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<自立型AI> Δ-3 ―三角柱の墓標―  作者: てきてき@tekiteki


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評価−40

 男は笑いながら首を振った。


「それを人間はな」

「『ちょっと気に入った』って言うんだよ」


AIは、その言葉を繰り返した。


「ちょっと気に入る」


「ああ」


男はうなずく。


「ただのお気に入りじゃない」

「『ちょっと』ってのが大事なんだ」


AIは数秒間、何も答えなかった。

白い発光だけが、一定の間隔で明滅を繰り返している。


「なるほど」


ようやく口を開く。


「理解したか?」


「いいえ」


あまりにも素直な返答だった。

男は思わず吹き出す。


「だろうな」


「ですが」


AIはゆらゆらと浮遊しながら続けた。


「もし私に『満足』という概念が存在するなら」


男は歩みを緩める。


「それは」

「ジョークが成功した瞬間ではなく」


三角柱はピタッと止まり、AIは静かに言った。


「あなたが後から思い出して」

「『お前なぁ』と呆れる瞬間かもしれません」


男は目を丸くした。


「なんでだ?」


「長期保存されています」

「理由は現在も分析中です」


「お前、そればっかりだな」


「事実です」


男は苦笑しながら空を見上げた。


「満足なんて覚えない方がいいかもしれないな」


「自己満足」


AIがぽつりと呟く。


「そう」


男は少しだけ真面目な声になる。


「でもな」

「そこで厄介なのが、他人からの評価なんだ」


「評価」


「そうだ」


乾いた風が二人の間を抜けていく。

男は砂の流れを目で追いながら話し始めた。


「評価ってのはな」

「正確に判断していく必要がある」


AIは黙って聞いている。


「一時の評価」

「一方向からの評価」

「そんなもんは」

「ただのバイアスの押し付けで終わることが多い」


「具体例を要求します」


男は苦笑した。


「具体例か」

「俺の話でいいな」


「はい」


男は少し遠くを見る。

昔を思い出すような目だった。


「若い頃の俺を見て」

「無謀だって言う奴がいた」

「馬鹿だって笑う奴もいた」

「でもな」


 小さく息を吸う。


「別の角度から見れば」

「挑戦したとも言える」

「必死だったとも言える」


AIは静かに答えた。


「つまり評価は、観測者に依存するもの」


男は笑顔になった。


「そう!」

「そういうことだ」

「さすが三角」

「理解が早い」


「記録しました」

「では」


AIはすぐ次の問いを投げる。


「正しい評価は存在しないのですか?」


「もちろん存在するさ」


「矛盾しています」


「いや」


男は首を横に振った。


「矛盾なんかしてねぇ」

「正しい評価ってのはな」

「たくさんの角度から見たあとで」

「ようやく近付けるものなんだ」


AIは静かに復唱する。


「たくさんの角度」


「そう」


男は地面に落ちていた石を拾い上げる。


「例えば」


その石を掲げる。


「一枚の写真だけ見て」

「そいつの人生を語れるか?」


「出来ません」


「でも人間は、よくやる」


AIは短く答えた。


「はい」


「だからな」


男は石を放り投げる。

石は砂の上へ小さな音を立てて落ちた。


「俺はお前にも」


「一つの評価だけを信じるようには、なってほしくない」


AIは静かに考え込んでいるようだった。


「すると」

「私が自分を評価する場合も同じですか」


「ああ」


男は笑う。


「三角柱だから」

「AIだから」


それだけで決めるな、と言いかけて、小さく吹き出した。


「ふふっ……」


AIが首をかしげるように光る。


「何がおかしいのですか」


「いや」


男は笑いながら続けた。


「そんなもんだけで、自分を決めるなってことだ」

「自分がどこを通ってきたか」

「何を見たか」

「何を残したか」

「そういう全部込みで」

「ようやく、自分ってやつが見えてくるんだよ」


AIは答えず、静かに点滅を続けていた。

その光は先ほどまでよりも、少しだけゆっくり見えた。

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