第51話 お化け屋敷で化けて出た
「まず、何乗る?」
「ジェットコースター!」
真希の問いかけにひかりは食い気味で2歳児のように元気に答えた。
「テンション上がりすぎ」
「僕はバイキングが良いかな」
「蓮斗先輩、お昼はまだ先ですよ!」
「そっちの意味じゃないから」
ひかりの言葉に梓は呆れ果てた表情を浮かべた。
「バイキングは遊園地の奥だから後だね。
それに、ジェットコースターは……」
真希はジェットコースターに視線をやって、3人も見ると、見事な長蛇の列。
まさに人間万里の長城だった。
「うん、ジェットコースターは乗れそうにないね」
「え〜、そんな……」
ひかりの上だけに雨が降ったように落ち込んだ。
「まあ、人が少なくなったら並ぼうね!」
「うんうん、別に並ぶのは苦じゃないから、まずは違う所に行こう」
真希と蓮斗は小さい子をあやすように優しく接した。
「じゃあ、どこ行きます?」
ひかりはコロッと表情を変えて、明るく聞いた。
「お化け屋敷は? 空いてそうだし」
「えっ……」「えっ……」
ひかりと真希の表情は凶器を突きつけられたように怯えていった。
「もしかして、2人とも怖いの?」
「いや、怖くなんかない! ですよね、真希?」
「そ、そうよ! 梓ちゃん、からかわないで!」
「声震えてるけど?」
梓は容赦ない眼差しで2人を詰めた。
「まあまあ、無理して行かなくても良いから」
蓮斗が落ち着かせるように手を上下すると、なぜかカチッと2人はスイッチが入った。
「別に行ける!」
「そうですよ! アタシ達に怖いものはないんですから!」
「それじゃあ行こう!」
2人は自信満々に口をムッとして歩き出した。
「ほんとかな?」
「さあ、まあついて行こう」
蓮斗と梓は2人の後をついて行った。
***
お化け屋敷に着くと、人はそんなにおらず数十分で入れそうだった。
ただ、お化け屋敷の建物は廃ビルのように錆びついた壁に鉄筋で舗装されて、雰囲気が暗く異質にそびえ立っていた。
4人は並んで待っていた。
ひかりと真希は平静を保つために自分に自己暗示していた。
「私なら行ける、怖くない怖くない」
「アタシは最強、おばけなんてこの世にいない」
蓮斗はそんな様子の真希を目に焼き付けていた。
梓は2人を無視して、周りを眺めていると、お化け屋敷の前の看板に目が留まった。
そこにはお化け屋敷の魅力とある一文が書かれていた。
「へぇー、ここ昔心霊スポットだったんだ」
梓の平気な様子で言った言葉に3人は「?」と眉をしかめた。
「あの看板に書いてます」
その視線を感じて梓は看板を指差して、説明し出した。
「ここは廃旅館を建て替えて作られて、旅館には幽霊が出るとして有名だった。
だからこそ、ここは本物の幽霊が出るかもらしいです」
梓の言葉はひかりと真希を震え上がらせた。
「は、はは、はあ、ゆ、ゆゆ、幽霊……」
真希は息が上がって、口に出すだけでやっとだった。
「大丈夫?」
蓮斗は真希の背中に手を添えて心配した。
「ゆ、幽霊? ゆう、れい、You lie?」
「No,I'm standing——それにレイじゃなくてライでしょ」
ひかりは恐怖を別の物に変換していき、アホな様子で梓に聞いた。
梓はひかりのアホに付き合ってから、ツッコミを入れた。
「どうする? やめる?」
蓮斗がこの上なく心配した顔で聞くと、2人は、
「いや行く!」「いや行きます!」
と同時に言い切った。
「なんで?」
梓は2人の生態に不思議がった。
***
4人は順番が来て、お化け屋敷の中へと入って行った。
中は廃病院のようで真っ暗な部屋に所々蛍光灯のような光があるだけだった。
「うー怖い……」
「なんか出てきそうだよ」
「お化け屋敷なんだから出てくるよ」
「あと気になるんだけど……なんで後ろに隠れてるの?」
蓮斗は梓と一緒にひかりと真希の壁になっていることを質問した。
蓮斗は真希に、梓はひかりに押されるようにして前を歩かされていた。
「それは……男が前に出るのが礼儀だからよ」
真希は蓮斗の背中をギュッと握って答えた。
「なら私は?」
梓はひかりに睨むような目で聞くと、ひかりは目をオロオロさせた。
「えっと……梓が見たいかなって思って」
「いや別に。それにひかりが行くって言ったんだから、ひかりが前の方が良いでしょ」
梓はクルッと振り返り、ひかりの後ろへと行った。
「えっ、いや無理!!」
ひかりは慌てて梓の後ろに隠れた。
「なんで、行くって言ったの?」
梓は呆れて閉口した。
仕方なく蓮斗と梓は2人の前を歩いた。
“ガァー”——暗がりから突如、血まみれの患者が出てきた。
梓はビクッともせず、蓮斗は「わっ!」と驚いたが、すぐになんか冷めてしまった。
“ギャーーーー”
ひかりと真希は外まで聞こえるほど、甲高い悲鳴をあげて、蓮斗と梓の背中を強く押した。
「うるさいよ!」
「真希、痛い」
蓮斗と梓は嫌な顔で2人に言い放った。
“カチャン”“カチャカラーン”——金属製のものが床に落ちて、耳障りな音をさせた。
「ヒィーッ」ひかりと真希はその音すら怖がり、怯えた声を上げた。
「早く行こう……」
「蓮斗進んで」
2人は蓮斗と梓を押して進ませた。
4人が病室の真ん中を進んでいると、左側で急に青白く光り出し、
「う〜ま〜れ〜え〜ぞ〜」
とおどろおどろしい女性の声が聞こえた。
“キャーーーー”
またしても2人は悲鳴をあげて、蓮斗と梓は何も感情が湧かなかった。
「う〜ま〜れ〜え〜ぞ〜」
「うまれえぞ?」
梓はもう一度聞こえた、言葉が突っ掛かり足を止めてその方を見た。
声を発していたのは、正座をしていて正確には分からないが、中学生くらいの女の子が白装束を身に纏っていた。
そして、首元にホワイトボードがかかっていた。
梓は興味本意で近づいて、ホワイトボードを見た。
「『I'm Minzoku』……どういうこと? 私は民族って……」
「違います。よく読んでください」
その女の子は淡々と命令した。
梓は目を凝らして読むと、ホワイトボードには『I'n Minzoku』と書かれていた。
「アイ……ヌ? あっ! アイヌ民族ね」
「そうです」
「ややこしいよ……ってことは、最初に言ったのは……」
「生まれ蝦夷です」
「もっとややこしいよ」
梓は眉間に皺を寄せて、困惑気味の顔で突っ込んだ。
「え〜! ってことは道産子だ! 珍しい!」
ひかりは恐怖が吹っ飛んだ様子で明るく話しかけた。
「はい、道産子です」
「なんか方言とかあるの?」
「一応あります。なまらうるさいお嬢さんですね。ええ声帯してはりますね」
女の子は冷たい表情で応えた。
「どういう意味?」
「お嬢さんはなんとも美しい声の持ち主なんだと褒めておりました」
「えへへ、褒められた……!」
ひかりは頭に手を当てて嬉しそうだった。
他の3人は言葉に違和感を覚えた。
「確か、『なまら』はとてもって意味じゃなかった?」
「うん、修学旅行の時、バスガイドさんが言ってたよね」
「それなら、とてもうるさいお嬢さんってことになります……育ちは京都?」
梓は蓮斗と真希の言葉で結論をつけた。
「いえ、東京です。それより、早く進んでいただけますか? 後ろが詰まって他の方に迷惑です」
女の子はさらに冷たい視線を送った。
「すみません」「ごめんなさい」
4人は同時に謝り、立ち去ろうとした時、真希はふと口を開いた。
「お化け屋敷にこんな小さい子いる? もしかして……」
「えっ……」
ひかりと真希は震えた目で女の子を見た。
「流石に童顔の人を使ってると思う」
「2人ともビビり過ぎです」
蓮斗と梓が呆れ返っていると、突然女の子から発していた青白い光が消えて、真っ暗になった。
「き、き、消えたーー!」
ひかりと真希は息ぴったりで奇声をあげて、
「もう無理!!」
と言い残し2人を置いて走り出した。
「あ、そっちは……」
梓は2人に声をかけようとしたがもういなかった。
「全く、わたくしはずっとここにいるというのに」
呆れた声が聞こえた後、また光り出して女の子がさっきと変わらない姿勢で現れた。
「ほんと、全くです」
「えっ、なんで消えたの? 僕には消えたように見えたけど?」
「それは、目がわたくしの光に慣れていたことで、消した時に真っ暗になって消えたように見えただけです」
蓮斗の疑問に女の子は表情も変えず淡々と説明した。
「御二方はあちらへお進みください」
女の子は2人が走って行った方向の逆の方向を手で指した。
「分かりました」
「あの2人とじゃなんか楽しめなかったし、梓さん行こう」
「分かります。自分よりも驚いた人を見ると冷めますから」
「そうそう」
蓮斗と梓は2人を気にせずにお化け屋敷を楽しんで行った。
***
一方、ひかりは——。
真希と並走して、下を向いて極力見ないようにしていた。
人が急に出て脅かそうとしても足を止めず、普通の服の人達が前から来ても足を止めず突き進んで行った。
そして、ついに明るい世界が広がる外に出た。
2人はマラソンを走り切ったように晴れた顔をしていた。
「はあ、やりましたね!」
「うん、私達に怖いものはない!」
2人は勝ち誇った顔をして、お化け屋敷の近くのベンチで座って2人を待った。
10分後、蓮斗と梓は心なしか楽しそうな表情で出てきて、2人の元へ来た。
「遅かったね! アタシ達はもうゴールしたのに」
「私達が早過ぎたんだよ」
ひかりと真希は煽るようにして、2人に自慢した。
「早いのは走ったからだよ」
「それに2人ともゴールしてないですよ。
だって、入り口に戻って行ったんだから」
「えっ……」
「嘘……」
ひかりと真希は顔を見合わせて、ガッカリした表情で叫んだ。
“ええーーーー”
TO BE CONTINUED




