第21話 親友のお葬式①
今日のひかりは疲れでいっぱいだった。
朝から放課後まで姫乃に追われ、姫乃から解放されたら今度は、別人として女子バスケ部のマネージャーをやり限界だった。
家に着くまでの間、
(まだ着かないの、家遠い。疲れた、寝たい。
でも、今日、一条燦がライブやるって言ってたから寝れないな)
と思いながら、へろへろな状態で歩いた。
なんとか家に着き、ドア開けて入った途端に気が緩み、「ただいま……」と言いながら、ひかりは玄関に倒れるように眠りに入った。
「あら、遅かったね。おかえり」
そう言いながら、玄関に向かった母親はひかりが倒れているのに気がついた。
「ちょっと、ひかり!大丈夫?!」
今にも目が飛び出そうなほど驚いた。
「こういう時は……救急車よ。救急車ーー!!」
母親は焦りからか、自分の大声で救急車を呼ぼうとしていた。
自分の頬を叩いて、「冷静、冷静」と唱えて、スマホを取りに行った。
その頃、ひかりは夢を見ていた。
***
教室の中。
高校とは何もかも違う。
雰囲気が暗く冷たい。
全部の机や椅子が低く、ひかり自身の目線も低い。
そして、教室の後ろの荷物置き場には多種多様なランドセルが置かれている。
ひかりが一人でいると、ツインテールをした少女を中心に3人の少女達が近づいて話しかけて来た。
「ひかり、うちらと遊んだゲーム覚えてる?」
「覚えてるよね?」
「私の家で集まってやったよね?」
3人が口々にひかりに質問した。
「もちろんだよ。ね、集まってやったの覚えてるよ」
ひかりはどこか不自然な響きで答えた。
3人はお互いに目配せすると、ギャハハと豪快にひかりを嘲笑した。
「え?」ひかりが困っていると、ツインテールの少女が、
「うちらゲームしないじゃん、何嘘ついてんの」
そう冷たく言い放った。
ひかりの心の中で何かが崩れる音がした。
ひかりは今にも泣きそうなほど苦しく、助けを心の中で何度も何度も呼んだ。
「ほんと変わったね」
そう言い残し、3人は笑いながら教室を出て行った。
(助けて、助けて、助けて)
***
ひかりはガバッと起き上がった。
脂汗が全身から出て、動悸が激しくなっていた。
「なんで、こんな夢見るの…………」
ひかりは今何時か確認するためにスマホを探すが暗くてよく見えず、手探りで探した。
ひかりはすぐに違和感を覚えた。
いつもならベッドの左側が壁なのに無かった。
反対向きに寝たかと思い右側に手を伸ばしてみるが壁は無かった。
ひかりは眉間に皺を寄せて、昨日のことを思い出そうとした。
(アタシ確か……玄関に入って……寝たような。
いつのまにベッドに?)
すると、横から「ひかり?」とか細い声が聞こえてきた。
ひかりはその方向をじっと見つめていると、徐々に暗闇に目が慣れて、人影がはっきり分かった。
「もしかして、お母さん?」
その問いかけに人影はビクッと反応して、ひかりに近づき、温かい抱擁をしてきた。
「良かった!玄関行ったらひかりが倒れてたから心配したのよ」
母親の声だった。
その声は今にも泣き出しそうに震えていた。
「そうだったんだ。それでここどこ?」
「病院よ。最初ひかりを見た時、死んだのかと思ったんだから」
「大袈裟だよ。救急車呼ばなくても良かったのに。アタシこんなに元気なんだから!」
ひかりは胸を張って、元気だとアピールした。
パチン、といきなり病室に響くとパッと病室が明るくなった。
次々とカーテンを開けると音がして、「おはようございます」と聞こえた。
そして、ひかりの所にも来てカーテンを開けた。
「あら、天魔野さん起きたんですね。すぐに先生連れて来ます」
と言って去った。
しばらくすると、白衣を身に纏った中年の男性がやって来た。
「おはようございます。気分はどうですか?」
「見ての通り、元気です!」
ひかりはいつもと同じくらい元気だった。
「そうですね……念の為に今日は入院していただきましょうか。
——君は疲労困憊で運ばれて来た訳だから元気かもしれませんが休んでください」
医師はひかりに淡々と説明した。
「分かりました!」
「ありがとうございます!」
「お大事に」
と言い出て行った。
「良かった、何ともなくて。ひかりに重い病気だったら、山吹色のまんじゅう——賄賂、を用意して凄腕の悪蘭方医——闇医者、に渡すところだったよ」
「だから大袈裟だって。あとなんでたまに時代劇風に言うの?」
ひかりは何度も聞いたことがある口ぶりで言った。
「何ともないならいいけど、お菓子は食べたらだめだから」
「なんでなんでなんでなんで?」
ひかりは取り乱した。
「当たり前でしょ。元気でも入院患者なんだから」
「いやだいやだ、ポッチー食べないと死んじゃう」
ひかりは駄々っ子のようにベッドを叩きながら言った。
母親はなんの感情も浮かばなかった。
「ひかりの方が大袈裟でしょ」
とだけ言った。
「元気そうだし、お母さん一旦帰るから。着替えとか必要な物持ってまた来るから。大人しくしときなさい」
「いやだいやだ、ポッチーを、ポッチーをアタシに——」
母親はひかりを無視して帰った。
ひかりは暇になった。
朝食まで時間があるから何しようか考えていると、今日は学校に行けないことを梓に伝えていないことを思い出した。
SNSアプリcaco3——日本でメジャーなアプリで無料で友達や家族とやりとりができる。
caco3で梓に連絡を入れた。
「梓、今日入院することになったから学校行けない!!OSBは休み」
と送ると秒で返信が来た。
「入院!?どうしたの?頭の検査?」
ひかりは返信の速さに驚くが内容を見て、むすっとした。
「なんで、頭の検査って思うの?!
普通に疲れて玄関で寝たら、救急車に運ばれただけなんだけど!!」
「ごめん。
玄関で寝ることが普通なの?!」
「違うよ。普通に寝てたってこと。
昨日姫乃ちゃんから追われて、その後はマネージャーになりきって疲れたから」
「そっか、ひかりも疲れるんだね、意外。
今日はゆっくり休んでね!
放課後お見舞いに行くから、病院教えて」
ひかりのスマホを打つ手が止まった。
(そういえば、ここどこ?運ばれてきたから自分じゃ分かんない——まあ、いいか!)
ひかりは再びスマホを打ちだした。
「アタシも分かんない!分かったら連絡する!」
「なんで分かんないの」
「運ばれて来たから。
それより、お見舞い来るならポッチーを密輸して来て、アタシに」
梓は今まで秒で返信が来たのに止まった。
そして、数分後に返信が来た。
「密輸ってことはポッチー禁止されたの?」
「そうなの、今日食べれないと思うと手が震えるの」
「禁断症状出てるじゃん」
「一生のお願いだから、ポッチー持ってきて!!」
「そんなに?!」
「アタシ1日1箱食べないと死んじゃう」
「そんなに食べてるんだ……まあ、持って行くよ」
「やったー!」
ひかりは現実でも「やったー!」と声を出して喜んだ。
さっきまでの落ち込んだ気持ちから一変してルンルンな気分になった。
朝食まで動画を見て過ごして、入院患者の食堂で食事をした。
部屋に戻る途中の病室でドアが開いていて、ちらっとだけ目をやった。
おじいちゃんが暴れて、看護師が止めていた。
ひかりは気になって、足を止めて見る。
「ワシは行かなければならんのじゃ」
「無理なんです。神田さんは残念ですけど外出の許可が降りないんです」
「いやじゃいやじゃ、ワシは奴と約束したんじゃ」
おじいちゃんは駄々っ子のように言った。
ひかりは困っている人を放っておけないので病室に入って、
「なら、アタシが代わりに約束果たしますよ!」
とおじいちゃんに言った。
看護師はひかりの方を振り返りながら、
「そうですよ、神田さんの約束は他の人に任せ……」
と言い、ひかりの入院服を着た姿を見た。
「いや!君も外出できないよ!」
「え?なんでですか?アタシこんな元気なんですよ」
ひかりは看護師に元気アピールをしたが、
「そういう問題じゃないので、自分の病室戻ってください」
と看護師は一蹴した。
「なら、ワシが行かんと」
「無理なんですよ」
「だから、アタシが代わりに」
「いや、君も許可がいるんですよ」
「ワシが行く」
「ですから……」
「アタシが行く」
「だから……」
「ワシが」
「アタシが」
「ワシが」
「アタシが」
2人から言葉を浴びせ続けられ、看護師は限界に達した。
「うるせぇーんだよ。こちとら、夜勤で疲れてんだよ。黙って入院しろーー!!」
その気迫に押されて2人は大人しくなった。
「す、すみません」
「ごめんなさい」
「ほら、ベッドに戻って!!」
おじいちゃんは大人しく従い、ベッドに横たわった。
その場を動かないひかりを看護師はギロっと睨みつけた。
「あはは、」と愛想笑いしてひかりは病室を出た。
自分の病室に戻るがおじいちゃんの約束が気になって、忍び足でおじいちゃんの病室に行った。
ひかりが自分の病室に戻っている間に、看護師はどこかへ行って、いなかった。
「おじいちゃん、さっきはどうしたの?」
おじいちゃんはひかりを見て、頼み込んで来た。
「お願いじゃ、親友との約束をワシの代わりに果たしてくれ!
お嬢ちゃんのさっきの行動で頼れると思ったんじゃ」
「もちろんです!それで約束って何?」
「今日親友の葬式が行われるんじゃが、そこである物を持って行って欲しいんじゃ」
「ある物?」ひかりが首を傾げて質問した。
「それは地面に埋めてあるんじゃ。
当時建設中だった高校に忍び込んで埋めたんじゃ。
まあ、若気のいたりってやつじゃ」
「高校の名前って……もしかして……」
「確か、醒頼だったかのお」
「アタシの学校じゃーーん!!」




