第32話 長い1日のひかり
全ての授業が終わり、放課後——。
梓は帰る支度をしている最中にこの先の展開を予想した。
(絶対に姫乃さんに待ち伏せされている。ひかりのお見舞いに行くって言ってたから。
病院名はさっきひかりから送られてきた——そして、姫乃さんはひかりの連絡先を知らない、つまり…………
今回は、大丈夫でしょ……戦うことはない)
梓は望みが込められた憶測を立てて、意を決して教室を出た。
廊下を確認するが姫乃はいなかった。
(なんで?)
梓は姫乃がいることだけは確信があった。
だから、姫乃がいなくて嬉しいはずなのに困惑の表情を浮かべた。
(本当にいないの?)
前後左右を見て、4組の教室を覗くが姫乃の姿はなかった。
梓はモヤモヤが残るが、やっと安堵した。
梓は今日あったことを振り返りながら、下駄箱に向かった。
(疲れたな……姫乃さんには振り回されてばっか……やっと今日が終わる! 明日からはひかりが対応すればいいし!)
梓は意気揚々と下駄箱に着くと、
「遅かったわね」
声が聞こえて、目の前に姫乃が現れた。
梓は体を動かそうにもコンクリートのように固まって動かなかった。
「何やってるの? 早く案内しなさい!」
(予想していたのに……! なんで下駄箱なの!?)
「早くしなさい」
姫乃は動かない梓を不審な目で見つめた。
梓は上手く口が動かずカタコトで話した。
「わ、か、っ、た」
姫乃と梓は靴を履き替えて、校門へと向かった。
「梓、これあたしの連絡先だわ。登録しなさい」
姫乃は梓の前に2次元コードが表示されたスマホを突き出した。
梓は驚愕した。目の前のことが本当か分からなかったが、すぐに理解することになった。
梓はそれを読み込んで、連絡先を交換した。
「できたよ。私を友達に……」
梓の言葉に姫乃は被せた。
「なら、早くひかりのボイスメッセージ送りなさい」
(あー、そうゆうことね。私と友達になるわけないか)
梓はスッと冷静になって一歩引いた。
「送るよ……一応聞くけど悪用とかしないよね?」
「当たり前じゃない。ただ、電話の呼び出し音と通知音……後、タイピング音にアラーム、目覚まし音にするくらいだわ」
「いや、くらいじゃなくて全部じゃん」
梓はまた一歩、姫乃から距離を引いた。
(今日は本当に予想外のことが起こりすぎてる。何にもないと良いんだけど……)
梓が姫乃にボイスメッセージを送りながら、2人は校門を出ると、
「梓!……に姫乃ちゃん! 待ってたよ!」
と声がかかってきた。
2人は誰の声かすぐに分かり、バッと振り向いた。
制服姿のひかりが笑顔で手を振っていた。
「ひかり!?」
2人は目を丸くして、同時に声を上げてしまった。
2人はひかりに駆け寄って、
「なんで、ここにいるの?」
と梓が質問した。
「近くに用があったから、その帰り道で待ってた! それに早くポッチー食べたいし!」
「患者なのに何してるの? 抜け出したなら自分で買いに行けば?」
「えっと……まあ、歩きながら話すよ」
ひかりが言葉を濁して、状況を整理するためにも歩きながら病院に向かうことを提案した。
「分かった」
「じゃあ、行こう!」
ひかりはそう言って、姫乃の顔を見た。
ずっと無言のままだった姫乃は顎に手を当てて、何を言うべきか考えていた。
(なんでここにひかりがいるのよ?! 入院しているのに——まさか嘘? 違うわ、梓だって驚いてたし。
ってことは、あたしを迎えに来たのね!!
さすがは下僕だわ! それなら、さすがだわと褒めるべきかしら?
それとも、大丈夫かしら? どこが悪いの?
なんて言えばいいのよ!!)
ひかりは姫乃に近づいて、
「姫乃ちゃん、ありがとう! お見舞いに来てくれようとしてくれて嬉しいよ!」
と言った。
姫乃は顔には出てるが嬉しさを隠して、
「当たり前じゃない! 下僕のお見舞いに行くのは当然のことよ!」
と照れくさそうに言った。
「そっか! じゃあ、行こう!」
3人は歩きながら、ひかりが何をしていたのかを聞くことにした。
「それで何してたの?」
「えっとね、朝はお葬式にタイムカプセル届けて……」
「ちょっと待って、朝も抜け出したの?」
梓は話を止めて、質問した。
「まあ、困ってたから! それで……」
「待ちなさいよ! そんな元気なら学校来なさいよ!」
姫乃は目を鋭くして言った。
「アタシも行きたかったのに、医者がダメって言ったんだもん!」
(本当は行ったんだけどね……)
「それで、学校の近くに用があったのは?」
「それはね、葬式会場がこの近くでそこに…………ツチノコらしきもの見たから探そうと思って」
ひかりは確かに見たと言わんばかりのドヤ顔をした。
「何しに来てんの」
「そんなのいないに決まってるでしょ」
「そんなことのために抜け出したの?」
「子供でも信じないわよ」
「頭の検査が必要なんじゃない?」
「てことは赤ちゃんね。あたしが大事に育ててあげるわ」
ひかりは2人に言葉の暴力を受けた。
グサグサと音が鳴るように言葉で刺していった。
ひかりは心で誓った。
(2人の前ではバカなことを言わないと)
ひかりはなんとか笑顔を見せて、
「あはは、見間違えだよね!——多分蛇だった気がした」
「蛇が町にいるわけないでしょ」
「いたとして、細長いのに見間違うはずないわ」
2人はすぐさまひかりを否定した。
ひかりは子供のように拗ねた。
「知らない!! もう話さない!!」
「ごめん、蛇に見間違うはずないからツチノコがいたってことだよ……多分」
「梓、何してるの!! 拗ねたひかりも可愛いんだから、そのままにしなさいよ!!」
梓はひかりを申し訳なさの気持ちで見るが、姫乃はひかりを、初めて立つ赤ちゃんのように見ていた。
ひかりの顔はその言葉ですぐに笑みが現れた。
「姫乃ちゃん、今可愛いって言ったよね!!」
姫乃は「しまった」と思いすぐさま、手を口に当てた。
「言ってないわよ!! 絶対に!!」
「言ってた」
「梓は黙ってなさい」
これでもかと姫乃は梓を睨みつけた。
「梓も言ってるじゃん」
「言い間違えよね、梓? 本当は言ってないって言おうとしたわよね? 頷かないと、ただじゃおかないわよ!!」
姫乃は鷹のような目をして梓に問いかけた。
梓はそんな中、口を開いた。
「確かに可愛いって言ってた」
「ほら、やっぱり可愛いって言ったじゃん」
姫乃は今にも襲いかかって来そうだが、奥歯を噛み締めて耐えていた。
——そう、梓は知っていた。
(ひかりの前だから襲ってこないでしょ! 今日の仕返しだよ)
梓は今日散々姫乃のことを考えたから、分かった。
「姫乃ちゃんが褒めてくれるなんて嬉しいな!」
ひかりがポカポカした様子で言った。
姫乃はひかりの言葉でハッとした。
「そうよね! たまには下僕を褒めて、さらに働かせるのが主人たる者だわ!」
姫乃はなんとか体裁を保とうとした。
それを見た梓は、
「ひかり、姫乃さんはあのボイスメッセージを……」
と言いかけたところで、姫乃がグッと梓の口を押さえた。
ひかりは何のことか分からず、きょとんとした。
梓は頭を振り、両手で姫乃の手を退けると、
「ボイスメッセージを目覚まし……」
「あああああ、うるさいーー!!!!」
姫乃は梓の声をかき消すように叫んだ。
***
そんなこんなで3人は病院近くのスーパーへ来た。
「なんですの、ここは?」
姫乃は見当がつかない様子で質問した。
2人は口を開けてあんぐりした。
「スーパー知らないの?!」
「スーパーくらい知ってるわよ。素晴らしいって意味だわ」
「そういうことじゃない。スーパーマーケット、いろんな食品が売ってる所だよ」
梓はツッコミつつ、説明をした。
「それで何するのかしら?」
「ポッチー買うためだよ!! 早く、梓買ってよ」
「だから、自分で」
“キャーーー”
突然、スーパー全体に女性の甲高い悲鳴が響き渡った。
ひかりは2人に目配せして、
「行ってみよう」
と言った。
TO BE CONTINUED




