第27話 ボールに恨みを
梓は気が乗らないままグラウンドに向かった。
「はあ〜」深々とため息を吐き、トボトボ歩いた。
(なんで、こんな疲れるんだろ……ひかりがいたらな)
梓はこの上なくひかりを求めた。
その願いが叶ったのか、偶然か、ひかりは病院を抜け出して、学校に向かって来ている。
梓がグラウンドに着いて座っていると、チャイムが鳴り授業が始まった。
梓は「突っかかって来たりしないよね……?」と姫乃を警戒しながらも準備体操をした。
梓が思っているよりも姫乃は大人しく授業を受けていた——今のところは。
(案外普通——先生に反抗して、親の権威で体育なんか受けずに日陰で紅茶飲んでそうと思ったんだけど……
まあ、前の体育とか印象ないってことはそういうことか)
準備体操を終えると教科担任が今回やる内容を話した。
その名もドッジボール。
基本的なルールでチームは3組対4組で戦う。
皆がコートに入る時、姫乃は敵となる梓と遥花を睨みつけた。
両チーム外野を決めて、ゲームが開始した。
ジャンプボールでどちらから先かを決める。
3組は遥花が、4組は遥花より背が高い女子が担当した。
教科担任がボールを真上に高く投げた。
4組の女子はボールが投げられるとすぐに地面を蹴って高くジャンプした。
遥花は跳ばない——ボールを観察して減速し始めた瞬間一気に音を立てて力強くジャンプした。
4組の女子が落ち始めた時、遥花は最高到達地点に達し、ジャストでボールを手のひらに収めて、自分のコートへボールを投げた。
その姿を見た梓は感銘を受けた。
(すごい! ボールが投げられた一瞬でジャンプしても届かない位置に行くことが分かって、間を置くなんて! てか、先生、性格ワルッ!)
梓が考えている間にボールが投げられて、相手がキャッチした。
キャッチした女子が投げようとすると、姫乃が話しかけた。
「あたしによこしなさい」
それは傲慢な態度で上から目線な物言いだった。
「え?」その女子が戸惑っていると、姫乃は無視してボールを取り上げた。
姫乃は梓の方にボールを向けて、
「梓、覚悟しなさい!! ひかりの仇を討つわ!!」
と宣言して、投げる構えを取った。
「え?! いや、私何にもして……」
梓がテンパりながら言っている途中で、姫乃はボールを思い切り投げた。
姫乃が投げたボールはトビウオの如く、空を切り梓の顔をめがけて飛んできた。
梓はギリギリで体を横に倒すようにして避けた。
ボールは梓の髪をかすめて、グラウンドの端まで行った。
耳を澄ませば微かにボールが飛んで行った方から驚いた声が聞こえるが、あまりに小さく聞こえた者はいなかった。
外野の女子がボールを取りに行っている間、姫乃と梓は話した。
「まだ言ってる途中だったし、ひかりが入院したのは姫乃さんが原因でしょ」
「うるさい!! 梓が悪いのよ!! あたしの下僕をよくも……」
姫乃は梓に責任転嫁をして、闘志を燃やした。
「私は悪くないよ! 姫乃さんがストーカーしたからだよ!」
梓は姫乃に煽られてて、言葉に感情がこもった。
「ストーカー、このあたしが!?——いいわ、宣戦布告として受け取ってあげるわ!!
勝負しなさい、梓——負けたら、あたしの下僕にしてあ、げ、る!!」
姫乃は殺意と呼べるような、あり得ないほどの威圧感と覚悟を放ち、梓は圧倒されそうになった。
「先生、ボールを取りに行っている時間が無駄ですので、そこのボールいただけますか?」
教科担任の横にはボール入れがあり、姫乃は静かな口調とは裏腹に、全身から激しい怒気を放っていた。
担任は「その……」と否定しそうになったが、姫乃の無言の圧に押されて、すぐに許可して姫乃にボールを渡した。
「よろしい」姫乃は担任への言葉を流すように言うと、すぐさま梓めがけてボールを投げた。
「ひかりと同じ部活なんて許さないわ」
姫乃の恨みがこもったボールはさっきよりも速く梓の元へ来るが——梓はさっきと違って構えていたこともあり、かろうじて避けられた。
「ちょっと!! なんで避けるのよ!!」
「そういうスポーツだからだよ!」
「次避けたら容赦しないから!!」
「避けないと下僕にされるし、今も容赦してないでしょ!」
梓の言葉を聞く前に、姫乃は先生に「ボールをよこしなさい」と言った。
先生は流石に……と躊躇したが、姫乃の獰猛な目に本能的に従って、姫乃にボールを渡した。
姫乃はボールを受け取ると、目を閉じて精神をボールに集中させて、
「ひかりの連絡先知ってるなんてずるいわ!!」
と恨みを込めて投げた。
姫乃は投げる瞬間、周りが遅くなっているのを感じた。
周りの音が消えて、一挙手一投足に集中できて完璧な角度で梓に向かって投げられた。
さっきよりも更に速く、周りに風を発生させながら進んでいたが——
梓は軽々と避けた——
姫乃が集中している間に梓も集中しており、梓もまたゾーンに入っていた。
梓は姫乃がどこを狙っているのか予測して、顔をスッと横に倒すと、ボールは本当にそこを通った。
そして——梓は確信した。
「姫乃さん、さっきから顔を狙ってるでしょ!?」
そう言うが、姫乃は「ふん」と鼻を鳴らして無視した。
「先生、早く」
姫乃に言われるとすぐにボールを渡した。
姫乃はさっきの感覚が残っている間にボールを投げた。
「ひかりはあたしのものよーー!!」
姫乃はすでに集中力が落ちており、投げたボールはさっきより遅く真っ直ぐに梓の元へ進んだ。
梓はさっきの速度を見ているからか、余裕を持って避けられたが、足がもつれてその場に倒れ込んだ。
姫乃はその機会を逃すはずはなく、「先生、ボール!」と言って、教科担任は言われた通り渡した。
姫乃はすぐさまボールを投げた。
「これで、梓もあたしの下僕よ!!」
梓は避けられない、終わったと直感して静かに目を閉じた……
TO BE CONTINUED




