第44話 話猫物語〜信用〜
アルはひたすら笑い続けた。
警察官が集まってお金を回収して行く間も、ずっと高笑いをし続けた。
“はははははははは”
その声が思念となって建物に染み付くほどだ。
「ふ〜、あー今年1番笑ったにゃ!」
アルは口角が攣ったのかずっと上がっていた。
アルはルンルンの気分でその場を離れた。
***
「これで全部終わったにゃ! スッキリスッキリにゃ!」
アルは心が晴れたことで、世界がブライトに見えた。
降りそそぐ日差し、肌を撫でる風、群青の空を優雅に漂う雲、すべてが新鮮に感じた。
空っぽになっていく頭の中——まるで脳内が、お花畑のように。
「誰の頭がお花畑にゃ!! にゃあはいつだって人間を殲滅する方法を考えてるにゃ!!」
アルの性格までは変わらず、いつもの如く怒り心頭で突っ込んだ。
「にゃあの怨みは晴れたが、悪はそこかしこにいるからにゃ。まだまだこれからにゃ!」
アルは正義を掲げて宣言した。
アルが帰路に就いていると、尿意が襲って来た。
「やばいにゃ……もうあそこでするにゃ」
アルは近くの電柱に向かって放尿した。
登場人物が放尿するのはいかがなものか、ツッコミたくなる様子だった。
「仕方ないにゃ。にゃあだって猫にゃ」
アルは悪びれることなく言った。
放尿を終えて、帰ろうとした時だった。
突然、上から威圧感のある声が聞こえてきた。
「てめぇ、俺の縄張りでなにしやがる!!」
アルが声の方を見ると、ブロック塀の上から殺気立った目で見下ろす黒猫がいた。
アルは咄嗟に後ろに下がった。
「なんにゃ、おにゃあの縄張りだったかにゃ……知らなかったにゃ」
「知らないで済むと思ってるのか」
「にゃあはそこら辺の猫とは違うからにゃ」
アルはさっきの発言を忘れた素振りで言った。
「じゃあなんだ?」
「にゃあは人間すら超えた天才にゃ!」
「だからなんだ!! 野良のルールを身をもって教えてやる……!!」
黒猫はアルの言動に腹が立ち、目を鋭くさせてアルの前に立ちはだかった。
「縄張りなんて関係ないにゃ。町はみんなのものにゃ!!」
アルは黒猫の圧に負けずに強気に言い返した。
「そのみんなのものを汚してんだよ、てめぇは!!」
黒猫はまるで猛獣のような、圧巻の覇気を放った。
「……」
アルは黒猫の覇気に押され、正論を言われて、ぐうの音も出なかった。
そんなアルを嘲笑うかのように黒猫は言い放った。
「所詮は人間に飼われてた猫——外者だな!!」
「差別にゃ!! いくらなんでも言って良いことと悪いことがあるにゃ!! にゃあはこの世界の頂点に立つ存在に差別用語使うなんて、もう許さないにゃ!!」
アルは怒りが頂点に達して、険しい顔で黒猫を睨み、臨戦態勢に入った。
「はは、許さねぇのは俺の方だ!!」
黒猫は乾いた笑いをして、爪を立てた。
お互いが睨み合い、一触即発の空気感が漂う。
お互い動かないし喋らない。
口さえも動かせば戦いが始まる、そんな緊張感が2匹の間にある。
シーンとした静寂の中、2匹の間を自転車が通った。
目の前を通り過ぎた時、黒猫は先に地面を蹴り——アルの方に跳んだ。
アルは黒猫が動いたことに気づいて、ワンテンポ遅れて、黒猫の方に跳んだ。
アルはこの時思った——このシーンいらないにゃ……
アルと黒猫が空中で交わった時——お互いにお互いの体に向けて鋭い爪で引っ掻いた。
刹那の間に勝敗は決まった——。
“ブシューー”——血が噴き出た……アルの横腹から。
「ぎにゃーー!!」
アルの悲惨な悲鳴は町に響き渡った。
アルは無様にのたうち回った。
「俺の勝ち……だ……」
黒猫は勝ち誇った表情を浮かべていたが、遅れて目に引っ掻かれたことに気づいた。
目を丸くして驚き、噴き出る血を抑えた。
「なかなかやるな……今日のところは見逃してやる」
目に傷を負った黒猫は冷静を保ちながら言い捨てた。
「にゃーー!! 助けてにゃ……痛い、痛いにゃ……誰か!!」
アルは助けを叫んだが誰にも届くわけがなかった。
アルが痛みの中で朧げに浮かべたのは直人の顔だった。
(あいつなら、助けてくれる……にゃ)
アルは藁にもすがる想いだった。
痛みに耐え横腹を抱えながら家へと帰っていく。
アルは意識が朦朧しても、関係なく歩き続けた。
なんとかマンションまで来て、階段を死に物狂いで上がった。
家に着いたと思いきや、最後の関門が立ちはだかった。
それは鍵を開けることだ。
アルにはもう体力がない——でも諦めず、首輪から針金を取り出して、鍵穴に入れようと体を伸ばした時……目の前が真っ暗になり、意識は底へと沈んだ。
***
アルが目を覚ますと、見慣れない天井が目に入ってきた。
口には酸素マスクがされて、一定の電子音が耳に入ってきた。
(ここは……どこにゃ……)
アルは意識がはっきりしないまま思っていると、顔を涙と鼻水でぐちゃぐちゃになった直人が目に入ってきた。
(うげぇ、相変わらずしけた面にゃ)
「アルベルト、無事で、良がっだぁ……」
直人は涙ぐんだ声で、何を言っているのか良く聞き取れなかった。
(大袈裟にゃ。にゃあがこんなことで死ぬはずないにゃ)
アルは嬉しさが混じったツッコミをした。
そして、アルは安心したのか、また眠りについた。
***
翌日の夕方——。
アルの傷は思ったよりも浅く、包帯を巻かれて退院となった。
アルは直人に連れられて、家に帰って来た。
アルは家の安心感と痛みからすぐに横になってリラックスした。
そんなアルを見た、直人は複雑そうな顔を浮かべた。
「ドアの前に倒れてた時と同じ格好……」
直人はアルの側で気にかけながら勉強を始めた。
(邪魔にゃ、なんでここでするにゃ)
アルは嫌な顔をした。
「えっと、εがf(x)とLの距離? で、δがxの範囲?」
直人は眉をしかめながら、理解しようとしていた。
ずっと、間違ったことをブツブツ近くで言い続ける直人にアルは怒りが蓄積していき、限界に達した。
「全然違うにゃ!! εは誤差みたいなものにゃ。|f(x)-L|の範囲で収めろってことにゃ!!
δはその誤差にするためにxの値をどれくらいすれば良いかってことにゃ!!」
「……えっ?」
直人は一瞬何が起こったのか理解出来なかった。
アルの方を、口をあんぐり開けて見つめていた。
「し、喋れるの? えっ……いや、き、聞き間違い……?」
「喋れるにゃ」
「えーー!! 嘘でしょ!?」
直人は腰を抜かして、目を丸くしていた。
「喋れるつもりはなかったにゃ。でも、あまりアホなことをにゃあの前で吐かすから、腹立ったにゃ!!」
アルは内心ぶち切れていたが、怪我のせいで多少抑えられていた。
「えっと……天魔野さんと鈴木さんは知ってるの?」
「誰にゃ?」
「ほら、アルベルトと一緒にいた高校生だよ」
「ひかりと梓って言えにゃ。名字なんか覚えてないにゃ」
「ごめん、それで……?」
「知ってるにゃ。それより早く問題解けにゃ!」
「え、あっ、うん」
アルは間違えたら手が出る熱血教師のように直人に勉強を教えて、恩を返したとさ。
過去編が終わり現在へ——。
TO BE CONTINUED
「終わりたくないにゃ!! ずっとにゃあの主役回がいいにゃーー!!」




