第33話 スーパー事件
3人は悲鳴のした方へ向かった。
3人が行くとすでに人だかりができており、それを掻き分けて何が起こったのか見た。
そこには、店員と思われる男性がうつ伏せで倒れており、男性の頭の下に赤い液体が広がっていた。
液体は周りに飛び散っており、近くにはトマト缶が転がっていた。
「え!? 殺人事件!!!!?」
ひかりは目が飛び出るほど目を丸くさせて驚愕した。
姫乃と梓は驚くことはなく、険しい顔をしながら倒れた人に近づいて行った。
2人が観察していると、向かい側から蝶ネクタイをしている小学6年生くらいの幼さもありながら背がまあまあ高い、男の子が自分の推論を言ってきた。
「これは殺人事件だ! 間違いない! 店長が誰かに殺されてこんなに血が出たんだ!」
「は〜ははは、これを見て殺人事件だって思う人がいるかしら?」
姫乃は嘲笑うかのように高笑いをした。
ひかりは姫乃の後ろでスッと手を挙げた。
(これはあの子の言う通り殺人事件だよ!!)
姫乃はひかりに気づかずに話を続けた。
「そう思う人はバカだわ! なにせ、これは血ではなくてケチャップだからよ!」
ひかりは気づかれないようにそっと手を下げた。
「だよね! 殺人事件なわけないよね! 分かるんだけど一応なんでか教えてよ!」
ひかりは焦りながら姫乃に質問した。
姫乃はひかりの頼みに応えてあげた。
「鉄のような匂いではなくてフルーティなトマトの香りだからだわ」
「それに血と比べて赤が鮮明で、サラサラよりドロドロしているから」
梓は姫乃の説明を裏打ちするように言った。
小学生は反論されて悔しがり、違う推論を言ってきた。
「だったら、あれだ! そこに落ちてるトマト缶の中身が殴った時に出たんだ! 間違いない!」
ひかりはなるほど!——と心の中で思い、
「そう……」と言おうとすると、姫乃が先に話し始めた。
「誰がそんなことを信じるのかしら? 間違いだって一目見れば明白だわ! そうよね、ひかり?」
姫乃はひかりに視線を向けて、ひかりが答えるのを待っている。
ひかりは急なことと別のことを言われてあわあわと焦り始めた。
「え、えっと……その……」
ひかりがオロオロ、ソワソワして一向に答えないので、姫乃は煽った。
「やっぱり、ひかりは赤ちゃんね。こんな簡単なことも分からないなんて」
(逆恨みだ……ひかりに可愛いって言ったの突かれたから)
梓は哀れみの目をひかりに向けた。
ひかりはムッとしかめっ面になり、梓に答えを求めた。
「梓は分かるの? 教えてよ!」
「うん。殴った場合、缶に血が付くはずだけど、何にも付いてない。飛び散ったケチャップすら」
梓はひかりの代わりに答えた。
「そうね、あとは、殴った時に出たなら、高い位置にも飛び散らないとおかしいわ」
「それに、倒れた人の後頭部に付いてないこともおかしい」
姫乃は梓を見て、得意気な様子でニヤッとして、推理を畳み掛ける。
梓は意図を理解して、それについていく。
「それを裏付ける証拠は靴底にケチャップがついていることだわ」
「ケチャップを踏んで転んだ。つまり、ケチャップはすでにあったということ」
「でも、普通なら簡単に跨げるわ」
「だから、何かによって踏むしかなかった」
「その何かこそ、ケチャップを地面に敷いた犯人」
「結論としては転んだことによって頭を打って気絶しているだけ」
ひかりは2人についていけなかった。
早口で何を言ってるのかさっぱり分からない。
まるで、ネイティブスピーカーと話す英語ができない人のように。
「な、なら、トマト缶はなんでそこにあるんだよ!」
小学生はなんとかついてきたのか、焦りながら聞いた。
「簡単だわ。このトマト缶だけはこの位置にあるのにケチャップが飛び散ってないから、上から落ちてきたんだわ」
その言葉で野次馬達は一斉に姫乃から見て右側の棚を見ると、確かにちょうど真上に並べてあった。
そして、姫乃と梓に拍手を送った。
「じ、じゃあ、犯人は誰だって言うんだよ」
「それは……」
姫乃は犯人までは分かっていない様子だったが、
「それは君でしょ」
と梓が言った。
姫乃は先を越されたと思い、小学生をくまなく観察した。
(梓が分かって、あたしが分からないはずないわ!
探しなさい、どこかに証拠があるはずよ……)
姫乃は小学生の靴を見て気がついた。
姫乃は嬉しそうにして語った。
「あなたの靴についてる、その飛び散ったケチャップよ!! 簡単ね!!」
「気づいてなかったよね」
「うるさい!」
「あの子が本当に犯人なの?!」
ひかりは終始訳もわからないままだったが、犯人だけが分かってしまった。
「ほら、ひかり捕まえてきなさい」
姫乃がそう言うと小学生は地面を蹴って走って逃げた。
「あっ、待って!」
3人は倒れた人を跨いで、追いかける。
姫乃と梓は小学生の足の速さに驚いた。
「速すぎるわ! 本当に小学生かしら?!」
「高校生なのに、小学生に負けるのか……」
だが、ひかりは違った。
小学生が先に走っているのにも関わらず、距離をどんどんと縮めて行く。
小学生はついてこれないと思い後ろを振り返り、ひかりを見て焦り始めた。
「はっ? 俺は日本で1番速いんだぞ!? 100メートル12.48秒なのになんで!?」
ひかりは平然と答えた。
「アタシ、毎日遅刻しないように走って学校行ってるから鍛えられてるの!」
「そんな理由で!?」
あっという間に、ひかりは手が届きそうな距離まで来て、もうすぐ!——と思った瞬間、足元にバナナが現れて、踏んづけて足を滑らせた。
小学生は売り物のバナナを盗んで、足元に落としていた。
ひかりは体が水平になって、皆がもうダメと思う状況で、
『——浮遊!』
と魔法を使い、自分の体を一瞬浮かせて、慣性のまま空中でくるっと一回転して、そのまま転ぶことなく着地した。
そして、小学生はひかりに捕まり、ひかりは事情を聞くことにした。
「どうしてこんなことしたの?」
「……ストレスだよ」
小学生は不貞腐れながら言い放った。
「ストレス? どうしたの?」
「俺はただ走りが好きでやってたのに……みんなは俺が速く走ることに期待して、自己ベストより遅かったら虐げるような目をして怒る。
だから腹立つ!!」
小学生は怒りに満ち満ちた様子で拳をギュッと握り締めた。
そんな様子にひかりは優しくアドバイスをした。
「関係ないんだよ、周りの人なんて。
アタシは遅刻して怒られることあるけど、怒られたところで変わらない」
「それは変わって」
梓は口を挟んでツッコミんだ。
ひかりは話を続けた。
「怒られても、誰かに期待されても、自分がどうにかしないと変わらない。
だから、自分のペースでやって行けば良いんだよ! 周りの目じゃなくて、自分に集中する、それだけだよ!」
ひかりはいつもの自分がやってることを笑顔で語った。
小学生はひかりの笑顔につられて笑った。
「分かった! やってみるよ」
小学生はバックヤードに連れて行かれた。
店長はひかりが『治れ』と魔法を使って起き上がると、小学生の親を呼んで一緒に怒った。
小学生は反省して、未来に希望を持った目をしていた。
ひかり達は店長の計らいでなんでも好きな物をあげると言われて、ひかりが「ポッチーが良いです!」と言い、3人分のポッチーを貰った。
***
「やったーーー!!!! 人助けはするもんだね!!」
「ひかりは犯人分かってなかったじゃん」
「でも、捕まえたもん!」
「さすがはあたしの下僕よ!」
「姫乃ちゃん、遠くない?」
姫乃はポッチーを持ったひかりを警戒して離れたところにいた。
「気のせいよ」
「ねぇ、ひかり、なんで自分で買わないの?」
梓は質問した。
「それは、お母さんに止められたから。
だから、梓にお見舞いとして貰ったってことにしたら食べられるじゃん!」
梓は首を傾げて、ひかりを詰めた。
「なんで、ポッチーを食べることも禁止なはずなのに、自分で買うことは止めるの?」
「えっと、それは……」
それを聞いた姫乃もひかりを詰めた。
「禁止されてるのに破るなんて、ひかりらしくないわ! 下僕としても許せない!」
ひかりは姫乃にも詰められて、目が泳いだ。
「だって……食べたいんだもん!」
「待って!」「待ちなさい!」
ひかりは3箱のポッチーを持って全力疾走した。




