第23話 親友のお葬式③
ひかりは缶箱を持って、また空中を全力疾走で来た道を戻り、病院に着いた。
透明のまま病院内のトイレに行き、解除しておじいちゃんの所へ向かった。
「おじいちゃん!」
そう言いながら、ひかりはおじいちゃんの側に行った。
おじいちゃんは「なんだ?」と思い声の方を見て、ひかりだと分かると「おお!」と驚いた。
「お嬢ちゃん!早かったな!」
と言って、おじいちゃんは、もう葬式に向かったと思い込んでいた。
「おじいちゃん、見つけたは良いんだけど——アタシ、葬式の場所聞いてないから持って行こうにも行けなかった」
「おお、そうじゃったな。先に言っておけば良かったな」
「いやいや、アタシが聞いてなかったのが悪いし」
「いや、ワシが早く言ってれば無駄足を踏まなかったんじゃ」
「ほんと気にしなくて良いから!場所を教えて!」
「だって……葬式会場、高校から徒歩5分にある、しにしに葬儀屋じゃからな」
「…………」
ひかりは言葉が出なかった。
まさか、本当に無駄足を踏んでいるとは思いもよらなかったから。
だからといって、おじいちゃんに何か言うわけでもない。
なぜなら、先に場所を聞かなかった自分が悪いのだから。
「おーい、どうしたんじゃ?」
おじいちゃんの呼びかけに、ひかりはハッと我に返った。
「ううん、なんでもないよ。——それより、名前も教えて」
「ワシは神田歳三じゃ」
「おじいちゃんの名前じゃなくて、親友の名前!」
「あいつの名前は町田龍馬じゃ」
「歳三おじいちゃん、ありがとう!アタシは天魔野ひかり!行ってくるよ!」
ひかりは元気良く歳三に言った。
「何度もすまんのう。いってらっしゃい!ひかりちゃん」
歳三が言うと、ひかりは意気揚々と病室を出た。
「あ!」と廊下で言うと、すぐにひかりは病室に戻ってきた。
「ねぇ、歳三おじいちゃん、スマホ持ってる?」
「ああ、持っとるぞ」
「じゃあ、caco3はやってる?」
「よく分からんがやっておるぞ」
「良かった!じゃあ、交換しよう!」
「いいぞ。やってくれるか?」
歳三はスマホを取り出して、ひかりに渡した。
ひかりは慣れた手つきで、連絡先を交換した。
「はい——ありがとう!」
ひかりは歳三にスマホを返した。
「それで、どうしたんじゃ?」
おじいちゃんは眉をひそめた。
「歳三おじいちゃんにも葬式に参加させてあげようと思って!現代の魔法で!」
「?」歳三は全く見当がついておらず、首を傾げた。
「後から分かるから!スマホは離さないでね!
それじゃあ行ってきます!」
「ああ、よく分からんが、いってらっしゃい!」
ひかりは今度こそ葬式会場に向かった。
またトイレに入り『透明』と言って、体を透明にして、病院の入り口から出た。
病院を出るや否や『浮遊』と言って、浮いて上空を全力疾走した。
疲れたからひかりはさっきより遅いがそれでも間に合わせるように全力を注いだ。
***
その頃、葬式会場では粛々と龍馬の葬儀が行われていた。
お坊さんが読経をしている間に、皆が焼香をあげていった。
「ちょっと待ったーー!!」
突然声が外から聞こえてくると、ドアが開いて、缶箱を持ったひかりが入って来た。
その場にいる人がひかりを忌み嫌う目で見てきた。
ひかりはものともせずに、龍馬が入った棺桶に近づいて行った。
葬儀屋のスタッフが
「ちょっと君、不謹慎だろ。何しに来たんだ」
と怒りながら言った。
「龍馬さんにお届けに来ました」
ひかりは悪びれる様子もなく言うと、スマホで歳三にビデオ通話をかけた。
すぐに歳三は出るが画面は真っ暗だった。
ひかりはそっと
「歳三おじいちゃん、画面見て。これビデオ通話だから」
歳三は言われたように画面を見たのか、顔が見えた。
「おお、すごいな!ひかりちゃんが見える!」
歳三はやや興奮していた。
「歳三おじいちゃんも龍馬さんの葬儀に参加したいと思ったから、こうした!」
「そうじゃったか。ありがとう!」
「うん!歳三おじいちゃん見える?」
そう言ってひかりは外カメラに切り替えて、龍馬の顔を見せた。
龍馬は歳三より老けた様子で痩せ細って、頭がハゲていた。
「龍馬、お前——やっぱり俺の言う通りだったな。
体が弱くて俺より先に死んじまったな。
それにハゲたしな」
歳三は昔のような口調で話していた。
どこかお遠い目をして、
「でも、お前の言葉も正しかった。
自分の体に胡座をかいて、酒を浴びるように飲んで……今はこのザマだ。
親友の葬式にも出れやしない」
と言った。
「お前はいつもめんどくさかったな。
俺が何かするたびに、もっとちゃんと考えろだの、失敗したらどうするだの、口うるさくおっかさんのように言ってきたな。
でも……」
歳三が続けて愚痴っていると、突然ポロンと鳴って通話が切れた。
「え?!なんで?!」ひかりは驚きで声を上げてしまった。
慌てて歳三にかけ直すが一向に出る気配がない。
***
一方で歳三はというと、こちらもパニックを起こしていた。
「はあ、なんで急に真っ暗になったんじゃ?!
おーい、ひかりちゃん。
ああ、もう分からん」
歳三はスマホを操作してみるが何にも起きなかった。
歳三は若いもんに聞こうと、思いナースコールを押した。
すると、すぐに看護師が来た。
「どうしました?」
慌てた様子で聞いた。
「それが、ビデオ通話してたんじゃが切れてしまって、どうすれば良いんじゃ?」
それを聞いた看護師は説教のスイッチが入った。
「神田さん、そんなことでナースコールを押さないでください。
私達は暇じゃないんです。もう、行きますね」
看護師は病室を後にしようとした。
「待ってくれ、ワシだって押したくはなかったんじゃ。
親友との最後の別れじゃから、お願いじゃ」
歳三は看護師を止めて、必死に頼み込んだ。
「分かりました。特別ですよ。スマホ見ますね」
その必死さに看護師は負けて、歳三のスマホをいじった。
「あー、充電がないですね。だからです。充電器を挿してたらすぐに通話できるようになりますよ」
「おお、良かった。充電器は確か引き出しの中に入っておる」
看護師はスマホに充電器を挿してあげた。
***
ひかりは何も知らず、ずっと歳三にかけていた。
何度も何度もやっていると、ようやく繋がった。
「歳三おじいちゃん!どうしたの?」
「いやー、充電が無くなったみたいじゃ。すまん」
それを聞いたひかりはホッとした。
「何もなくて良かった!——じゃあ、歳三おじいちゃん、続き続き」
ひかりは外カメラに切り替えた。
「なんじゃったかのう?
……そうだ、お前はいつもめんどくさかったな。
俺が何かするたびに……」
「歳三おじいちゃん、そこまで言ったよ。『でも』の続きから言ってない」
ひかりは歳三の話を止めて教えた。
「そうだったか。
でも、お前がいたからここまで来れた。
俺が夢があると言って高校を辞めようとした時、お前は絶対に行っとけと言って止めてくれた。
おかげで俺はこうして楽しく生きれた。
お前に何度も助けてもらっているのにこんなことしか出来なかったよ。
ひかりちゃん、渡してやってくれ」
ひかりは缶箱を開けた。
そこには、一つのビデオテープが入っていた。
それを龍馬の棺桶に入れた。
「じゃあな、少しの間お別れだな。
死後の世界で会ったときはまた酒を交わそう!」
歳三は悲しさはなく、あるのは少しの喪失感ともう一度会ったときの期待だった。
ひかりは笑顔で2人の少しの別れを見届けた。




