第3話 2人の始まり〜闇〜
深夜、皆が寝静まった頃——。
梓は真っ暗な中、家の階段を降りようとしていた。
そのとき、後ろから衝撃が走り、激しい物音をたてながら、階段から転げ落ち頭を打った。
……そのまま気絶した。
その光景を見下ろし、気味悪い笑顔を浮かべる人物がいた。
***
翌日——。
この日もまた授業がなく昼には帰れた。一度家に帰ってご飯を食べてからひかりは戦いの場へ向かった。
店前に着くと大行列ができており、その人の多さに戦意を削がれるが、ひかりは負けなかった。
辛抱強く待ち2時間経ってようやくマカロンが買えた。
そして、その足で梓の病室に向かった。
***
病室のドアを開けると、梓の祖母もいた。
会話はしておらず、それぞれが本を読んでいた。
梓を見ると小説をめくる手が震えているのが分かった。
「こんにちは! 梓、約束の品持って来たよ!」
ひかりは疑問を隠して、明るく挨拶した。
「本当に持って来てくれたんだ……嘘かと思った」
梓は目を大きく開けて、ひかりをまじまじと見た。
「当たり前だよ! 約束はちゃんと守るからね!」
「ってことはポッチーが何にでも合うのを本当なの?」
梓はひかりのことを嘘つきと思っていたような口振りだった。
「合う合う! でも、今日はマカロンだからポッチーはお休み! さあ、食べよう!」
「ありがとう、でも……」
梓は視線を祖母の方へ向けた。
ひかりは何かを察して、祖母に話しかけた。
「あの、よかったら一つ食べますか?」
「いいのよ、ワタクシのことはお気になさらず。お気持ちだけ受け取るわ。ありがとう」
祖母は微笑みを浮かべて、優しい声色で断りを入れた。
「あはは、そうですか。でも、やっぱり一人抜きで食べるのは……」
ひかりは浮かない顔で言った。
「それもそうね、わかったわ。少し席を外します。高校生同士で仲良く話しなさい」
そう言うと立ち上がり、病室から出ていった。
「これで大丈夫でしょ! 何があったの?」
ひかりは心配そうに話を聞こうとした。
「言えない。今度こそ骨折では済まされない」
梓は全身震え、冷や汗がでてきた。
そんな梓を見たひかりは心配してた顔から、優しい笑顔になり、梓の肩を持って、梓とお互いを見つめながら、
「落ち着いて、深呼吸して冷静になって、アタシは味方だよ!」
と言い切った。
梓は言われた通り深呼吸をし、体の震えを抑えた。
それを見たひかりはマカロンを強引に梓の口に入れた。
「ん?!」梓は戸惑いながらも、ゆっくりと味わい少し笑顔になった。
「どう? 美味しい?」
「美味しい! 今まで食べた中で一番」
梓は明るい顔で嬉し涙を流した。
ひかりは満面の笑みを浮かべた。
「良かった!——甘いもの食べたら辛いことどうでも良くならない?
——たぶんそれは美味しいものを食べる、今とだけ向き合っているからなのかも!
だから、先のことなんて気にしないでさ、アタシに話してみてよ!
もしこの先何があろうともアタシは梓を守るからさ!」
ひかりは持論を笑顔で、蝶を扱うような優しさで言った。
梓は一人で抱えていたことがようやく誰かに話せる、話していい存在が現れた嬉しさのあまり、また一筋の涙が流れた。
「ありがとう……私、ひかりなら信じられる!」
梓の顔に笑顔が宿った。
梓は深呼吸して心を落ち着かせ、淡々と語り始めた。
「実は私、階段で転けたわけじゃないの……あの夜おばあちゃんに呼ばれて起こされた。
お母さんとお父さんから話があるって言われて、こんな時間に変だなとは思ったけど素直に従った。
そして、階段で降りようとしたときに背中を押されて、気がつくと病院にいた。
お母さんにこのことを言ったら、おばあちゃんは寝てて階段で物音がして起きて見に行ったって言ってたらしい。
それと、
『梓は寝ぼけておばあちゃんの夢でもみてたんじゃない? だから階段で転けたのよ。
第一おばあちゃんがそんなことするはずないじゃない。梓のこと可愛がってたし』って言われた。
そのあとおばあちゃんに私が話したこと言ったらしくて、鬼の形相で病室に入ってきた。
そして、
『次誰かに言ったらタダじゃおかない。お前のことなど信じない。
ワタクシが今までどんだけ信用を得て来たと思ってるのかしら
みんなワタクシの意見を信じる』
って言われて、そこからおばあちゃんのことが怖くて体が震えてくるの」
ひかりは黙って話を聞いていた。
その顔には雲がかかっており、拳を強く握りしめて、静かに怒りが込み上げていた。
「ひどいよ、ひどすぎる……」
突然ドアが勢いよくバンっと開き、怒りが頂点に達した様子で祖母が入って来た。
「言ったな、ただじゃ、おかない。お前たち、覚悟しろ」
瞳孔がかっ開いて、今にも襲いかかりそうだ。
だけど梓は怖がっていなかった。それどころかまっすぐな目で祖母を見ていた。
「もう恐れない。私にはひかりがいるから!!」
「なんで、なんで……梓にこんなことしたの」
ひかりは嵐の前の静けさのように聞いた。
「なんで?冥土の土産に教えてあげよう。
お前の母がワタクシの息子、涼たんを奪ったからよ。
ある日、あんな下品な人間と息子たんは結婚すると言ってきたわ。
ずっと認めてなかったのに、お前を妊娠した。それを知った息子たんは勝手に入籍した。
最初はアイツを恨んだが幸せそうな息子たんをみたら何もできなかったわ。
憎しみが溜まってきたとき思い出したの、お前が生まれて来なかったら、結婚を認めず別れさせることもできたのに。
だから生まれてきたお前を苦しめることにした。
そのためにワタクシが孫大好きのおばあちゃんのふりをしてそんなことするはずないと思わせて、いい頃合いで実行しただけ。
——お前が生まれてこなければ良かったよ!!
フハハハハハ」
重みのある声で語り、不気味な笑みを浮かべて、狂ったように2人を嘲笑いだした。
ゴゴゴゴゴゴ——轟音と共に黒雲が空を遮り、病室が暗くなり、異質な空気が漂った。
「そんなことで、梓を傷つけていいと思ってるの?
あなたが梓の立場だったらって考えなかったの?
それに息子はあなたの物じゃない!!
誰の物でもない。自分の人生を生きてるの!!
それを邪魔する資格はない」
ドスの効いた声で怒りをあらわにした。
ひかりは祖母を睨みつけた。
感情が高鳴り、魔法を制御しきれないのか周りの物が次々と浮き始めた。
「何よこれ?! どうなっているの?!」
祖母は目の前のことに理解が追いついていなかった。
「ひかり、どうしたの?」
梓は目を丸くして、聞いた。
ひかりは2人の言葉に耳を貸そうとしなかった。
祖母の方に手を前に出した。すると宙に浮いた物が一斉に祖母めがけて飛んでいった。
梓は目の前のことを理解できなかったが、ひかりの異様な様子から察して、ひかりを止めようとした。
左手でひかりの手を掴み必死に声をかける。
「ひかり、やめて。お願い、ひかり、ひかり!」
必死の声かけにひかりは正気に戻り、物が祖母に当たる寸前で止まり、地面に落ちた。
ひかりは自分が何をしたのか分からずパニックを起こした。
「アタシ、アタシいま何を?」
頭を抱えて塞ぎ込んだ。
——すると、スーと病室のドアが開き、スーツ姿の綺麗な女性が入って来た。
「お母さん」
梓はそう言うと女性は今の状況を理解できないのか質問してきた。
「梓、これはどう言う状況? この子は誰?」
ひかりは急に走り出しトイレへ向かった。




