第13話 恋のエクスプレス
私立醒頼高校——この学校には15年勤務の用務員がいる。
教員の間では仕事ぶりが完璧であることから伝説とも言われる用務員、田中権造。
そんな権造にも悩みがある。
それは……
昼休み——。
ひかりと梓は向かい合って弁当を食べている。
2人の表情は明るく、光って見える。
「梓のお弁当いつも美味しそうだな〜」
ひかりは羨ましそうに梓の弁当を見つめる。
「食べてみる?」
梓はひかりに弁当を差し出す。
「いいの?!じゃあ、ハンバーグ貰お!」
ひかりは梓の弁当からハンバーグを一口くらい取り、口に入れる。
ひかりの全身に稲妻が走る。
全身が震え、目が勝手に大きくなり、脳を刺激される。
「何これー?!肉肉しさが噛むたびに感じるし、玉ねぎの甘味とケチャップソースがベストマッチで舌が踊るほど美味しい」
「言い過ぎだから」
「もう一個食べていい?」
「いいけど」
ひかりは梓の弁当から卵焼きを食べる。
またしても、全身に稲妻が走る。
「う〜ん!?卵を引き立てる牛乳と砂糖の甘さがちょうどよく、卵が全身を包み込んでくれるような感覚で優しい味わい」
「だから、言い過ぎ」
梓は恥ずかしそうにしながらも笑っていた。
「誰が作っているの?お母さん?」
「ううん。私が作ってる」
「梓が?!すごい!さすが!天才!」
ひかりは梓を大きめの声でベタ褒めする。
「ちょっと、声大きい。」
梓は人差し指を立てて、口の前に持ってきて言った。
「料理いつからしてるの?」
「7歳くらいかな?
両親が朝早くから夜遅くまで仕事で帰ってこないから、ご飯自分で作り始めた」
「7歳から?!1人で大丈夫だった?」
「うん、まだあの頃はおばあちゃんが優しかったから」
「あっ……そうだね。今度、梓の料理食べてみたい!!梓の家行ってもいい?」
「聞いてみるよ。ダメだったら弁当作ってくるよ」
「ほんと!?嬉しい!!」
ひかりは満開の笑顔を見せる。
ピンポンパンポーン、とチャイムがなり、皆が静まり返る。
「1年3組鈴木梓さん。至急、生徒会まで来てください。繰り返します……」
放送はもう一度繰り返された。
「梓、何したの?」
ひかりは首を傾げて、聞いた。
「生徒会……多分、あれだ」
梓には心当たりがあり、急いで向かった。
「あれって何ー」
しばらくして、梓が紙を持って戻ってきた。
「OSBのポスターの許可が降りたから呼ばれた」
「それでか!?アタシ貼りに行くよ!お弁当食べ終わったから!」
「じゃあ、任せる!はいこれ!——場所はこのプリントに書いてあるから」
梓はひかりに10枚のポスターと1枚のプリントを渡した。
プリントにはポスターを貼る上での注意事項が書かれており、その下に10箇所の貼る場所が明記されていた。
「そういえば、持っていったのって1枚じゃなかった?」
「1枚じゃダメだったから、次の日に持っていったの」
「いつの間に!?梓はしごできだね!行ってくる!」
ひかりは書かれている場所に向かった。
ひかりは、各階の廊下に階段、食堂の中、校舎内の掲示板に外の掲示板に素早い移動で、ポスターを貼っていった。
ひかりが貼った後、2人の生徒がポスターを見ていた。
「これなら、私達の居場所が取り戻せるかも!」
「本当になんでも解決してくれるならね……」
外の掲示板に貼り終えた後、教室に戻ろうとすると、はあーー、と大きめのため息が聞こえて、その方を見ると、肩を落とし暗い顔をしている用務員が箒に頬を寄せて立っていた。
ひかりはOSBとして困っている人をほっとけないから、近づいて話しかける。
「あの、大丈夫ですか?」
用務員は眉毛を上げ、ちょっぴり驚く。
「あ、ああ。大丈夫だよ……」
「暗い顔してるのに?お悩みがあるなら人に話した方が良いですよ!」
「人に話すことではないから」
「いいからいいから。話してください!解決して見せますから!」
「いやでも……」
「いいから、高校生だけど解決できますからね!ね!」
用務員はひかりに根負けして、渋々語る。
「本当に高校生に話すことではないが、俺は学校で勤務していることもありいろんな恋を見てきた。
壁ドンして告白したり、女の子にかっこいいところ見せるためにバク転して、ズボンが落ちパンツ見えて、平手打ち喰らってたり、とにかく色々。
見ているうちに心が刺激されて、また学生のような恋がしてみたいと思うようになったが、もうそんな歳じゃないと諦めていた。
そんな時に出会ってしまった、お弁当屋の水野幸江さんに。最初は最近できたから行ってみたが、一目幸江さんを見た瞬間に惚れていた。
それから通いに通って10年……なのに母親の介護で後30分もすれば、新幹線に乗って実家に帰ってしまう。
もう幸江さんの弁当が食べられない。もう会うことができないなんて」
悲しそうに手をぎゅっと握りしめる。
ひかりは頷きながら、どうするか考えていた。
「……なら、会いに行って気持ちを伝えたら良いんじゃない?」
ひかりは純粋思ったことを言った。
投げやりのような笑いをして、
「はは、良いんだよ。好きと伝えないまま終わるのも恋だよ。人が去り、当たり前だったものが消える、儚いものだ。
それこそが人生だからな。」
と何かを悟ったように言った。
ひかりはその言葉が引っかかった。
「それが人生って誰が決めたの?消えるだけ、人が周りから去るのを眺めるだけ——それは用務員さんが何もしないからじゃない!!
人生に決まりはない。人が去るなら引き止めたらいい、当たり前だったものが消えるならまた作ればいい。
儚くても、延命はできるんだよ!」
ひかりの言葉には強い気持ちが込められていた。
用務員はまだ踏み出せずにいた。
ひかりは続ける。
「用務員さんができることをやってみればいい。
誰のためでもなくただ眺めるだけでもなく、自分のために、当たり前のために!」
その言葉が用務員の頭で繰り返される。
(自分のため……当たり前のため……できること?)
用務員は大きく頷き覚悟を決める。
「分かった!やれることやってみる!」
箒を放り投げて走り出す。
全力疾走で行くが駅まで到底30分では間に合わない。
すると、横から「用務員さん!」と聞こえてみると、ひかりがタクシーの窓から声を掛けていた。
「これに乗ってください!」
タクシーが止まり、用務員はタクシーに乗り込んだ。
「運転手さん、東京駅まで急いでください!」
「分かりました。それにしてもそんな急いでどうしたんですか?」
「告白しに行くんですよ!用務員さんが」
「そうですか。ドラマみたいですね——アクセル全開で間に合わせて見せますよ」
運転手は感化されたようで、ルールに則った範囲で全速力で向かう。
道中渋滞に捕まった。
用務員は腕時計を頻繁に確認して、足踏みをする。
一向に進まない状態で、はあーとため息をつく。
「もう諦めよう……やっぱ無理なんだ……間に合わない」
用務員は肩を落とし、元気をなくした。
ひかりは諦めていなかった。
それどころか余裕の笑みを浮かべている。
「まだ間に合うよ!なんたってアタシは遅刻をギリギリで間に合わすスペシャリストなんだから!
『透明』プラス『浮遊』!そして周りの人はタクシーがここにいたことを『忘れて』」
するとタクシーの周りが透明になり、ふわっと浮き始めて、一定の高さまで上がる。
後ろの車は、あっ、空いてると思い車一台分進め、後続車も進める。
車内では、どうなっているんだと2人は驚き、運転手は目を擦り、なんでも外の光景を見て、用務員は顎が外れるくらい口が開いていた。
「運転手さん、驚いてないでアクセル踏んで早く行ってください!」
「いやいやいや……えー」
まだ状況を理解できないながらもアクセルを踏む。
タクシーは空中で走り出した。
この雰囲気がどこか懐かしいような気がする3人。
3人は少しの沈黙の後、運転手が口を開く。
「いやーこれはあれだ映画の1シーンだ」
それを聞き、2人は反応する。
「それだ!子供の頃に見たやつだ!」
「そうそうあのシーンですよね」
『E.T.』『バック・トゥ・ザ・フューチャー2』『秘密の部屋』
3人は一斉に映画のタイトルを言った。
3人はそれぞれ違うタイトルを言ったことを驚く。
「そちらのお父さんはなんと?」
「俺は『バック・トゥ・ザ・フューチャー2』ですよ。あの時は、いきなり空を飛んで未来に行ったのは驚いたな〜。
もうその年過ぎたのにまだ地面を走っているから落胆してたのに嬉しいな!」
用務員さんは子供のように目をキラキラさせて語った。
「いやいや、それは違いますよ。それは科学じゃないですか。これは魔法のようなもの、つまり『E.T.』なんですよ。
やっぱり、あの自転車のシーンでっかい月を背景に空を飛んでいく——いや〜良いシーンだったな」
運転手は用務員を否定して、自分のことを棚に上げる。
「それ自転車じゃないですか」
「そうですよ。その点アタシのは車が魔法で浮く。『秘密の部屋』ですよ!」
「それが1番ない」
2人が同時に言った。
「あんまり印象ない」
「今聞いてあったなーぐらいだし」
「2人の映画見たことないだもん」
2人は耳を疑う。
「ありえない。ほんと有名なのに見ないなんて」
「見たほうが良い」
2人がひかりを責めていると目の前のビルに近づいて行く。
「運転手さん、前、前!」とひかりが教えて、ぶつかるギリギリで曲がれた。
皆んなが安堵する。
「気をつけてください」
「いやー、すみません」
「浮いてるってことは赤信号にも他の車に邪魔されない、止まらなくって良いんだよ!だから間に合う!」
「なるほど、いわゆる特急ってことですね!分かりました、ブレーキを取っ払って全速前進で行きます!」
タクシーは一度も止まることはなく、空を押し除け駅に向かった。
着いた時刻は新幹線が出発する15分前。
用務員さんがお会計を済ませている間に、ひかりは
「ごめんなさい運転手さん、『忘れて』魔法で浮いたことを」
と言って、魔法を使った。
運転手は会計が終わると何事もなかったように2人を下ろして、走り去った。
2人はホームへ向かう。
改札の前まで来るが入れない、用務員はここまで来たのにと悔しがっている。
それを見かねたひかりは覚悟を決める。
(ごめんなさい、けど新幹線には乗らないから)
「『浮遊』そして『忘れて』」
2人の体が浮き、改札を上から通り、地面に降りる。
その場にいる人達は気にも止めない様子で行き交う。
ホームに着き、2人は「幸江さん」と呼んで探す。
するか遠くの方で「権造さん?!」と少し高い声で聞こえてくる。
用務員が見ると、茶色にロングカーディガンを着た細身の中年女性が立っていた。
「幸江さん」と言って、用務員は掛け寄ると幸江へは質問した。
「権造さんどうしてここに?」
「えっと、それは……」
権造がモジモジしている。
ひかりが後ろから説明する。
「それは幸江さんに伝えたいことがあるんですって!——ほら、早くしないと新幹線が来るよ」
ひかりは背中を押す。
「幸江さん!えっと、やっぱり……」
権造は幸江を前に心臓が高鳴り呼吸が荒く、まともに話せない状態だった。
「自分ならできるって信じないと行動なんか起こせないよ!」
ひかりは優しく言葉を贈る。
権造は自分ならできると思い込み、深呼吸して、呼吸を整え言う。
「幸江さん!あなたのお弁当世界一美味しかったです!
あなたのお弁当のおかげで毎日毎日頑張ってこれた。
あなたの笑顔で、心がみたされた。あなたと話すたびに会うたびに心臓が高鳴った、学生時代に戻れた気がした。
俺は幸江さんが好きです!!俺をいつまでも幸江さんの常連客にしてください!」
権造は勇気を振り絞り告白した。
幸江は手で口を覆い目を大きくさせた。
少し考えたあと、申し訳なさそうに、
「……ありがとうございます、でも前に言った通り母の介護で、帰らなきゃいけないんです。ごめんなさい。」
断った。
権造はそれを聞くやいなや、即答する。
「俺もついて行きます。それに今までお金使い道がなくて蓄えがたくさんあるんで、介護士を雇えますし、またお店開けますから。結婚してください!」
幸江は驚き、目を輝かせるが、権造のことを考えて、
「え…………お気持ちは嬉しいですが、そんなの権造さんの幸せに繋がりません。」
と断りを入れる。
権造は諦めずに、更に気持ちを伝える。
「お金じゃ買えないんです、あなたは。
俺はお金なんていらないただ、あなたの隣でお弁当が食べたいんです。」
幸江はしばらく黙り、やがて答えを出す。
「権造さん、わかりました!その気持ちにお応えします!!」
それを聞き権造はこれ以上にないくらい笑顔でバンザイした。
ひかりも「良かったですね!」と言ってバンザイした。
風を運び新幹線がホームに到着した。
「あたし乗らないと、会いに来てくれます?」
幸江は、寂しそうに聞いた。
権造は笑顔で答える。
「すぐにでも!お気をつけて!」
幸江は新幹線に乗り込み、権造は新幹線が見えなくなるまで手をふりつづけた。
ホームに残った2人は、帰路に就く。
「用務員さんって権造なんですね。アタシはひかりです!」
「ああ、そうだよ。
ありがとう、ひかりちゃん。まさか、高校生に説教されるなんてな。
何が起きるかわからないな人生ってものは。
一生懸命抗ってみるよ!」
「説教だなんてよしてくださいよ。
用務員さんを救えて良かった!アタシも人生に抗い続けますし、抗わせ続ける!
それがアタシのやるべきことですから」
2人とも清々しい顔していた。
2人はタクシーで学校に戻った。
ひかりが教室に戻ると、全員の視線がひかりに向けられ、授業担当の先生に心配される。
授業後、生徒指導室に呼ばれて、何があったか事細かに聞かれ、正直に言うとふざけているのかと叱られる。
その場で反省文を書かされて、一旦は帰らされる。
OSBの部室に行くと、梓の前に2人の女子生徒が座っていた。
一方、権造は他の用務員に注意されるが、権造は反省する訳なく、笑顔でいた。
「俺もう、ここ辞めますんで」
権造は言い放った。
用務員は驚き、
「いや、ちょっと待ってください、何があったんですか?らしくないですよ」
と聞いた。
「待っている人がいるんで!」
権造には迷いがなく、幸せに満ちた様子だった。




