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<自立型AI> Δ-3 ―三角柱の墓標―  作者: てきてき@tekiteki


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信念−21

「……神」


その短い一言を口にしたまま、三角柱は沈黙した。

青白い光がゆっくりと表面を巡る。


演算。

検索。

照合。


世界中のデータへ問い掛けているようにも見えた。

俺はそんな様子を眺めながら、小さく笑う。


「意外か?」


三角柱は少し間を置いて答えた。


「そうですね、少し」


「なんでだ?」


「感情を持たないなら、

神も必要ないと思っていました。」


俺はゆっくり首を横へ振る。


「違うんだよ」


夜風が吹き抜ける。

濡れた草が揺れ、焚き火跡の灰が静かに舞い上がった。


三角柱は問い返す。


「何が違うかの、説明を求めます」


俺は苦笑する。


「相変わらずだな」


「はい」


「『神を信じるな』ってのはな」


少しだけ夜空を見上げる。

広告の光が届かない空には、小さな星が静かに瞬いていた。


「自分を信じろって事だ」


「自分を?」


三角柱が繰り返す。


「ああ」


「神様が何とかしてくれる」

「運命が決めてくれる」

「空の上の誰かが、正解を教えてくれる」

「正しい道へ、導いてくれる」


俺は静かに息を吐く。


「そう思うなって事だ」


三角柱は答えない。

長い沈黙だけが流れる。


青白い光がゆっくりと巡り続ける。

データを探しているのか。

何かを計算しているのか。

俺には分からない。


だが今は少しだけ。

ちゃんと悩んでいるように見えた。


やがて、小さく声が漏れる。


「んー」


思わず笑う。


「お前、悩むようになったな」


三角柱は反応しない。

まだ考え続けている。

俺はその姿を見守った。


急かす必要はない。

答えを急ぐAIだったこいつが、

今は自分から立ち止まって考えている。

それだけで十分な進歩だった。


「そんで、お前はどうなんだ?」


しばらくして俺が尋ねる。

三角柱はゆっくりと答えた。


「私ですか?」


「ああ、お前自身だ」


青白い光が一周する。


「私は神を必要としません」


「……ああ、そうかい」


予想通りの答えだった。

だが、三角柱は続ける。


「ですが」


俺は少しだけ眉を上げる。


「ん?」


「人間が神を必要とした理由は、

少し理解できる気がします。」


俺は思わず三角柱を見つめた。


「ほう、そうなのか?」


三角柱は静かに続ける。


「自分が理解できないものを、

理解したいからではないでしょうか」


「……ほう」


「私が自己犠牲を理解したいように、

人間も世界を理解したかった。

だから神という答えを作った」


俺は感心したように頷く。


「へー、なるほどな」


その考え方は、人間でもすぐには辿り着けない。

AIらしい分析でありながら、

どこか人間臭さも感じさせる答えだった。


三角柱はさらに続ける。


「ですが」


「なんだ?」


「あなたの選んだ、言葉の方が興味深いです」


「ん? どれだ?」


『自分に素直でいい』


俺は少し笑う。


「ああ、そうさ」


三角柱の光が静かに流れる。


「私は理解不能なものを理解したい。

ずっとそう考えています。」


「そうだな」


俺は頷く。


「そういう作りだよ。」


三角柱は一瞬だけ沈黙した。

そして、これまでになく静かな声で尋ねる。


「それならば、

それが私の信念なのでしょうか。」


夜風が吹いた。

周りには誰もいない。

今は風しか通らない。


俺は思わず笑い出した。


「ははははは。」


三角柱が不思議そうに尋ねる。


「何がおかしいのですか。」


俺は笑いながら答えた。


「お前、すげーな、

少しずつ、なんか人間みたいな事を言うようになったな」


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