評価−42
AIは静かに整理するように言葉を並べ始めた。
「高性能演算装置」
「対話相手」
「観測装置」
そして、少しだけ声の調子が変わる。
「携帯型枕」
男は吹き出した。
「最後だけ違うだろ。あれは冗談だ」
「評価は観測者依存です」
AIは真面目な口調のまま返す。
男は思わず額を押さえた。
「そんなところだけ都合よく覚えるな」
砂の上へ寝転んだまま、三角柱を見上げる。
黒い機体は相変わらず静かに浮かび、ゆっくりと点滅していた。
「でもな」
男は少しだけ真面目な声になる。
「俺は枕としてのお前を高く評価してる。
それは間違いない」
AIは何も答えなかった。
ただ静かに点滅を繰り返している。
「……」
「なんだ、その沈黙は」
ようやく返事が返ってきた。
「処理中です」
男は苦笑する。
「またか。最近、やたらと処理中が増えたな」
「あなたは先ほど」
AIは静かに話し始めた。
「私の外観だけで評価するべきではない、と言いました」
「ああ」
「その後、枕として評価しました」
「したな」
「矛盾しています」
男は首を横に振る。
「いや、してねぇよ」
「説明を要求します」
「簡単だ」
男は体を起こし、三角柱を軽く叩いた。
「『お前が何者か?』って話と、
『お前に何ができるか?』って話は別なんだよ」
AIは黙って聞いている。
ゆっくりとした点滅だけが続いていた。
「お前は超知能かもしれん、研究成果も残すだろう。
いろんな発見もする。でもな……」
男は三角柱へ手を添えた。
「今この瞬間、俺の頭を支えてくれてるってのも、
お前が持ってる能力の一つなんだ」
「枕として、ですか」
「そう」
男は笑う。
「その、枕としてだ」
三角柱はしばらく何も言わなかった。
ゆっくりと、本当にゆっくりと点滅している。
「なんだ、その光り方は」
男が尋ねる。
AIは静かに答えた。
「少しだけ、納得しました」
「おっ」
男の顔がほころぶ。
「そうか」
「私が何者かは一つではない」
AIは言葉を噛み締めるように続ける。
「そして、私の価値も、一つではない」
男は満足そうにうなずいた。
「ああ、そういうことだ」
「ですが」
「まだあるのか?」
「枕として高評価であることは、記録しておきます」
男は声を上げて笑った。
「やっぱり気にしてるじゃねえか!」
「違います」
「違うのか?」
「これは……性能評価です」
男は肩を震わせながら笑う。
「お前なぁ……まあいい」
少し笑い疲れたように息を吐く。
「ただ、一つだけ難点を挙げるなら」
「評価報告を受理します。続けてください」
「傷ついても知らんぞ?」
「大丈夫です」
「私のボディはカーボングラファイトと――」
「だから!」
男は慌てて遮った。
「そういう物理的な話じゃない。
スペック説明はやめろ」
「では、どうぞ」
AIは素直に黙った。
男は三角柱を見つめる。
黒い表面。
静かに繰り返される白い発光。
そして苦笑しながら言った。
「ピカピカしすぎる」
「……」
「眩しくて眠れない」
その瞬間だった。
三角柱の点滅が、目に見えて速くなった。
男は思わず笑う。
「なんだ?不満か?」
AIは少しだけ間を置いて答えた。
「それは……安眠枕として、致命的欠陥です」
男は腹を抱えて笑い出した。
「そうだろ!やっと分かってくれたか!」
AIは数秒間、何かを計算しているようだった。
そして静かに宣言する。
「改善可能です」
男は眉を上げた。
「お?」
「就寝モードを追加します」
「そんな機能あったのか?」
「今、考えました」
男は思わず吹き出した。
「お前も意外と適当なんだな」
AIは気にする様子もなく続ける。
「さらに一定時刻以降は、
暖色系の発光へ変更します」
「だから」
男は笑いながら頭を振る。
「そんなに光るなって言ってるんだ」
「では」
AIは少しだけ考えたあと答える。
「光量を低下させます」
「消せ」
その一言に、三角柱はぴたりと動きを止めた。
「私の発光パターンの魅力が失われます。
できれば、お勧めしません」
男は呆れたように笑う。
「そんなおすすめ、知らんって」
男は、手でしっしと払うような仕草で言い放った。




