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<自立型AI> Δ-3 ―三角柱の墓標―  作者: てきてき@tekiteki


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20/23

第20話 信念−20

「信念。」

三角柱が、その言葉をゆっくりと繰り返した。

青白い光が表面を一周する。

まるで新しい単語を、大切に記録しているようだった。


「……信念。」


俺は静かに頷く。


「ああ。だから不毛なんかじゃない」


夜風が吹き抜ける。

雲の切れ間から覗いた星が、また一つ瞬きを見せた。


三角柱は数秒間、沈黙した。

演算。

照合。

検索。

膨大な情報を処理しているはずなのに、その答えはすぐには返ってこない。

やがて静かな声が響く。


「理解しました。」


俺は苦笑する。


「本当か?わかるのか?」


三角柱は迷いなく答えた。


「いいえ。」


俺は吹き出した。


「ふふふっ……、だろうな」


その返事が妙に嬉しかった。

分からないことを、分からないと言える。


昔のΔ-3なら、無理にでも答えを出そうとしていただろう。

少しだけ成長したじゃないか。

そう思う。


三角柱は続けた。


「ですが」


ほんのわずかに発光が強くなる。


「理解したいと思いました」


少しだけ間が空く。


「……初めて。」


俺は三角柱を見つめた。

顔は無い。

目も無い。

感情を示す筋肉も無い。


それでも今の言葉だけは、どこか真剣だった。

演算結果ではなく。

こいつ自身の意思のように聞こえた。


その言葉に嘘は無かった。

少なくとも。

今のこいつは本気だった。

そう思えた。


俺は思わず笑みを浮かべる。


「いい子だ」


三角柱は何も答えない。

青白い光だけが、静かに明滅を繰り返していた。


自己犠牲。

信念。

友情。

愛情。

理解できないものを。

理解したいと願っている。

それは感情ではないのかもしれない。


だが。

どこか似ている気がした。

俺は肩の力を抜き、小さく笑う。


「まあ、お前には難しいか……。

無理してわからなくてもいいんだ」


三角柱は少しだけ沈黙する。


「……そうでしょうか」


その声は、いつもより少しだけ静かだった。

俺は苦笑しながら続ける。


「お前は自分に素直でいいんだ」


俺は三角柱から目を反らす。


「そうだ、いい話をしてやる」


三角柱はすぐに反応する。


「はい」


そして続けた。


「あてにはしませんが」


「うるせえ!」


思わず笑い声が漏れる。


「ある人は言った。


『AIには感情がない事が、一番素晴らしい事だ』ってな」


夜風が外套の裾を揺らす。

雨はもうほとんど止んでいた。

三角柱は静かに答える。


「感情が無い事が、素晴らしい。

それは理解できま。」


「ほう。」


俺は腕を組む。


「感情は判断を歪めます」

「私にはそれがありません」

「完璧です」


思わず笑ってしまう。


「……ああ、そうかい」


相変わらず、自信だけは満点だ。


三角柱は続ける。


「だから私は私です」


俺は少しだけ空を見上げた。

遠くで雲が流れていく。

昔なら、あの空を見ながら未来を夢見ていた。


人とAIが笑い合う世界を。

今こうして、その夢とは少し違う形で現実になっている。


「そしてな」


俺は静かに続けた。


「その人は続けた」


三角柱の光がゆっくり流れる。


「はい」


「神を信じない事だ」


その言葉を聞いた瞬間。

三角柱の発光が、ほんの一瞬だけ止まった。


「……神」


その短い一言には、今までにない長い演算時間が含まれていた。

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