第41話 犯人はあなただ!!
「これで犯人が分かったね!」
ひかりは脳天気な様子で喜んで言った。
「これだけじゃ分からないから」
梓ははぁ〜とため息を吐き呆れた。
「なんで? 犯人はペットショップの人じゃないの?」
「まず、猫達はペットショップというものがあるって言っただけで決まったわけじゃない」
「でも、ペットショップ以外にたくさん猫と犬いる?」
「多頭飼育崩壊とか」
「果糖果肉王林?」
「どんな聞き間違い? リンゴの話はしてないよ。多頭飼育崩壊はペットが増えすぎてお世話できなくなること。それで飼い主が逃げたりして、野良が増えたのかも」
梓はゆっくり丁寧に説明した。
「なるほどね!——つまり……」
ひかりはポンと手を叩いて納得した。
「つまり、まだ犯人は確定してないし……ペットショップどんだけあると思ってるの?!」
梓はスイッチが入ったように突っ込んだ。
「あ、そっか。まだ聞き込みしないとか……」
「うん、まだ他の猫がいるかもだし探そう」
ひかりはテストのプリントを解き終わったと思ったら、裏面にも問題が残っていた時のように落ち込んだ。
梓は手がかりを得て、近づいてると冷静に見ていた。
***
2人は河川敷を歩いていると、斜面に人のように腰を下ろしている猫を見つけた。
その猫は遠い目をしながら、川を見ているようだった。
「すみませんー! お話いいですか?」
ひかりはその猫に下から健気に聞いた。
その猫はピクリとも動かなかった。
「すみませんー!」
さっきより大きく言ったが、やはりピクリとも動かない。
ひかりは猫に近づいて、
「すみませんー! 野良が増えた原因知らないですか!」
と怒鳴るように言った。
その猫は目を見開いて顔をしかめて、
「なんだこの甘ったるい匂いは! 鼻がひん曲がる!!」
とカッと怒った。
「アタシそんな甘い匂いするの?!!」
ひかりはまた言われて驚いたあと、しょげて猫から少し離れた。
「それで何じゃ? せっかく寝てたのに」
猫は老いているのか弱々しい声だった。
「目開いてたけど」
梓は猫に近寄りながら言った。
「目を開けて寝るのがワシのチャームポイントじゃ」
猫はかわい子ぶったように言った。
「そうですか……」
梓は適当に相槌を打った。
「野良が増えた原因知らない?」
「ワシは知らんが、坊主なら知ってるかもな。
坊主は最近野良になったばっかでワシが生き方を教えておるからな」
「ほんと!? その坊主はどこ?」
「今、トイレ行ってる」
ひかりはウキウキしながら待った。
2人と1匹は無言で待ち続けた。
数十分して、ようやく子猫がこちらに向かって来た。
「ワッシー、めっちゃ綺麗に隠せた! 誰が見てもバレないよ!」
子猫は純粋無垢な様子で喜んでいた。
「長ーい!!」
「トイレでスマホいじってた? それくらい長かったけど」
2人は同時に声を大にして突っ込んだ。
子猫は縮こまって震えた。
「な、なに? ワッシー、この人達は?」
「この人達は坊主のファンじゃ。坊主に会いたいらしいからな」
「会いたいけど、ファンではない」
梓は2匹の間に割って入った。
「そうなの!? わーい、僕のファンだ!」
子猫は飛び跳ねながら近づいて来た。
「だからファンではない」
「それで僕に何の用?」
「君が野良になった原因を知りたくて来たの!」
ひかりはしゃがんで、子猫に優しく言った。
「それはね、ヒーローが僕達を出してくれたからだよ!!」
子猫は目を一等星ほど輝かせていた。
「ヒーローって誰なのかな?」
「ヒーローはヒーローだよ!」
ひかりは苦笑いを浮かべた。
「そ、そうだね。それなら、出してくれたってどこから?」
「えっとね、えっと……狭いお部屋から」
「狭いお部屋?」
ひかりは見当がつかなくて、困り果てた顔で梓を見た。
梓もしゃがんで、子猫に優しく言った。
「狭いお部屋には1匹ずついた? それともたくさんいた?」
「1匹ずつだよ! みんな狭い思いしてた!」
「そっか1匹か。なら、ペットショップだね」
「お〜さすが梓!」
「あとヒーローの特徴覚えてない?」
「カッコよかった!!」
「そ、そうだよね……」
梓も苦笑いを浮かべたが、どうやって聞き出すか考え始めた。
梓は思いついた——二択で質問したらいいことに。
「ヒーローは男? 女?」
「男!」
「……ひかり立って」
「え、うん」
ひかりは言われた通り立った。
「ひかりよりは大きい? 小さい?」
「小さいよ!」
「中学生か小学生とかか? それなら、声は高い? 低い?」
「低いような……」
「中学生だと思うけど……これ以上は絞り込めないな」
梓は質問責めした結果、中学生だと結論が出たが、背の低い人もいるので断定はしなかった。
そこでひかりももう一回質問してみた。
「ヒーローはマントつけてた?」
「何聞いてるの、つけてるわけ……」
「つけてたよ!」
梓の言葉に被せて、子猫は言った。
「どんなの?」
「赤いマントが首に巻かれてた!」
「それはマントじゃなくて首輪じゃん……首輪?」
梓は自分でツッコミを入れた言葉でハッとした。
「もしかして、ヒーローって猫?」
「そうだけど」
「なんで人間って決めつけてたんだろ……いや普通はそうか」
「なに自分でツッコミしてるの」
梓が自分自身にツッコミしてるのを見て、ひかりはぼやいた。
「まあ、ってことは犯人は確定したってことでいいよね!!」
「うん、こんなことできる猫は1匹しかいない」
***
“ピンポーン”
2人は来た道を戻って、直人の部屋のインターホンを押した。
「はい?」
「また、ひかりと梓です! アルに用があって来ました」
「絶対に開けるなにゃ!! 帰らせろにゃ!!」
アルの声が小さくインターホンから聞こえた。
ガチャ——直人は無視してドアを開けた。
「どうぞ……」
「お邪魔します!」
「お邪魔します」
2人は部屋の中へと入って行った。
リビングに行くと、アルはさっき見たまんまの体勢で寝そべっていた。
「何しに来たにゃ?」
アルは嫌悪感むき出しで聞いた。
「犯人はあなただ!!」
ひかりは脈絡もなく、いきなり人差し指をアルに向けて言い切った。
アルはゴミを見るかのような目でひかりを見た。
「それだけじゃ、アルには分からないから」
梓もまた冷ややかな目でひかりを見た。
「そっか……ペットショップでペットを逃して、野良を増やした原因はアルでしょ!!」
「証拠はどこにゃ?」
アルは一切動揺せずに聞いた。
「証拠は、何?」
「なんで、聞いてくるの……証言だよ! あの子猫の」
「へぇ〜あれが証拠なんだ」
「感心してないで進めて」
「アルを見た子猫から聞いた!」
「何て言ってたにゃ?」
「猫で赤い首輪してた。
アルは赤い首輪してるし、喋れるから絶対犯人だよ!」
「はあ〜」とアルはため息を吐いて、呆れた様子で、
「猫は人間のことを大きな猫って認識してるにゃ。つまり、人間の可能性もあるにゃ」
「でも、首輪してるって」
「ペットショップのペット逃す人間は変態にゃ。だから、首輪してても違和感ないし、証言は証拠としては弱いにゃ」
「でも……」
2人は何も言い返すことが出来なかった。
2人はアルに背を向けてコソコソ話した。
「無理だよ。アルはうまいこと言い逃れしてる。私でも言い返せない」
梓は気弱になっていた。
「でも、絶対犯人はアルだよ! 証言より強い証拠ないの?」
ひかりは諦めず模索していた。
「もし、犯人がアルだとしたら、自白させればいけるけど、アルは手強いから無理だよ」
梓は完全に諦めムードだった。
ひかりの目には勝機が見えて、不敵に笑った。
「ふふ、いけるかも! アルが気づいてなければ」
梓は「?」と頭に浮かべて、首を傾げた。
ひかりは振り返ってアルに、
「その傷治してあげようか?」
と鼻につく言い方で言った。
「治せるにゃ?」
アルは食いついたように聞いた。
「うん!」
「すぐにやるにゃ」
アルは上から物を言った。
「人に頼むなら、お願いしますって言わないと」
「なんでお前に頭を下げないといけないにゃ!!」
アルはそれだけは嫌なのかカッと怒った。
「いいの? その格好じゃ生活しにくいでしょ」
ひかりはさらにアルを舐めたように言った。
「チッ……お願いしますにゃ」
アルは仕方なく、不服そうな顔をした。
「えっ、何て?」
ひかりはわざとらしく聞いた。
「“ふ……ざ……け……る……にゃ!!”」
アルは大声で激高した。
「じゃあ、してあげない」
ひかりはアルの言葉を受け流した。
アルはしばらく考え、観念した。
「…………なんでもするか治してくださいにゃ。お願いしますにゃ」
「良いよ! じゃあ、クルッと回ってワンって言って」
「にゃあは猫にゃ!……でも、やりますにゃ……」
アルはその場で歩きにくそうにしながら回って——『“ワン”』と言った。
ひかりは手を叩いて喜び、
「やってくれたご褒美に金のフォーク(猫のペースト状のおやつ)あげる!」
「治せにゃ!!」
アルは勢いよく突っ込んだ。
「金のフォークはいらないの?」
「いるにゃ」
ひかりは直人からもらって、アルに渡した。
ひかりはうーんと考え始めた。
「次は……」
「なんでにゃ?! 一回だけにゃ!」
「でも、回数制限は言われてないよ」
ひかりの天才的な発想にアルはしてやられた。
「……これで最後にゃ」
「最後は、ペットショップのこと教えて!」
「チッ、分かったにゃ」
「凄すぎる! あのアルに勝つなんて」
梓は感嘆の言葉をひかりに送った。
「どんなもんだい!!」
ひかりは胸を張り、手で自分の腰を掴んで鼻高々に自慢した。
「バカと天才は紙一重だね」
「だよね!……それはどっちがバカ?」
「おにゃあに決まってるにゃ」
「アルがバカだよ!」
「なんだと、やるかにゃ!」
ひかりとアルはすぐに口喧嘩を始めた。
「やめて、それよりもアル話してよ」
梓は間に入り止めた。
アルは深呼吸して、息を整えて、
「それは……次回に続くにゃ!」
2人は冷めた様子で同時に言った。
「何言ってるの?」
TO BE CONTINUED




