮斗は感謝を述べようとした時、右側に吹っ飛びそうになって、すぐに左側に体が倒れた。
それはひかりを除いた3人が同時にそうなった。
3人は体を起き上がらせることができず、ただ倒れた状態で回る感覚と中心から来る“風”を感じるしかなかった。
その理由は——
“うおおおおおおおおおお”
ひかりがまるで神業のように中心のハンドルを回していたからだ。
しなやかな指使い——タイミング良く触れて回す正確さ——ハンドルよりも速く動かす腕の動き——全てが洗練された無駄の無い動きだった。
その回転でハンドルからは突風が吹き荒れ、周りもコーヒーカップの回転で風が吹いた。
それは周りにも感じる程の強風だった。
そして、この勢いは止まることを知らず、突風が徐々に上の方に昇り渦を巻き始めた。
ハンドルからとコーヒーカップからの二重の竜巻が出来上がり、周りの人達は風に煽られながら眺めていた。
「ひかり、止めてお願い」
「ひかりさん、うっ……やばい止めて」
「ひかりちゃん、ありが、とう……」
梓はまだ耐えている様子で懇願した。
蓮斗は過去の記憶が風と共に吹っ飛び、車酔いのように気持ち悪くなった。
真希は気絶した。
風の音でひかりの耳には3人の悲痛が届かなかった。
ひかりは終わるまでずっと回し続けた。
***
「ふぅ〜楽しかった! 次は何乗りますか?」
4人はコーヒーカップが終わり出口付近にいて、ひかりが清々しい感じで話しかけた。
だが、誰も反応がなかった。
梓は壁に手を着き、二日酔いのおっさんのように下を向き俯いていた。
真希と蓮斗は青ざめた様子で背中を合わせてその場で座り込んでいた。
3人は完全にお通夜モードで、ひかりは披露宴気分だった。
「ね! 何乗りますか?」
ひかりはみんなの惨状を無視して聞いた。
「あっ……なんか……世界が一巡しているの」
「一巡どころか十巡している」
真希と蓮斗は上の空で話が通じなかった。
「梓、何乗る?」
「救急車……」
「梓、何言ってるの! 遊園地にそんなの無いって! ついに梓もボケたの?」
「ボケ……じゃ……はぁ〜なんか疲れた……休憩しませんか?」
梓は命からがら言葉を絞り出した。
「賛成……早いけどお昼にしよう……混まないうちに」
「うん、それがいいね……でも、もうちょっと休みたい」
真希と蓮斗はげんなりとした様子で梓に賛成したが、動くことができなかった。
「え〜まだ早いですよ! なんか乗ってからにしましょうよ!」
ひかりは駄々をこねる子供のように言った。
「ひ、ひかり、今食べておけば昼時になった時にジェットコースターの列が少なくなるかもだから、お願い」
「本当!? よし、じゃあ、昼にしましょう!」
梓は気分が悪くても、頭の回転は早かった。
しばらくして、4人はレストランへと向かった。
***
4人はレストランに着くと、ひかりと梓が隣同士で座り、その対面に真希と蓮斗が隣同士で座った。
そして、各々が食べたい物を注文した。
「あの、今更なんですけど、蓮斗さんは本当に私とひかりが来て良かったんですか?」
「うん、元々そういう約束だったからさ」
梓は蓮斗の言葉に「?」と眉をしかめた。
「どう言われたんですか?」
「どうって……ひかりさんと梓さんと一緒に遊園地行こうって」
「ってことは私達を誘う前から決まってたんですか?」
梓は白い目で真希を見ると、真希は顔を逸らした。
「ま、まあね」
「私達が断ったらどうしてたんですか?」
「2人なら絶対に来てくれると思って」
「それはそうです! 真希のためならなんだってします!!」
ひかりが力強く横から入ってきた。
「ね! それに結局来たんだし、ダブルデート楽しいじゃん!」
「いや、私達付き合って無いんですけど」
「それなら、私と蓮斗だって付き合ってないわよ」
真希はさらっとした物言いだった。
“パンッ”——皆の楽しい雰囲気を一つの発砲音がガラリと変えた。
「お前らそこを動くんじゃねぇ。今からここは俺が占領した」
覆面を被った男が拳銃を持った方の腕を上げて、ドスを効かせた。
その場にいる全員が不安と驚きを隠せなかった。
「どうするの?!」
「蓮斗先輩いけます?」
「無理だよ」
「男なんだからなんとかしてくださいよ!
か弱い女子を守ってください!」
「ひかりは絶対か弱くないよ」
「いやいや、だからって無理だよ」
蓮斗はブンブンと横に顔をふって拒否した。
「しょうがない、ひかりよろしく」
「なんで?!」
「さっき、真希のためならなんでもしますって言ったから」
「……確かに、分かったよ」
ひかりは梓に指摘されて仕方なく席を立って、そそくさとトイレへと向かった。
トイレに入るとひかりは『変身』と言って、まばゆい光に包まれて、『幻想』とさらに魔法を使ってトイレを出て行った。
皆の目にはトイレから桜の花びらが風に吹かれて飛んで来たように見えた。
そして、ひかりは和傘をさしながら真ん中を歩いて行った。
「“花乱れ、風が届ける、光の矢、その先に待つ、静かな眠り”」
と風情に言うと桜を消して、覆面の目の前に行った。
その姿は左手で和傘を差し、腰に一振りの刀。
ピンクの着物に右腕を脱いだスタイル、下は灰色の女袴を身に纏っていた。
カッコ可愛い姿となっていた。
「なんの影響受けた!?」
梓は目を見開いて驚きながらツッコミを入れた。
「さあさあ、強盗さん神妙にしろ〜!」
ひかりは何かの真似をしているように、普段の言い方とは全然違った。
「とおお! そこまでだ、悪者……め……」
すると厨房のドアから赤いヒーローのような人が出てきて、ひかりを見て困惑した様子でフリーズした。
そして、覆面の人がひかりに近づいてきて、
「あの、お客様、大変申し訳ないのですが、こちらはショーでございまして、そういった行為ご遠慮ください。
私らも誤解を招いてしまい、心より謝罪申し上げます……」
深々と頭を下げた。
ひかりは目が点になった。
「えっ、あっ、そうなんですか……あはは」
ひかりは愛想笑いをしたが、急に恥ずかしくなって、すぐにトイレに駆け込んだ。
『解除』そう言って元の服になり、F1カーぐらいのスピードで3人の側に行って座った。
そして、ひかりは机に顔を埋めた。
「恥ずかしい〜」
「ごめんね。ひかりは悪くない」
「ひかりちゃんカッコよかったよ!」
「ひかりさんの真希に対する行動力見習います!」
3人は労いの言葉と共に拍手を送った。
TO BE CONTINUED




