第20話 ミッション『姫乃の魔の手から逃れろ』ファイナル!
3人が目にしたものとは、赤外線レーザーが行く手を遮るかのように縦横無尽に引かれている光景だった。
その奥には赤外線レーザーで表現された五芒星がある。
「なんで、学校が金庫の前のセキュリティみたいになってるの?!現実離れしすぎでしょ!」
「なんなのこれ?」
遥花が2人に問いかけた。
ひかりは思い当たる節を繋ぎ合わせて、結論を出した。
「姫乃ちゃんは超お金持ちだから、アタシを通らせないために設置したんだと思う」
「姫乃さんならやりそうだけど……」
梓はひかりの言ったことに賛成した。
「それで、ひかりどうするの?」
「ふふ、アタシは運動神経がいいからね、こんなの簡単に突破するよ!スパイ映画のようにね!」
ひかりはドヤ顔で鼻を鳴らした。
絶対に当たらないという根拠なき確信があった。
「ひかりならいけるよ!頑張れ!」
遥花はその言葉を信じて応援した。
「まあ、触れたら何があるか分からないから気をつけて」
「OK!やってみるよ!『変身』」
ひかりは魔法を使い、全身を光が包み込み、気がつくと、黒く体に完璧にフィットしたシャープスーツを身に纏っていた。
その姿はヒーロー映画の女スパイに酷似していた。
「よし!やるぞ!」
ひかりは意気込んで、レーザーに近づいた。
ひかりは「よっ、ほっ」など、軽い調子でレーザーを避けて進む。
跨いだり、匍匐前進してレーザーの下を進む。
決して、バク転したり派手なアクションはできない。
だから映画のスパイのようにはカッコよくなく、とてもシュールであった。
「なんか地味」
「映画のようにはいかないですね。こんな映画専用のセキュリティみたいなのに」
遥花と梓はつい本音をポロッと言った。
ひかり本人は至って真面目に避けている。
レーザーを避けて避けてついに最後の難関五芒星の前に来た。
「これで最後!」とひかりは振り返って2人を見た。
2人は退屈そうに眺めていたが、ひかりが振り返ったことで、瞬時に笑みを浮かべた。
「おー最後だ!頑張れ!」
「ひかり、頑張れ」
遥花は応援をして、梓はそれに続いて応援した。
2人の声援にひかりは勇気をもらい、一呼吸置いて、前屈みになってからジャンプした。
ひかりは火の輪くぐりするライオンのように、五芒星の中心を潜り抜けた。
「やったー!!2人とも見た?!すごいでしょ!」
ひかりは興奮気味で、2人に満面の笑みで自慢した。
「ひかり、やばいよ!すごすぎ!」
遥花はひかりの言葉に答えるように褒めた。
「私達はどうしよう?2階に上がって先の階段で降りてくる?」
梓は触れることなく、次の行動を考えた。
「そうだね!じゃあ、アタシ見つからないように階段で待ってる!」
ひかりがそう言って先に進もうとすると、近くの教室のドアが開いて、ぽっちゃりな男子生徒が出て来た。
「すみません、今科学部の実験で赤外線レーザーを反射させて遊んでたんです。全然通ってもらって構わないんで、安全ですから」
その男子生徒が会釈しながら、申し訳なさそうに言ってきた。
「えっ?普通に通れるの?!アタシが頑張った意味ないじゃーーーん」
ひかりは大声で嘆いた。
遥花と梓は普通に通ってひかりの側に来た。
「意味なかったね」
梓は冷たく言った。
「あはは、まあ行こう!」
遥花が空気を変えるためにも、先へ進むよう催促した。
「うん……『変身』」
落ち込みながら、ひかりは制服姿に戻った。
その男子生徒がひかり達が行く方向を確認すると、ドアを閉めて教室で誰かに電話をかけた。
すると、すぐに相手が電話に応えた。
「もしもし」電話の相手は男の声だった。
「もしもし、見つかりました。一階にいました。現在食堂方面に向かっておりますと姫乃様にお伝えください」
男子生徒はひかりの居場所を伝えた。
「分かりました、ご協力感謝します」
とだけ言って電話を切った。
現在、姫乃は自分たちの教室がある4階を探していた。
「どこ行ったのよ!見つけたらただじゃおかないわ。」
「24時間、下僕として側にいさせてあげましょう。——いや、違うわこれはご褒美じゃない。あたしの側にいられるなんて光栄なことだわ。
なら、鞄持ちとして家まで持ってもらうのは?——それは、あたしと下校デートじゃない。ご褒美すぎるわ。
何にしましょう?」
姫乃は独り言で自問自答しながら歩いていた。
急に携帯のバイブがブーッブーッ、と鳴り、姫乃がスマホを確認すると、下僕Aからメールが来ていた。
内容にはさっきの男子生徒が言ったひかりの居場所が書かれていた。
姫乃は内容を確認するやいなや、地面を蹴り階段に向かっていった。
体育館へ続く道の手前には階段があり、姫乃はバタバタ、と音を立てながら降りている。
3人はマカロン移動で廊下を進んで、その階段の前に着いた。
3人の耳に、階段からバタバタと降りて来る音が入ってきた。
「もしかして姫乃かも」
「え、うそ。どうしよう?やばいやばい」
遥花の言葉にひかりはひどく焦った。
「ひかり、音的にすぐ降りて来るよ」
「えっとこういう時は、分かんない。とりあえず『浮遊』」
梓にも言われたことでさらに焦り、透明を使うのを忘れて宙に浮き、天井に背中を張り付けた。
2人の前に姫乃が階段から現れた。
「ついに見つけたわ、ひかり。覚悟しなさい!」
姫乃は梓が見えたことで言ったが、ひかりの姿が見えないのが分かって、ふんっ、と鼻を鳴らした。
「また、隠れたのかしら?どうせ近くにいるんでしょ。出てきなさい、3人で移動していることは分かっているのよ」
姫乃は周りに聞こえる声量で言った。
ひかりは最初は梓の前にいたが、姫乃が降りて来ると静かに姫乃の真上に移動した。
その影響で、ポケットからポッチーが落ちそうになった。
『浮遊』で浮かせたのはひかり自身と身につけている物だけであって、ポケットに入っているのは対象外だった。
「ひかりなら帰ったよ、姫乃さん。私達が靴箱まで送ったから」
梓は姫乃に嘘を吐いた。
姫乃はじっと梓の目を見ている。
「嘘ってのは、人の目を見れば分かるのよ。
梓、あなた…………嘘ついていないようね」
梓はうん、と頷き、目を輝かせて、
「姫乃さんには悪いけどひかりは私の友達だから会わせられない」
と言った。
姫乃は不服そうな顔になり、
「まあ、いいわ。明日になれば会えるもの」
と投げやりに言った。
ひかりは梓が友達と言ってくれたことに、嬉しくなり、ポッチーが落ちるのに気がつかず、ポッチーの一本が箱から飛び出して姫乃の後ろにポキッと音を立てて落ちた。
その音に気がつき姫乃は後ろを振り返って、下を見た。
ポッチーにトラウマができた姫乃は見ただけで恐怖し、取り乱した。
「ぽ、ぽ、ぽ……ポッチー!?——いやーー!」
そう言って、走り去った。
ひかりは「解除!」と言って、天井から地面に降りた。
その時にヒーロー着地——右膝をついて、左足を横に伸ばして右手を地面につけるポーズ——をした。
「いや、かっこつけなくていいから」
「いいじゃん、少しくらいは」
「ダサいから。ひかりのせいでバレるところだったのにかっこつけるのはほんとダサい」
「それは……」
「バレてないんだし、いいじゃん!それよりも、姫乃から逃れたことだし、走って体育館行こう!」
ひかりと梓がやりとりしているところに遥花が割って入った。
「そうだね。行こう!」
ひかりは無かったことにして、元気良く走り出した。
3人が体育館の前に着いた。
遥花が先に入り、「連れてきました」と体育館全体に響くように言った。
2人は体育館シューズを持ってきてないことに気づいて、ひかりが『変身』と言って、魔法で2人に体育館シューズを履かせた。
2人が入ると体育館にいる人の中で一番背が高い人が笑顔で近づいて来た。
「君達がマネージャーやってくれるの?」
「はい!」ひかりは元気良く返事をした。
「ありがとう〜!!まじ助かる〜!!うちは部長の大内凛、よろしくね〜!」
「アタシは天魔野ひかりです!凛先輩よろしくお願いします!」
「私は鈴木梓です。よろしくお願いします」
3人がそれぞれ自己紹介した。
「やるにあたって、ジャージに着替えて来て欲しいのと、ついでに部室にあるボトルとスポーツ飲料の粉末があるから作って持って来て欲しい〜!」
「分かりました!」
「早速で悪いけどごめん〜!部室棟の階段上がって3個目のドアが部室だから〜!」
「いいんですよ!じゃあ、行こう、梓!」
「うん」
ひかりと梓は女子バスケの部室に向かった。
一方、姫乃は無我夢中で走って、気がついたら校門を出ていた。
姫乃ははあはあ、と息を切らしながら、
「なんで、あんな、とこ、に、ポッチーなんか、あるのよ」
と独り言を言った。
しばらく、息を整えることに集中した後、「うん?」と眉間に深い皺を寄せる。
「なんで、あんなとこにポッチーが?」
姫乃は目を瞑り、思考に専念して、
(普通に考えれば、誰かが落とした。でも、後ろには誰もいなかったわ。
ってことは上にいたってことになるわ。
それは誰か?——ポッチーを持っていて、尚且つ食べたりする音が聞こえなかったことからポケットに入れている人物、1人しかいないわ。——ひかり。
梓は相当嘘をつくのが上手いわ。
でどこに行ったのかしら?——その鍵になるのは、梓の隣にいた女。
確か、制服じゃなくて半袖で短パンだったわ。
下僕達に協力をさせて、探していけばいいか。
とりあえず、体育館に行ってみましょう)
答えを出して、体育館に向かう。
女子バスケ部の部室は、脱いだスカートがそのまま放置してあり、物は乱雑に散らかっていた。
その中にひかりと梓は入った。
「す、すごい散らかりよう……凛先輩、頼もしそうなのにこういうのは許すんだ……」
ひかりはその光景に少し引いた。
「はあー」と梓は深いため息をつき、
「まあ、そんなもんだよ」
と言った。
「それより、ボトル探そう」
「はーい」
2人はボトルとスポーツ飲料粉末を探し始めた。
ひかりが探索していると写真が目に留まった。
凛がユニフォーム姿で真ん中に座って、端っこに今日と同じ服装の遥花が立っていた。
今のメンバーで撮った写真だと分かった。
そして、2人だけ文字が書かれた同じTシャツを着ていた。
直感でマネージャーなのかと思った。
ひかりが写真を眺めていると、「あった!」と梓の声が聞こえた。
「ナイス、梓!じゃあ、今度はアタシの番だね!『変身』」
部室がまばゆい光に包まれて、2人はジャージ姿になった。
2人はドリンクを作り、体育館に向かった。
体育館に入ると、今日何回も見た後ろ姿があった。
姫乃は凛と言い争っている。
「ひかりを出せばそれでいいと言っているのよ」
「無理、今はうちらがひかりちゃんを必要としているから今日は帰って」
「ひかりはあたしの下僕よ。こんな汗臭い連中の下なんて可哀想だと思わないのかしら?」
「マネージャーは下なんかじゃないよ!!マネージャーはなくてはならない存在だからひかりちゃんと梓ちゃんに頼んでるのよ」
凛はマネージャーを下呼ばわりした姫乃を強く睨んだ。
ひかりと梓はこそこそ話し合う。
「なんで姫乃ちゃんがここに?」
「分からない。——ひかりは逃げた方がいいよ」
「分かった」
ひかりが体育館に背を向けて移動しようとすると、姫乃は声が聞こえたのか振り向き、声をかけてきた。
「梓——ってことはそっちはひかりね!振り向きなさい」
姫乃はそう言って、ひかりの方に歩を進める。
ひかりは梓に相談することができない。
自分でこの状況を乗り切るしかない。
時間が無い、刻一刻と姫乃は近づいて来る。
(どうしようどうしよう……こういう時は——顔変えて他人のフリすればいいのか)
姫乃はひかりの肩に手を置き、
「振り向きなさい!」
と命令口調で言った。
ひかりは下を向いたまま振り向いて一拍間を置いて、顔を上げた。
ひかりの顔は……
渾身の変顔をしていた!!!!
周りは理解ができず、思考停止してその場の空気は凍りついた。
「何やってるの、ひかり?」
姫乃がなんとか口を開いて出した言葉だった。
(バレてるの?!バレないようにおもいっきり変顔したのに?!えっと、なら……)
「『幻想』アタシをさっき見たマネージャーにして」
ひかりは焦りの中で最善策を思いつき実行した。
さっきまで変顔したひかりだったのが、写真で見た、鼻筋が通った女子の顔になった。
「え?」と姫乃は驚きの声を上げて、見間違えと思って目を擦り、もう一度見るがやっぱりひかりとは別人だった。
「どういうことよ。明らかにひかりだったじゃない」
「アタ……ひかりなら教室に戻るって言ってたよ」
姫乃の問いに対して、ひかりは声を高くして答えた。
「本当かしら……?」
姫乃はひかりの顔をじっくり見るがやっぱりひかりではない。
怪しいと思いながらも、ひかりが言ったことを信じるしかなかった。
「そう……教室だったかしら。ひかり、待ってなさい」
姫乃は教室に向かうが、頻繁に後ろを振り返ってひかりを見た。
姫乃から逃れたひかりは一件落着だと思って浮かれていたが、凛を先頭に女子バスケ部員の遥花を除いた全員がひかりの側に来た。
「のんちゃん、風邪で休んでたのに大丈夫〜?」
凛が質問すると、他の部員も質問して来た。
「『テレパシー』梓、遥花、助けて〜〜!!!!」
ひかりはのんになりきって部活のマネージャーを終えた。
「いや、最初から『幻想』使えば済んだじゃん」
ちゃんちゃん。




