第2話 2人の始まり〜病室〜
ひかりは病院に着き、その子のいる病室の前まで来た。
ドアを開けるとそこには——ベッドの上で体を起こして右腕に包帯が巻かれ、左手で本を読んでいる、黒髪ロングの大人っぽく物静かで柔らかい雰囲気のメガネ女子がいた。
部屋は1人部屋で広い部屋の真ん中にデカデカとベッドが1つ置かれていた。
「こんにちは!」
とひかりは元気よく挨拶した。
その声で気づきその子は困惑した顔でひかりを見た。
「えっと……こんにちは」
弱々しい声で挨拶を返した。
その子のそばまで近づいて自己紹介を始めた。
「アタシは、天魔乃ひかり! あなたとはクラスメイト!
好きな食べ物はポッチーで、ポッチーは何にでも合うし単体で食べても美味しい、“最強のお菓子”だよ!」
ひかりは笑顔で元気よく言った。
「えっと……それマヨネーズで言うことじゃない?
マヨラーがどんな食べ物にも合う最強の調味料って言ってくるみたいな」
その子は戸惑いながらも冷静に的確にツッコんだ。
「そう?ポッチーはマヨネーズに合うけどマヨネーズはポッチーに合わないよ」
「いや、いっしょだよ! イコールで結ばれてるから」
ひかりの言葉に、その子ははっきりとした声で言い返した。
「でも、ちょっとのマヨネーズは合うけど、大量だと合わないもん」
「それは何の料理でもそうだよ。あと絶対に合わないから」
「食べたことあるの? ないのに絶対って言ったらダメだよ」
「そうだけど……ごめんなさい」
その子は腑に落ちないが一応謝った。
「食べたことないなら食べさせてあげる! 絶対に美味しいから! マヨネーズある?」
ポケットからポッチーを取り出して見せつけてきた。
「えっと……療養中なんでご遠慮します」
その子は丁寧な言い方で拒否した。
「えー美味しいのに」
ひかりはもったいないと言わんばかりのトーンで口に出した。
「それ食べたらさらに療養がいりそう」
その子はひかりに聞こえないように小さく呟いた。
「そうだ! あなたの名前は?」
「私の名前は鈴木梓。えっと……好きなお菓子でいいの?」
「うん、いいよ」
「私の好きなお菓子はマカロンかな」
「マカロン好きなの!! アタシ新宿にある大行列ができるマカロン屋さんのマカロン大好き」
「え、食べたことあるの? 買うのに1時間なんてざらにあるから買ったことない。大変だったでしょ」
「あはは、そ、そうだねー。大変だった」
ひかりは愛想笑いして、棒読みで全く感情がこもってなかった。
(本当はお母さんに家の手伝い全部するから買ってきて、ってお願いして買ってもらったなんて恥ずかしくていえない。
まあ、家事大変だったから嘘はついてないか)
「あ、そうだプリント持って来た。どこ置いとけばいい?」
ひかりは過去のことを思い出していたことで、先生からの頼まれごとを思い出した。
「机の上に置いておいて」
ひかりはカバンからプリントを取り出して机に置きにいった。
机の上には花やフルーツなんかが置いてあり、
(あ、お見舞いに何か持ってこないとだった!)
ひかりはお見舞いの品を持って来た方が良かったことに気がついた。
「そうだ、明日また来るね! そのときにそのマカロン持ってくるから一緒に食べよう!」
「いいよ、そこまでしなくて」
梓は首を横に振って遠慮した。
「いいから、いいから! 約束ね!!」
「……ありがとう」
梓は申し訳なさそうに感謝を述べた。
ひかりと梓が話しているときドアが開き、しっかりとした衣装を身に纏った、品のあるおばあちゃんが入って来た。
「あら、この方は?」
おばあちゃんはひかりを全身くまなく見てから、梓に質問した。
「こんにちは! アタシは梓のクラスメイトでプリントを届けに来ました」
「そうなの、ありがとう。ワタクシは梓の祖母なの。
梓、良かったわね。こんないい子がクラスメイトだなんて。
でも、ごめんね。これから梓は検査だから」
笑顔を浮かべているが目は笑っていない。
ひかりは一瞬眉をひそめるが素直に従った。
「あーそうなんですか。じゃあまたね、梓!
早く『治れ』ばいいね」
そう言って梓を見ると唇が小刻みに揺れて、左手で布団を力いっぱいに握っていた。
ひかりは何か言いたそうだったが、じっとこっちを見る祖母を見て、足早に帰った。
***
ひかりが帰った直後の病室では、
「あーなんでお前みたいな奴にあんな子が寄り付くかねぇ。
あのこと話してないわよね?
あれは事故なんだから。お前の言葉なんか誰も聞かない」
祖母は悍ましい顔、声で梓に詰め寄った。
梓は蛇に睨まれたカエルのように全身が震えて声出すのがやっとの状態で答えた。
「いいい、言ってません。あれは私が転んだだけです」
「よろしい」
恐怖が病室を駆け巡り支配していた。
***
その日の夜——。
ひかりは母に土下座をしていた。
「お願いします! あの店のマカロン買って来てください! また家事全部するから」
「えー、いやよ。あそこのマカロン味は美味しいけど、あれだけ並んで買うほどでもないじゃない」
母親は面倒くさそうに言った。
「それに家事やってもらったのはいいけど全部中途半端だったし。
掃除はところどころ汚れてて、ひかりが畳んだ洗濯物全部お世辞にもきれいとは言えなくて、全部私が畳み直したから」
母親は嫌そうに愚痴った。
「そこをなんとか。梓と約束したから、お願い買って!」
ひかりは再度頭を地面に擦り付けた。
母は呆れた表情を浮かべ、ひかりを見下ろした。
「ひかりが約束したんだから自分で買いに行きなさい! 自分一人でできない約束はしないことよ」
「えーー……わかったよ。買いに行くよ」
がっかりした様子で嫌々承諾した。




