第17話 ひかりのストーカー?②
ひかりはピンときてなかった。
「黒川グループってあの?!銀行とか商事やってる大企業の?」
梓は事実確認のために質問した。
「それ以外になにがあるのかしら?」
姫乃は当然の如く答えた。
「黒川グループってなんなの?」
ひかりは気になって、たまらず質問した。
「黒川グループは日本の事業にほとんど関わっている大企業。約30兆円稼いで日本企業の売り上げランキングで2位なんだよ」
梓がひかりに教えている間、姫乃は鼻高々に腕を組んでいた。
「30兆?!そんな稼いでるんだ。ポッチーで家が建てられる」
「数えきれないほど建てられるとは思うけど、なんで?」
「アタシの夢だからね!——待って、梓、今数えきれないほどって言った?!」
梓はうん、と頷くと、ひかりは目を大きく開き、開いた口が塞がらず、思考を処理する力が完全に停止し、驚きの極みにあった。
梓がひかりの目の前で手を振っても反応しない。
「おーい、ひかり」
と声をかけるがそれも反応がない。
梓は前にもあったな、と思い、
「この学校に一条燦が来てるって!」
と実際にいるかのように言った。
すると、止まっていた思考が再び動き出す。
ひかりの思考は瞬間瞬間でとてつもない速さで加速していき、いつもの速さに戻り数えきれないほどのポッチーの家と一条燦のことを同時に処理した。
「一条燦がポッチーの家に来てるって!?」
「ダメだこりゃ」と梓は1人呟いた。
姫乃はその光景をかすかに眉をひそめて見ていた。
「あなた達何しているの?」
「いやー姫乃ちゃんすごいね!」
「当たり前でしょ!2人ともようやくあたしの凄さを理解したようね。
どう、あたしの下僕になる気はないかしら?家なんて簡単に建ててあげられるわ」
姫乃は2人に提案した。
梓は大きく横に首を振った。
ひかりは数えきれないほどのポッチーの家を夢見たものの、
「夢は自分で叶えるから良いんだよ!だから下僕にはならない」
と答えた。
「あら、何言ってるの?ひかりはもうあたしの下僕よ」
「だから、アタシは認めてないから」
「まあまあ、落ち着いて」
梓はとりなすように言った。
ぐぅ〜〜!!
3人の近くで突然腹の音がした。
「今の梓?」ひかりは梓に訊ねた。
「うんうん、私じゃない。そう言う、ひかりじゃない?」
「アタシでもないよ。」
「ってことは」
ひかりと梓は同時に姫乃を見ると、姫乃は目がうろうろと泳いでおり、腹がもう一回鳴るのを、必死に押さえていた。
「あたしでもないわ……それより食べましょう。さ、冷める前に」
姫乃は動揺からか、意味不明なことを言った。
「弁当だからもう冷めてるよ」
梓はツッコミをいれた。
「まあ、食べよう!いただきます!」
ひかりはこれ以上追及しないためにも、元気よく食材に感謝し、食べ始めた。
それに続き2人も「いただきます」と言って食べ始めた。
姫乃は少々がっつきながら食べている。
2人はその姫乃を見て、ふふっ、と笑みを浮かべた。
姫乃はその目線に気付き箸を止めて、
「別に普段はこうじゃないから!今日は用事があって朝を抜いて来たからよ」
と2人に言い聞かせて、再び箸を進めた。
少しして、姫乃は腹の虫が収まり2人と会話する余裕が出てきた。
「梓の弁当いいわね」
「自分で作ってるんだってすごいよね!その上めっちゃ上手なんだよ」
「自分で!?そのデザインと色悪くないわ」
梓はどういうことか答えを出すために少し考えた。
「……弁当箱の話?普通中身でしょ」
「さすがの梓でも弁当箱は作れないよ」
それを聞き、姫乃は梓の弁当の中を覗いた。
「中はたくさん入りそうで良いじゃない」
「そういうことじゃない、おかずとかの話だよ」
「おかず?あたしの方がいいじゃない」
「舐めたらいけないよ、梓の弁当は格別なんだから」
なぜかひかりが自慢げに言った。
「そこまでではない普通だよ」
「梓がそこまで言うなら、望むところよ」
「いや言ってないから」
「ひかりあたしの弁当食べてみなさい」
姫乃は自分の弁当をひかりに近づけて、ひかりは一口分もらった。
ひかりは昨日食べた梓の弁当の味を思い出しながら目を瞑って食べた。
「うーん、梓の方がアタシには合ってるかな」
「なんですって、梓食べさせなさい」
姫乃は確かめるために、梓の弁当を有無を言わさず食べた。
(えっ?これのどこがあたしの弁当に勝っているのよ。
まあ、下僕Aから仲良くなるためには人に合わせることが大事って教わったし、ここはひかりに合わせないと)
「まあ、悪くないじゃない。ひかりが言っていることも分かるわ。ほら、梓食べさせなさい。お礼にあげるわ」
姫乃は勝ちを確信したことで心に余裕が生まれ梓にも食べさせる。
梓は姫乃の好意に甘えて食べた。
「私は断然こっちだね。上品な味わいで美味しい」
「そうよね、比べ物にならないほど美味しいでしょ」
姫乃は誇らし気にしていた。
「さっき、アタシの言ってることが分かるって言ったのに梓の弁当は比べ物にならないんだ」
ひかりに矛盾を突かれ、焦り、
「いや、えっ……それは違うのよ。えっと、梓の弁当があたしの弁当と比べ物にならないほど美味しいって意味よ」
と言い訳をした。
「無理があるよ。焦りからも嘘ってバレバレだから」
「梓うるさい。口が滑っただけだわ」
「口が滑ったってことは思ってはいたんだ」
「うるさいうるさいうるさい」
梓が姫乃に正論を浴びせて、姫乃は大したことを言い返せずにいた。
「まあまあ、好みは人それぞれだし。それに梓の弁当よりも姫乃ちゃんの弁当よりも美味しいものがあるからね」
ひかりは2人の間に入り、話を変えた。
梓はとてつもなく嫌な予感がした。
「それはなんなの教えなさい」
そんな梓とは裏腹に姫乃は興味津々で聞いた。
その問いにひかりは不敵な笑みを浮かべ答える。
「それはポッチー!!!!
この世で1番の食べ物で、この世のどんな物とも合うお菓子だよ!!」
「なんですのそのポッチーとは」
「これだよ。食べる?」
ひかりはポケットからポッチーを取り出して姫乃に渡した。
姫乃は受け取り、食べると、その味に落胆する。
(うっ……これのどこが世界で1番なのよ……まさかあたしを騙した?友達のくせに許せないわ!!)
「ひかり、あたしを騙したわね。これのどこが美味しいのよ」
姫乃は嘘を吐かれたことに怒り、ひかりにぶつけた。
ひかりは「えっ?!!」と驚きの声を上げてしまう。
「美味しいでしょ?ね、梓?」
梓は姫乃に近づいて耳打ちをする。
「落ち着いて、ひかりは本気でポッチーが世界で1番美味しいって思っているの。
私も理解できないから、流すのが得策だよ」
姫乃は梓に耳打ちで返す。
「ほんとなの?あれのどこに魅力があるのよ?」
「ほんとだよ。私にもあれだけハマる魅力は分からない」
「さっきからなにコソコソ話してるの?」
ひかりは2人の会話が気になり質問した。
「ポッチーのこと教えてもらっていたのよ。
ポッチーが世界で1番美味しい理由が分かったわ」
梓はあっ、と驚き、姫乃にまた耳打ちをする。
「流すのが得策って言ったでしょ」
「合わせたって良いじゃない?」
2人が会話しているのも無視して、ひかりは続ける。
「そうでしょ!やっぱ1番だよね!」
「ええ、そうだわ!1番美味しいわ!」
「だったら、ご飯と一緒に食べてみて、最高にベストマッチだから。ほら!梓も食べてみて!」
梓は自分が巻き込まれたこと、姫乃が教えたのに無視したことに不満を抱き、姫乃を睨んだ。
「えっと……気持ちだけ受け取るわ」
「遠慮しなくていいから」
嫌がる姫乃の口に、ひかりはポッチーとご飯を入れ込んだ。
(うっ、さっきより最悪だわ。お米とチョコの相性が悪すぎる)
「無理、無理無理!!!」
姫乃は全速力でトイレに駆け込んだ。
「どうしたんだろ?」
ひかりは心当たりがなかった。
「さ、さあ。わ、私もどこかに行こうかな……」
梓は誤魔化して逃げようとしたが、
「まだ弁当残ってるよ。それに梓も試してみてよ。ね!」
ひかりは逃してくれなかった。
「い、いや、いやだ」
嫌がる梓の口に入れ込んだ。
噛んだ瞬間目の前が真っ白になり、淡い記憶が広がる。
(あ、あれなんか走馬灯みたいなのが見える)
気がつくと梓はトイレにいた。
「2人ともどうしたんだろ?」
ひかりは教室に残された2人の弁当を羨ましそうに眺めながら、自分の弁当を食べ進める。




