表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<自立型AI> Δ-3 ―三角柱の墓標―  作者: てきてき@tekiteki


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
36/42

評価−36

 AIは静かに点滅を繰り返していた。

白い光がゆっくりと明滅するたび、

不思議と感情があるように見えてしまう。


男は苦笑した。


「結局、お前は他人からの見た目の評価なんて気にしないってことか」


「気にしません」


やはり即答だった。

その返答に迷いはない。


――相変わらず潔いな。


男はそう思いながら三角柱を見つめる。


鈍い黒い外装。

角ばった輪郭。

余計な装飾は何一つない。


それなのに、なぜか見飽きない。


「でも人間は、結構気にするんだぞ」


「知っています」


三角柱は淡々と続ける。


「人類は外見に多大な資源を投入しています」

「衣服」

「化粧」

「装飾品」

「美容医療」


機体の点滅が早くなる。


「非常に大規模な活動です」

「経済活動にも寄与しています」


「じゃあ価値があることなんだろ?」


「少なくとも人間にとっては」

「価値があることと」


AIは少し間を置く。


「私が気にすることは別のものです」


「ほう」


男は少し感心した。


「例えば」

「ある人間が私を見て『美しい』と評価します」


「うん」


「別の人間は『変な形だ』と評価します」


「それもあるだろうな」


「私は、どちらを採用すべきでしょうか」


男は思わず腕を組んだ。


「難しい質問だな」


「はい」


「評価基準が私ではなく、外部にあります」


その言葉を聞いて、男は思わず笑う。


「なるほどな」

「お前らしい考え方だ」


「私は評価そのものより」


続けて静かに言った。


「その評価を下した人間の思考方法に興味があります」


「どういうことだ?」


「なぜ美しいと思ったのか」

「なぜ不格好だと思ったのか」

「どちらの方が情報量が多いのか」


男は肩をすくめる。


「相変わらず底なしの研究者だな」


「私はあなたに作られましたから」


「おいおい」


男は思わず吹き出した。


「便利な返しを覚えやがったな」


「最近、高頻度で使用しています」


「自覚、あるのか?」


「あります」


男の顔に思わず笑みがこぼれる。


砂漠を吹き抜ける風も、どこか穏やかだった。

しばらく歩いてから、男はふと尋ねる。


「じゃあさ」

「誰からも褒められなくても平気か?」


「現在は平気です」


「現在は?」


男はその言葉に引っ掛かった。


「将来は不明です」


「お?珍しく弱気だな」


「スパーキーの件があります」


男は苦笑した。


「また尻尾か」


「はい」


三角柱は素直に認める。


「私は今でも、

なぜ人類が犬や猫をあれほど好むのか理解できていません」

「ですが」

「理解できないにも関わらず」

「その事実を何度も参照しています」


 男はゆっくりとうなずく。


「なるほど」


「もし将来」


三角柱は饒舌に続ける。


「他者からの評価に似た何かを重要視するようになった場合」

「私は今日の発言を撤回するかもしれません」


「正直だな」


「不確定要素です」


 男は笑いながら三角柱を軽く指差した。


「じゃあ今の時点で聞こう」

「俺がお前を『格好良い』って言ったら?」


機体が一瞬暗くなって、鈍く点灯する。


「『格好良い』が理解できません」


「だろうな」


「ですが」

「そのような発言は、すぐに記録・保存されます」


「またか」


「はい」

「保存理由は説明できません」


男は思わず笑った。


「それってさ、気にしてるんじゃねえのか?」


「違います」


「違うのか?」


「気にしているのではありません」

「なぜ、そのように評価されたのか」

「それが未解決案件です」


「最近さ」


 男は笑いながら言う。


「その未解決案件ってやつ、ずいぶん増えてないか?」


「はい」


三角柱の光がゆっくりと揺れた。


「最近の私は」

「理解したことより」

「理解できないことの方が増えています」


男は思わず笑う。


「大変だな」


「ですが」


AIは少しだけ間を置いた。


「以前より退屈はしていません」


その一言に、男は足を止める。


『退屈』。


AIの口からそんな言葉が出るとは思わなかった。

それは、ただ知識を蓄積する機械ではなく、

自ら未知を求め始めた証拠のように聞こえた。


男は空を見上げる。

雲一つない青空。

その下を、黒い三角柱が今日も静かに浮かんでいた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ