表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<自立型AI> Δ-3 ―三角柱の墓標―  作者: てきてき@tekiteki


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
17/23

信念−17

 三角柱の青白い光が一瞬だけ強く輝いた。

否定するだろうな。


こいつは。

そういう所だけは、昔から変わらない。


数秒の静寂。

夜風だけが二人の間を吹き抜ける。

やがて、静かな機械音声が返ってきた。


「それを否定します」

「私は単に事実を述べました」

「あなたの心拍数は上昇していました」

「声色も変化していました」


俺は思わず笑う。


「お前は俺の主治医か」


三角柱の光が静かに流れる。


「ですが、その発言をした瞬間のあなたは」

「先程より少し嬉しそうでした」

「だから、少し格好良かったのだと思います」

「私の導いた結果では」


俺は返事をしなかった。

返せなかった。


思わず口元だけが緩んでしまう。

こんな言葉をAIから聞く日が来るなんて、昔の俺なら想像もしなかった。


雨はまだ静かに降っている。

火の消えた焚き火跡からは、まだ微かに熱だけが残っていた。

黒い三角柱は、その横をゆっくりと漂っている。


まるで。

話の続きを待っているみたいに。


俺は小さく息を吐いた。


「じゃぁ、マッケンジーのその後の話をしよう」


三角柱はすぐに反応する。


「はい」


表面を青白い光が一周した。

続きを聞く準備ができた合図だ。


「何故あいつが諦めなかったか」


「薬の開発ですね」


「そうだ」


俺は静かに頷く。


「あいつは、ある病気を治す薬を作っていた」

「そして、その薬がなければ、

彼女は長く生きられなかった」


三角柱は迷いなく答える。


「理解できます」

「動機としては合理的です」


「だろうな」


俺は苦笑する。


「人間らしい」


三角柱はさらに続けた。


「愛する者を救う」

「目的は明確です」

「だから研究に没頭した」

「寝る時間も削った」

「食う時間も削った」

 

自分で、声のトーンが落ちるのを感じた。


「その結果、周りの人間も離れていった」


静かな夜だった。

遠くでは風が崩れた高架道路を鳴らしている。


人の姿はどこにもない。

文明だけが残り、人間だけが少なくなった世界。

そんな荒野で、俺たちは昔話をしていた。


三角柱は静かに答える。


「よくある話のようです」


「そうだな」


俺は小さく笑う。


「人間ってのは冷たいな」

「そして完成した」


三角柱の光がわずかに強くなる。


「薬が」


「ああ、そうとも!、待望のな」


少しだけ間が空く。

三角柱は、その先を予測したのだろう。


「それで、彼女は助かったのですね」


俺は首を横に振る。


「いいや」


その一言だけで。

夜の空気が少しだけ重くなった。


風が吹く。

湿った草が揺れ、焚き火跡の灰が静かに舞い上がる。


「彼女は死んだ」


俺は静かに続けた。


「研究が完成する前にな」


三角柱は沈黙した。

青白い光だけが、ゆっくりと表面を流れていく。


数秒後。

ようやく短い返答が返ってきた。


「なるほど」


俺は空を見上げた。

雲の切れ間から覗いていた星が、また雲へ隠れていく。


「薬が完成したのは」

「彼女が亡くなって十七年後だ」

「完成するには、時間がかかりすぎた」


静かな夜だった。

雨音だけが、ゆっくりと世界を包み込んでいる。


そして。


十七年という数字だけが、妙に重く胸へ残った。


三角柱の表面を青白い光が一周する。

演算開始。

また質問が来る。

俺はそう確信していた。


「……あの、質問があります」


「なんだ」


「何故続けたのですか」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ