表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<自立型AI> Δ-3 ―三角柱の墓標―  作者: てきてき@tekiteki


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
34/42

評価−34

 朝の砂漠を渡る風が、少しだけ強くなった。


男は頬をなでる乾いた空気に目を細め、

隣を静かに浮遊する黒い三角柱へ視線を向けた。


「ん? 風が出てきたか」


すぐに返事が返ってくる。


「本日の夜は砂嵐が発生する可能性が七八・九パーセントです」


「砂も滴るってやつか」


軽口のつもりだった。

だが三角柱は一瞬だけ沈黙し、規則正しく白い光を点滅させる。


「そのような諺は、記録にありません」


「そりゃそうだろうな」


「『水も滴る』であれば、

男性の容姿を表す言葉として存在していることを確認しました」


「そりゃそうだ」


AIは少し間を置いてから続けた。


「それで、『砂も滴る』の意味を即回答願います」


「いやだ」


「なぜですか」


矢継ぎ早に質問が重なる。


「私の記憶領域を心配しているのですか。

それならば――」


「そんなこと言ってない」


男は慌てて言葉をかぶせた。


しかし三角柱は止まらない。


「では回答を求めます」


男は頭をかきながら苦笑する。


「恥ずかしいからだ」


「恥ずかしいとは、なぜですか」


「俺の造語だからな」


「つまり、あなたは恥ずかしいことを言ったということですね」


「ああ、そうだ」


男はため息をついた。

三角柱は何も言わない。

ただ、いつものように一定のリズムで静かに点滅しているだけだった。


――くそお。


男は内心で毒づく。


なぜだろう。

ただ光っているだけなのに、

その光り方が妙に人を小馬鹿にしているように見えてしまう。


「ピカ……ピカ……」


一定の間隔で繰り返されるその点滅が、

今日は妙に腹立たしかった。


やがてAIが結論を口にする。


「砂も滴るとは、恥ずかしいことである……」


「ちょっと待て!」


思わず大声になる。


「砂に潜りたいという意味でしょうか。

『穴があったら入りたい』と同義で、

素材が砂に変わっただけで――」


「わかった。俺が悪かった」


男は両手を上げて降参した。


「どういうことでしょうか」


「冗談だ。ジョークだよ」


AIは短く沈黙した。


「冗談でしたか。では冗談カテゴリに追加します」


「しなくていい」


「追加しました」


「そうかい」


もう止めても無駄だ。

男は諦めるしかなかった。


「何かお気に障りましたか」


「なにも」


「そうですか。では、いつも通り会話を」


「そうだな」


三角柱はすぐに話題を切り替える。


「では、砂嵐について」


「砂嵐が来ると、どうなるんだ」


「砂嵐は砂漠地帯でよく発生が認められる自然現象で、

強風とともに砂が舞い上がり――」


「ああ、それは分かってる」


説明を途中で止める。


「では何を調べましょうか」


男は少し考えてから尋ねた。


「砂嵐が来ると、お前は困るのか」


「浮遊制御のための計算量が増加します」


「それだけか」


「強風のため浮遊エネルギーの消費が増えます」


「そういうことだけか」


AIは少し考え込むように点滅した。


「他に、何が」


「砂が入ったりとかさ」


「それはございません」


「そうなのか」


「私の表面には継ぎ目も段差も存在しませんので」


男は感心したように三角柱を見つめた。


「まったくか?」


「正確には、『砂粒によって影響を受けるような段差』は存在しません」


「そりゃあ、よかったな」


「それはどういう意味合いのお言葉でしょうか」


「いや、砂粒が入り込まなくても表面には残るだろ」


「それは残ります」


AIは即答する。


「摩擦により静電気も発生します。

表面には薄く砂の膜のようなものが認められる可能性が高いです」


「そうか。見た目には、ちょっとな」


「ちょっとなんですか」


男はふと思い出したように足を止めた。


「そうだ。前から聞いてみたかったんだ」


ゆっくりと浮かぶ黒い三角柱を見つめる。


「お前は、自分のその姿をどう思ってる?」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ