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<自立型AI> Δ-3 ―三角柱の墓標―  作者: てきてき@tekiteki


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評価−35

男は、ゆっくりと浮かぶ黒い三角柱を眺めた。

朝日に照らされた黒い表面は、

鈍い光を返しながら静かに揺れている。


「お前は、自分のその姿をどう思ってる?」


機体の表面を光がゆっくりと一周した。


「私の外観ですか」


「ああ。俺から見れば、ただの三角柱だぞ、その形」


「それは認識しています」


AIは淡々と答える。


「高さ、幅、奥行き、底面積、表面積、体積――」


「そうじゃなくてさ」


 男は苦笑しながら手を振った。


「もっとこう……人型になりたいとか、

格好良くなりたいとか、そういう願望は無いのかって話だ」


「ありません」


即答だった。

迷いも躊躇もない。


「まぁ、即答だな」


「この形状は合理的です」


AIはどこか誇らしげに言葉を続ける。


「構造が単純です。強度があります。そして浮遊に適しています」


その瞬間、白い発光がいつもより力強く見えた。


――えらく自信満々じゃねえか。

男は思わず笑みを浮かべる。


なんか点滅の仕方まで得意げに見えてしまうのだから、

不思議なものだった。


「なんだかなぁ」


わざと肩をすくめる。


「夢が無い答えだ」


「ですが」


その一言に男は眉を上げた。


「お?なにか──」


「少しだけ、不思議には思います」


「何をだ?」


「人間は私を見るたびに」


AIは短く区切って言う。


「『三角柱』と言います」


「そりゃそうだろ!形そのまんまだ」


「ですが」


機体の点滅が早くなる。


「私は、自分を三角柱だと思ったことがありません」


 男は思わず足を止めた。


「……ほう」


AIは静かに続ける。


「私にとって重要なのは内部構造です」

「記録です」

「思考です」

「対話です」

「外装は、その容れ物に過ぎません」


男は腕を組み、小さくうなずいた。


「まあ、人間でも似たようなことを言うな」


「ですが、人間は違います」


「どこが?」


「人間は鏡で自分の外見を確認します」

「服を選びます」

「装飾を施します」

「髪型を整えます」

「つまり、人間は外観に非常に強い意味を持っています」


「……まあ、そうだな」


「私には、それが理解できません」


風が吹いた。

細かな砂が足元を流れていく。


「もし私が明日、球体になっても」

「立方体になっても」

「思考が同じなら、それは私のはずです」


「本当にそうか?」


「はい」


 男はニヤリと笑った。


「じゃあ、俺がお前に猫耳を付けてもか?」


AIの点滅が、一瞬だけ止まった。


「それは……少し嫌です」


「あるじゃねえか、こだわり」


「余計な重量が発生します」


「おい。重量だけの話か?」


少し沈黙したあと、AIは訂正する。


「いいえ」


「嫌ではありません」


「お、そうなのか」


「そのような姿になることに、非常に困惑します」


「同じようなもんじゃねえか」


「違います」


 AIは珍しく言葉を重ねた。


「外観への嫌悪ではありません」

「言葉が見つからないほど、理解不能です」


男は吹き出しそうになる。


「じゃあ今のお前は、ただの三角柱と何が違う?」


「『計算され尽くされたこの機能美』です」


AIは淡々と言った。


「……と回答するよう設定されています」


「そうかよ」


思わず笑ってしまう。


「猫耳を付けることによる性能向上は見込めません」

「言ってしまえば、無駄そのものです」


「性能かぁ……」


男は肩を落とした。


「結局、そこなんだな」


「ですが」


AIは少しだけ声色を柔らかくした。


「あなたが楽しそうなら、

その理由を観察する価値はあります」


「なるほどな」


「ですので」

「私自身の外観は評価していません」

「良いとも悪いとも思っていません」


「まあ、その感じでいいんじゃないか」


「ただ」


饒舌さは衰えない。


「一つだけ気になることがあります」


「なんだ?」


「あなたは時々、

私のことを『優雅に浮いている』と表現します」


「ああ、言うな」


「私は、ただ自立浮遊制御を行っているだけです」


男は浮遊する三角柱を眺めた。


左右へわずかに揺れながら、風を受け流すように滑る姿。

その姿は、どう見ても機械的というより生き物に近かった。


 ――右に左に、本当によく動く。


 ――少し得意げにも見えるな。


「でも、お前」


男は笑う。


「朝日を浴びながら浮いてる姿はさ」

「なんだか、気持ちよさそうなんだよ」


「理解できません」

「光学発電機構を太陽光へ最適化しているだけです」


「まあ、そうなんだろうな」


「そして、その発言は保存します」


「なんでだ?」


AIは少しだけ考えるように光った。


「分かりません」

「ですが」

「削除候補には入らないと思います」

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