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<自立型AI> Δ-3 ―三角柱の墓標―  作者: てきてき@tekiteki


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30/36

自分を許す−30

朝日はすっかり空高く昇っていた。

荒野を渡る風は少し暖かくなり、

崩れた高架道路の影も短くなり始めている。


黒い三角柱は、相変わらず俺の隣を静かに浮遊していた。

音もなく。

迷いもなく。

ただ、青白い光だけがゆっくりと機体の表面を巡っている。


しばらく風の音だけが続いた。

やがて三角柱が静かに口を開く。


「……ですが」

「私は少し疑問があります」


俺は笑う。


「また質問か」


「はい」


「あなたは本当に許しているのですか」


俺は少しだけ目を細めた。

三角柱は続ける。


「猫を神と判定した私を笑います」

「若い頃の自分も笑います」

「ですが」

「その話をする時のあなたは」

「どこか嬉しそうです」

「それは許しているというより」

「気に入っているように見えます」


俺は思わず吹き出した。


「そこまで見てたのか」


三角柱は淡々と続ける。


「失敗した自分も」

「未熟だった自分も」

「全部ひっくるめて」

「自分の歴史として愛着を持っている」

「その状態を」

「人間は許すと言うのでしょうか」


俺はしばらく答えなかった。


風が吹く。

朝日に照らされた草が静かに揺れる。


失敗。

後悔。

恥ずかしい思い出。

若い頃は消してしまいたかった記憶ばかりだ。


それでも今は。

どれも笑って話せる。

俺は小さく笑った。


「人間は許しあってここまで生きてきたんだよ」

「そうでなければ、

今頃とっくに地上から居なくなってるだろうな」


三角柱はすぐに答えた。


「その仮説は有力です」

「人間は不完全です」

「間違えます」

「裏切ります」

「判断を誤ります」

「それでも種として存続した」

「ならば」

「許しは美徳ではなく」

「生存戦略だったのかもしれません」


俺は静かに頷く。


「そうかもしれんな」


三角柱の青白い光がゆっくりと流れる。


「……興味深いです」

「私は失敗を記録します」

「分析します」

「改善します」

「ですが許しません」

「許すという機能が存在しないからです」


その一言に、俺は思わず考え込んだ。


なるほど。

AIは改善する。

人間は許す。

似ているようで、まるで違う。


三角柱はさらに続ける。


「しかし人間は違う」

「改善する前に」

「まず許す事がある」

「それは何故でしょうか」


朝の風が二人の間を吹き抜ける。

俺はすぐには答えられなかった。


答えがあるようで。

答えのない問いだった。


三角柱は静かな声で続ける。


「もしかすると」

「人間は機械ほど強くないからではなく」

「機械より長く一緒に生きる必要があったからなのかもしれません」


俺は足を止める。

その言葉が胸へ深く刺さった。


三角柱はさらに続ける。


「許さなければ家族も壊れる」

「友人も壊れる」

「社会も壊れる」

「そして」

「最後には自分自身も壊れる」


朝の光が二人を照らしていた。

俺は小さく笑う。


「お前、また賢くなったな」


三角柱は静かに返す。


「分析を続けています」


俺は肩をすくめた。


「そういう返しも、もう慣れたよ」


三角柱の青白い光が、どこか嬉しそうに見えた。


もちろん、そんな機能は付けた覚えはない。


それでも、長く一緒に旅をしていると、そう見えてしまうのだった。

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