第25話 梓、憂鬱な日の開始
早朝——。
梓は6:00に目覚めると、すぐに起き上がってカーテンを開け、洗面所に向かった。
顔を洗い、歯を磨く。
体が自然と動いてこれらをこなした。
キッチンに向かい料理の準備を始めた。
昨日のおかずを冷蔵庫から出してレンジに入れて、菜箸とボウル、弁当箱を出したり卒なく準備した。
卵焼きを焼いていると、スマホからcaco3の通知音が鳴った。
梓はこんな時間に誰だろうと思い、火を止めてスマホを手に取った。
通知バナーで内容を確認すると、梓は目を丸くして、「え?」と驚き開いた口が塞がらず、理解に苦しむと同時に心配が押し寄せた。
すぐに何があったか聞いた。
「入院!? どうしたの? 頭の検査?」
送るとひかりからすぐに返信がきた。
「なんで、頭の検査って思うの?!
普通に疲れて玄関で寝たら、救急車に運ばれただけなんだけど!!」
梓はふふっと鼻で笑ってから、気になったことを聞いた。
「ごめん。
玄関で寝ることが普通なの?!」
「違うよ。普通に寝てたってこと。
昨日姫乃ちゃんから追われて、その後はマネージャーになりきって疲れたから」
梓はひかりからの返信を見て、安堵から吐息を漏らした。
「そっか、ひかりも疲れるんだね、意外。
今日はゆっくり休んでね!
放課後お見舞いに行くから、病院教えて」
さっきまですぐに返信きたのに止まったので、どうした?と思って首を傾げて待っていると
「アタシも分かんない! 分かったら連絡する!」
ときた。
「いや、何でわかんないの」
梓は反射的にツッコミを入れた。
そのままcaco3にも同じことを聞いた。
「なんで分かんないの」
「運ばれて来たから。
それより、お見舞い来るならポッチーを密輸して来て、アタシに」
梓の頭はハテナで埋め尽くされた。
(密輸? どういうこと? 打ち間違え?——いや、ポッチーをって書いてるし合ってそう。
なら何でだろう? 別に私の時みたいにお見舞いでポッチー持って来てって送れば良いのに。
前にいつもポケットとカバンにポッチー常備してるって言ってたから、私が持って行かなくて良いはずなのに。
そして、わざわざ密輸ってことは……禁止されてる?
それならありえそうか……)
梓は自信がないけど、一応聞いてみることにした。
「密輸ってことはポッチー禁止されたの?」
「そうなの、今日食べれないと思うと手が震えるの」
「禁断症状出てるじゃん」
梓は理解すると同時に体が勝手に打っていた。
「一生のお願いだから、ポッチー持ってきて!!」
その内容を見て、梓は「え!?」と驚きの声をあげてしまった。
「そんなに?!」
「アタシ1日1箱食べないと死んじゃう」
梓はひかりのポッチーへの異常な執着を再確認すると同時にやや引いた。
「そんなに食べてるんだ……まあ、持って行くよ」
「やったー!」
その一言で、梓の頭の中にひかりが喜んでる姿が容易に浮かんだ。
「よし! 準備しよう!」
梓は意気込み、弁当作りの続きを始めた。
***
梓は余裕を持って学校に着いた。
階段を上がり教室の前に行くと、姫乃が腕を組み、仁王立ちしていた。
姫乃は今ごろひかりが入院して病院で朝食を食べているなんて見当もついていなかった。
(早く来なさいよね。あたしがこんなに早くから待っているのに。
昨日の借りは絶対償わせないといけないわね!
ひかりにはメイド服を着せてこき使いましょう! これしかないわ!
ひかりのメイド姿……ふふふふふ!)
姫乃はひかりのメイド姿を想像してにやけた。
そんなことを考えてる姫乃を梓は遠くから眺めていた。
(絶対ひかりを待ってるんだろうな。
ひかりが入院したこと教えた方がいいのかな?
まあ、ひかりの友達だし教えとくか)
梓は本当は関わりたくはないが優しさで教えることにした。
姫乃の側まで近づいて、
「あのー、姫乃さん……」
「何かしら?」
「今日はひかり学校に来ないよ」
「は?」姫乃はよく分かっていない様子だった。
「入院したから来れないって。
でも、今日だけだからそんな心配しなくても……」
梓が言い終える前に姫乃は超パニックになった。
「ど、ど、どういうこと、ひかりが入院!?
えっと、入院ってあれよね、たしか、液体とかを吸い込むことよね」
姫乃はバカになった。
「それは吸引」
梓が呆れた様子で教えると、姫乃は聞こえて理解したのか、自分を否定した。
「そうよ、あたし、バカだわ。入院ってたしか、松下村塾を作った人よ」
「違う、それは松陰」
また呆れた様子で梓が言うと、
「分かってるわよ。熱帯にある密林でしょ」
少し怒った声で言った。
「それは熱帯雨林! 入院と全然違う!」
あまりのバカさ加減に梓のツッコミは熱がこもった。
「姫乃さん、しっかりして!」
と言いながら、梓は姫乃の肩を揺さぶった。
姫乃はハッ、となって正常に戻った。
「そういうことだったのね」
急に姫乃が言ったことに、梓は「うん?」と身構えた。
「ひかりは主人に死ぬ姿を見せないために、昨日あたしに会わなかったのね!
あたし、感動したわ! ひかりがそんな素晴らしい下僕だったなんて」
姫乃は涙をハンカチで拭く仕草をした。
「いや、そんな猫みたいなことしないから。ひかりは検査入院とかで1日だけだから」
梓は大袈裟だな、と思いながらひかりの現状を伝えた。
「あら、なんだ1日だけなのね——だったら何で昨日あたしから逃げたのよ!!」
姫乃はスッと普通に戻ったと思ったら、昨日のことで梓に詰め寄った。
梓は動じずに、
「それは、姫乃さんに疲れたからだよ。一日中ひかりをつけて……そのせいでひかりが入院したんだよ」
姫乃は自分のことを侮辱されたと思い、怒り心頭に発した。
「梓、どういうことよ!! あたしのせいだって? あたしはひかりに喜ばれると思って会っただけよ!!
みんなあたしと一日中いたいと思ってるのよ!!」
「みんなじゃないよ。姫乃さんの周りの人はそうかも知れないけど、ひかりは違う。
ひかりが喜ぶのは適度に会うことだよ!
一日中じゃなくて」
梓はひかりのことを考えて、ひかりの代わりに伝えた。
「そんなわけないじゃない!! ひかりに確かめるわ!!」
姫乃は梓の言うことを聞かず、ひかりに会いに行こうとした。
梓は姫乃の前に立ちふさがった。
「学校はどうするの?」
「そんなの関係ないじゃない!! 朝からお見舞いに行ってあげるわ!!」
姫乃は強引に行こうとした。
「だから、それが問題なの! ひかりは朝からお見舞い来られても疲れるだけだから。
放課後に1時間くらい会えばいいから」
「うるさいわね!! 行くと言ったら行くの!!」
姫乃は歩みを止めない。
梓は姫乃を止めさせる方法を考える。
(どうしよう……ひかりみたいに姫乃さん単純じゃないからな。
……いや、案外単純かも。プライドが高いから舐めたらいいのか!)
梓は姫乃にこう言った。
「主人が朝から下僕のお見舞いに行くんだ。
本当に会いたいのって姫乃さんなんじゃない?」
それを聞くと姫乃は歩みを止めた。
「はあーーーー!!!!
そ、そ、そんなわけないじゃない!!
何言ってるのよ、梓!!」
姫乃の顔は照れた様子で少し顔が赤くなった。
「じゃあ、放課後に行けば良いよね?
主人がわざわざ学校を抜け出してまで行く必要がないし、下僕は主人が来ないことに苦しめば良くない?」
梓は「行ける!」と思い追撃した。
「そ、そうよ。梓の言う通りだわ!
ひかりは苦しめば良いのよ!
昨日のお返しね」
姫乃は行きたいがプライドが邪魔をして諦めた。
「そうそう」
梓は頷くと、姫乃は居心地が悪くなり自分の教室に戻ることにした。
「あたしは戻るわ」
そう言って、立ち去る姫乃に梓が後ろから声をかけた。
「あと、ひかりはいつも遅刻ギリギリに来るから朝早くから待たなくていいよ」
姫乃は振り返ることなく教室に入った。
梓は緊張状態から解放されて、全身が軽くなった。
「ふぅー、これで一件落着か……」
***
「なんで……!?」
梓はまた体が重く、気分も憂鬱になった。
梓が体験したこととは……
TO BE CONTINUED




