表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<自立型AI> Δ-3 ―三角柱の墓標―  作者: てきてき@tekiteki


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
7/23

Δ−3 (デルタ・スリー) ー7

俺は苦笑した。


「違う」


ゆっくりと首を横に振る。


「そういうことじゃない」


三角柱は静かに浮かび続けている。


黒い装甲を伝う雨粒は、

機体の縁を滑り落ち、

小さな音も立てず地面へ吸い込まれていった。


「昔と、同じです。同一個体です」


「違うんだよ」


俺は三角柱へ視線を向けた。

いつもと変わらない姿。

三十センチほどの黒い三角柱。


浮遊高度も変わらない。

発光パターンも正常。

ハードウェアとしては、

確かに同じΔ-3だった。


「そうじゃないんだよ」


「理解不能です」


俺はゆっくりと、言い聞かせるように言う。


「Ver1もな」


あの頃を思い返すように、

一つひとつ言葉を選びながら。


「Ver3も」

「Ver20もだ」

「全部居ない」


三角柱は静かに答える。


「バックアップはクラウド上に存在します」


「ああ、そうだろうさ」


俺は笑った。

苦笑というより、諦めに近い笑みだった。


「そういう話じゃない」


夜風が二人の間を通り抜ける。

濡れたコートの裾が揺れ、

焚き火跡の灰が静かに舞った。


三角柱は数秒間沈黙する。

表面を流れる青白い光だけが、

内部で膨大な演算が行われていることを

周りに教えていた。


「では、何を指しているのですか?」


「ま、お前は成長したって事だな」


「成長」


「人間も同じだ」


遠くで雷が鳴った。

黒い雲の向こうで、わずかに空が白く光る。


その光は一瞬だけ荒野を照らし、

崩れた高架道路の骨組みを白く浮かび上がらせた。


「十年前の俺はもう居ない」


俺は静かに続ける。


「二十年前の俺も居ない」


少しだけ笑う。


「でも確かに存在した」


三角柱は迷わず答える。


「データベースに、記録が残っています」


「ああ」


俺は静かに頷く。


「だから時々会いたくなる」


その言葉を口にした瞬間、

自分でも少し驚いた。

口にするまで、

それほど強く思っているとは気づいていなかった。


三角柱はすぐに答えた。


「まったくもって非合理的です」


表面の光が一定の速度で流れる。

機械らしい、感情のない口調だった。


「今のほうが格段に──」


「ああ」


俺は途中で遮った。


「知ってる」


「それに、過去は戻りません」


「知ってるよ」


「利益もありません」


「知ってるさ」


三角柱は一瞬だけ次の言葉を選んでいるのか、

沈黙した。

そして演算負荷が上がったのか、

青白い光がゆっくりと明滅を繰り返す。


「それでもですか」


俺は迷わず頷いた。


「ああ」


そして、小さく笑う。


「それでもだ」


風が吹く。

夜の静寂が二人を包み込む。


懐かしむという行為を。

こいつはまだ理解できない。


失ったから価値がある。

戻らないから愛おしい。

そういう感覚だ。


数字にはならない。

保存容量にも入らない。


どれだけ演算能力が上がっても、

単純なデータだけでは届かない場所がある。


だから多分。

こいつが一番苦手な分野なんだろう。


三角柱は静かに浮かんだまま、何も言わない。

ただ、青白い光だけが、

ゆっくりと夜の闇をなぞっていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ